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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 神泉 朱之介


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八話・17

 オレリアが言うところの島は、熱海港から中型クルーザーで十分ちょいの場所にあった。


 一周三キロ程度と小さい割に砂浜は綺麗で、中央にあるロッジには発電機もちゃんとあるので冷暖房完備。


 湧き水を貯水して濾した水も蛇口から出るという。


 釣りも出来れば、船で少しいったところに良好なダイビングスポットもある。


 バカンスにはかなり優良な島らしかった。


「おー……なんつつ一か、素晴らしいな」


 そう言って、春輝は軽く背伸びをする。


 陽光も潮風も、昨日とは段違いに気持ちいい。


 ただ、隣にいる倉木はそうでもなさそうだった。


 表情を殺そうとしているんだろうけど、それでもぐったりとした気配が漏れている。


「お前も素直に脱げば良かったのに。

 制服のままじゃ辛いだろ?」


「構わない。

 全然平気だ」


 そうは言っても、声に力がない。


 どう考えても虚勢だった。


 まあ、それも仕方ないけど。


 トランクス型の海水パンツを装着して上半身裸の自分と違って、この太陽の下で長袖の制服は辛いはずだ。


 昨日、家まで歩かされた時にその辛さは十分にこの身が知っている。


 アンナの運転でこの島に着いて、ひとまず荷物を置きにロッジへと入った直後、朱音が渡してくれたのが、今はいている水着だった。


 自分の水着だけじゃなくて、春輝と倉木の二人分、ちゃんと用意していた。


 いつの段階からこの予定を立てていたのか凄い気になる周到さに驚いてから、春輝は水着を持ったまま顔を顰めた。


 試験の間は寝る時以外制服を着ていないといけないと、深閑からのお達しがある。


 それを聞いた朱音はにっこり笑って、こう言った。


『そんな暑苦しい格好を見ているのは不快ですから、着替えて下さい、と、こっちの都合で頼もうと思っているんですけど、どうですか?

 勿論、強制はしませんが』


 一緒にいたオレリアも、その言葉には意見しなかった。


 確かにこの暑いのに黒い執事衣装は見ているだけてうんざりするかもしれない。


 着ている方はうんざりどころじゃないけど。


 そんな申し出があったので、春輝は一も二もなく飛び付いて、こうして涼しい水着姿になれたわけだが……


「やっぱり、倉木も着替えたらどうだ?

 そりゃあ、あんな趣味の悪い水着は着たくないかもしれないが」


「……いい」


「大体、朱音のヤツも何考えてんだか。

 サイズ違いで同じ水着を揃えればいいのに、どうして倉木にはあんなのを用意したんだろうな。

 あいつの趣味か?」


「知るか」


 不機嫌そうに呟く倉木だけど、確かにこいつが知るはずもない。


 朱音が倉木に用意したのは、何故か上半身まで隠すタイプの、たまに子供か爺さんが着ているのを見かけるストライプ柄の水着だった。


 コンセプトは囚人服なのかっていうくらい悪趣味な一品だ。


 それを見た倉木は顔を引きつらせて、制服のままでいいと訴えた。


 朱音も前言通り無理強いはしなかったけど、嫌がらせとしか思えないのは果たして気のせいか。


 ターゲットが自分なら間違いなく嫌がらせなんだろうけど、倉木を相手にそんなことする理由がないっていうのも確かだ。


 相変わらずあいつの真意は読めないなー、と春輝は準備運動をしながら夏の空気を満喫する。


 そしてそこに、


「春輝くん、倉木くん、お待たせしました」


「……フン」


 ロッジの方から聞こえて来た声に、春輝は振り向き……心の底から、この試験に参加出来て良かったと思った。


 いつもより少しはにかんだ笑みを浮かべている朱音は薄い水色のワンピース型の水着を着ていた。


 赤いハイビスカスがいいアクセントになって、大人しいながら健康的な印象で、朱音によく似合っている。


 ……なのに大した感想が出て来ないのは、隣に並ぶオレリアが凄すぎるからだ。


 そりゃあ分かっていた。


 見た目でも分かるし、事故とはいえ何度か密着したこともある。


 だからあいつがただのドリルじゃないことは十分に理解していた。


 けど、こうして水着姿を見ると……まだ認識が甘かったか。


 飾り気のない白のビキニ。


 ただし、トップは胸全体を隠すには明らかに布地が足りて無くて横から下からと溢れ出ているし、ボトムはキュッと吊り上がったハイレグ仕様。


 本当にこいつは素人高校生なのかって訊きたくなるくらい色気に満ちていた。


 朱音だって、決してスタイルは悪くないはず。


 けど、オレリアはあらゆるパーツでそれを量がしている。


 手足の長さや腰の高さは純血の日本人には羨ましすぎるレべルだし、何より、その……肉体的な女らしさというか……


 それにしても、あの胸。


 色々と詰まって溢れて大変なことになっているあの胸は、本当にもうどういうことなんだろうな?


 珍しいことに倉木のヤツもガン見してるし、これはやはり神秘の力が働いているに違いない。


 そし香取情報だとこの神秘の塊以上に大きいという鳳凰寺姉妹はどういうレベルなんだろーか?


 あれか、世界遺産か。


 何はともあれ、これは


「……春輝、くん?

 目がやらしいことになってますよ?」


「はっ!?

 いや違う、大きな誤解が!」


 じとっとした目で睨んできた朱音の言葉で、俄に正気が戻ってきた。


 ヤバイ、つい口走ったけど何も誤解じゃない。


 正しくやらしい気持ちで釘付けになっていたんだから、反論の余地はどこにもない。


 見られていたオレリアは両腕で胸を隠すし。


 なんて勿体ないことを……いや訂正、腕で潰れてまた凄いことになっているから、これはこれでファンタジーが。


 しかし同級生の女子に軽蔑の視線を向けられるのはとても心に痛いので、春輝は自制心を総動員してオレリアから目を離した。


「そ、それにしても随分と時間がかかったな?

 待ちくたびれたぞ。

 なあ、倉木?」


「……僕は別に。

 兵頭と違って、待ち侘びていたわけじゃないからな」


「うぉきたねえ!

 なんだその裏切り!?」


 男ならそこで調子を合わせるのがお約束だっていうのに、倉木は、


『自分、知りませんから。

 関係ないっス』


 と言わんばかりに突き放してくれやがった。


 しかも待ち佗びていたとか言いやがって、いや確かにそわそわと落ち着かなかったけど、言葉はちゃんと状況を汲んで発して貰いたい。


 案の定、突き刺さる視線は鋭さを増して、さらに呆れが混ざる。


 くそう、年頃の男なんだから仕方のないことだっていうのに……


 ただ、それを口に出すとさらに非難が増しそうなので、春輝はぐっと堪えて口を閉ざす。


 沈黙は金だ、薮蛇は御免だ。


 しかし朱音はそれを許さないと言うかのように、僅かに口端を吊り上げて笑い、


「遅くなったのは、日焼け止めのオイルを塗っていたからですよ」


「……それは、えーと……塗り合った、のか……?」


 しかし朱音はゆっくりと首を横に振って夢のような想像を否定、


「アンナさんに頼みました。

 本当なら砂浜に出てから塗ろうと思ったんですけど……春輝くんが発情してしまったら大変ですし」


「待て待てっ、誰が発情するっつーんだ?!

 俺は猿か!?」


「しないんですか?」


「しねぇよ!」

 

「水着を剥ぐような真似も?」


「当たり前だ!」


「でもオイルは塗りたいですよね?」


「当たりまっ……イヤ、ベツニ?」


 自分の発言の迂闊さを悟って誤魔化してみるけど、どーやら無駄らしかった。


 朱音の嬉しそうな目と、オレリアの険を増した目が、もう全てを物語っている。


 ついでに倉木までケダモノを見るような目になっていやがるし。


 四面楚歌か。


 折角モーニングコートにスラックスという呪縛から解き放たれたというのに、だらだらと嫌な汗が止まらない。


 そして犬猿の仲であるはずの二人は、どういうわけだかこっちに視線をロックオンしたまま顔を寄せ合い、


「そういえばグランヴィルさん庶民の海での戯れで、人を砂浜に埋めるというものがあるんですよ。

 勿論、息は出来るように埋めるんですけど」


「ふぅん……それはなかなか面白そうですわね。

 試しにやってみましょう」


「では、とりあえず埋められたままでも息が出来るようにゴムホースを用意しましょうね」


「ああ、確か開発に使ったショベルカーが残っていたはずですわ。

 アンナに操縦を頼むことにしますわね」


 仲良く、殺人計画を


 いや殺されはしないみたいだけど、なんだろう、


 瞬間的な死というか、死に勝るかもしれない恐怖というか、そういった類の災いが降りかかろうとしている。


 この身に。


 他の誰でもなく、自分に。


 暗くて狭くて苦しいトコロで身動き取れずに埋まっている姿を想像して、春輝は……頬を引きつらせて、笑ってみた。


「は、はは……そんな、二人とも……冗談ばっかり言って……」


 それは勿論、言外に『冗談だよね?』という確認を取るメッセージだ。


 春輝は震えそうになる声で、二人に慈悲の心があることを祈りながら、笑って……




 埋められました。


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