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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 神泉 朱之介


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八話・9

「チェックメイト」


「……!?」


 詰みと告げる言葉に、焦りの表情を驚愕色に染め変える。


 そんな英国紳士の様子に、春輝は脱力気味に息を吐いた。


「まさか、お父様っ」


「ハ、ハハ、ちょっと油断しちゃったかな」


「ですがお父様、それはさっきも言いましたわよ……?」


「うっ……今回は、その、違う油断なんだよ。

 油断の種類が違うんだよ」


 そして目の前では金髪貴族の親子劇場が、とても微笑ましくない感じで繰り広げられていた。


 結果として、これでオレリア父との対戦成績は三戦全勝。


 一戦目こそ表情に余裕が感じられたけど、以降はもう大人気ないくらい勝ちにいって、それでも負けるというちょっとばかり格好の悪いところを見せてくれた。


 まだ敗戦のショックを引きずった会話をしている親子を見てから、春輝は欠伸を噛み殺して盤面を見る。


 中盤はオレリア父が優勢……だと向こうサイドは思っていたんだろうけど、こっちは凌げると初めから分かっていたし、襲いかかってくるルークとビショップの波状攻撃を捌きながらナイトをいい位置に移動できたし、最終的にはクィーンを餌にしつつポーンとナイトの連携で無防備なキングを刈り取るという、絵に描いたような完勝だった。


 確かにまあ、オレリアよりは強いけど……正直大差はなかったというか、何回やっても負ける気もしない。


 一戦目が終わった段階でそれが分かったので、実は二戦目をやることになった時にわざと負ける方針でいこうと思ったけど、勝利が目前になったところでグランヴィル親子がとてもはしゃいでいて、なんかそれがムカッときてつい逆転してしまったのが痛かった。


「あー……もうこの辺で、お開きってことでどうっすか?」


 わくわく感も緊張もどこぞへ吹っ飛んだ状態で提案すると、貴族とか紳士とかどこへいったんだろうという勢いでオレリア父は春輝へと振り返り、


「何を言っているんだい、春輝君!

 勝負はまだこれからじゃないか」


「いやー実は俺、もう眠かったりするんですけど」


 ルームメイトの倉木が早起きしているのにつられて、春輝も普段から十時過ぎには寝て六時前に起きるという年寄りもびっくりな生活しているので、もうだいぶ頭がぼんやりしていた。


 こっちがそうだっていうのに、仕事をして疲れているはずのオレリア父は興奮気味に顔を寄せてきて、


「それはあれかい、『こんな激弱中年の相手をするなんて眠たくなっちまうぜ!』って意味なのかい!?」


「なんてことを……庶民の癖に調子に乗りすぎですわよっ!」


「冤罪?!

 冤罪で怒られた!?」


「なら、バックギャモンはどうかな?

 モノポリーは?

 何でも良いが、負けたままだと気持ち良く眠れないから私は勝つよ!

 勝つまでやる!」


「どれだけガキっぽいことを堂々と言ってんだあんたはっ!」


「ちょっと!

 お父様に向かってその口の利き方はなんですのっ?!」


「だああっ、ややこしいからお前まで突っ掛かってくんなよ!」


 一対二で責められる立場の春輝は、もう一々言葉遣いとか今日明日泊めて貰う立場だとか考えていられなくなって、いつもオレリアとやり合う時の感覚で対応する。


 英国紳士はそこらの子供と変わらないことを言い出すし、ドリルは父親絡みだからかいつもより絡んでくるし、こっちは眠いし相手するだけで疲れるし、もう何がなにやらだ。


 春輝は茹だってしまいそうな頭を抱えて、どーやったらこの場を乗り切って安眠を勝ち取ることが出来るんだと悩み……


「よし分かった、それなら趣向を変えよう」


「……はい?」


「お父様……?」


 突然訳の分からないことを言い出したオレリア父に、春輝だけでなく娘の方も疑問の声を上げた。


 趣向を変えるって、そんなことよりこっちは早く寝かせて欲しいんですけどね?


 意気揚々と立ち上がって、応接間のドアへと移動して廊下に向かって何か言い出した紳士の背中に懸命に念を送ってみるけど、全く通じていないようだった。


 口で言っても聞いてくれないから当然の結果なのかもしれないけど。


 この親子は人の言うことをもう少し考慮することを覚えて欲しいと春輝が切に願っていると、昼に出迎えをしてくれた使用人を従えてオレリア父は戻ってきた。


 その手の中には、一本の瓶と、コルク抜き。


「やあ、お待たせ。

 すぐに開けるから、あと少しだけ」


「いやちょっと待った。

 すみませんが、その手に持っているのは……」


「ああ、1917年の『シャトー・ラトゥール』だよ。

 深みのある味で、ラトゥールの中でも好きな年のワインなんだ。

 ディケムの方が好事家には受けがいいんだけど、私は甘すぎると感じてしまって……

 そうか、君やオレリアには甘口のディケムの方が良かったかな?」


「いやそういう問題じゃなくて、」


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