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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 藤守 友


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一話・12

「さてと、次はどこに行きましょうか?」


 食堂から出てすぐにそう切り出した朱音の言葉がやけに遠くに聞こえ、春輝は投げやりに答えた。


「……どこでもいい」


「何よ、気のない返事しちゃって」


 ショッキングな事実を知って半ば放心状態に陥ってしまっているのに、気の利いた返事をしろというのが無茶だ。


 快晴の空は相変わらずなのにテンションゲージは最低に落ち込んでいて、つい『人生ってなんだろう』と考えてしまいたくなる。


「教会……は、とりあえずいいよね。

 第二校舎は最後に職員室に寄るから後回し。

 となると、やっぱり図書館かな……?」


 隣では指折りながら朱音が候補地を挙げていくが、春輝としてはもう学院案内なんてどうでもいい気分なので、当たり前に聞き流す。


 今必要なのはどの施設がどこにあるかという情報ではなくて、心の安寧なのだ。


 天を仰げば、今日は空が高い。


 風も心地良い。


 スカイダイビングしたら気持ちいいかもしれない。


 いっそパラシュート無しもいいかもしれない。


 途中で怖くなって目を閉じたら目覚まし時計が鳴って、いつもの朝が待っていて……なんて展開だったらかなり素敵だ。


 絶対に無理だけど。


「グラウンドは……まあ、いつか。

 見せたいのは『落日の壁影』だけど、美術館に展示されているからいつでもいいような気もするしとなると」


「あっ、藤條さんっ!」


 指折りに朱音が挙げる候補が二桁に達しようとするのを現実逃避しながら傍観していると、不意にどこからか朱音を呼ぶ声が聞こえて来た。


 どこから発せられたのが分からず当てずっぽうで右を向くと、日曜に部活動でもしていたのか、ジャージ姿の女生徒がこちらへと駆け寄ってくる様が見える。


 活発そうなショートヘアの彼女はやや息を荒げて春輝達の傍で止まり、


「良かった、見つかって……ちょっと大変なの!」


「まあ、吉住さん駄目ですよ。

 慌てて走るだなんて、先生に見られたら怒られてしまいますもの」


「それは重々承知していますけど、それどころではなくて」


「何か問題でも起きました?」


 丁寧な、それでいて澱みのない滑らかな口調にギョッとして朱音を見れば、それまで春輝に向けていたのとはまるで別種の、優美な微笑みを浮かべていた。


 優しげで、そこはかとなく頼り甲斐のある余裕が窺える笑み。


 猫を被るどころか二重人格ではないかと疑いたくなる変貌っぷりだ。


 普段なら嫌味の一つでも口にしていたのかもしれない。


 が、今はそんな気力はない上に、弱みを握られていつ暴発させられるか分からない状態なので、沈黙。


 しかしやはり表情のコントロールは難しくやや物言いたげになっていたようで、近寄って来た女生徒はそんな様子に気を引かれたのか、それとも男がいるのが珍しいのか、息を弾ませたままちらちらとこちらを窺い、


「……あの、藤條さん。

 そちらは……」


「彼ですか?

 明日から従育科に編入する生徒、兵頭春輝くんです。

 彼に学内の施設案内をしていたところでした」


 まるで優等生のような発言だが、よくよく思い返せば都は『中等部を首席で卒業した』と話していた気がする。


 つまりここでは、ラベールブロンシュにおいては、藤條朱音は本当に優等生なんだろう。


 昔を知る春輝にとっては驚愕の事実でかなり悪趣味な冗談なのだが……現れた女生徒とのやり取りを見ている内に、そう認めざるを得なくなる。


「それで、吉住さん?

 何か大事な用があるのではないのですか?」


「あっ、そうなの!

 講堂の前で鳳凰寺先輩とウェンナさんが激しく口論していて……」


「……つまり、いつものようにウェンナさんが鳳凰寺先輩に?」


「そう、一方的に。

 今にも飛び掛かりそうな雰囲気だったわ!」


「ふぅ……彼女も仕方ないですね」


 目頭を押さえるように手をやり、やれやれと言わんばかりに肩を落とす。


 そんな仕草をしたくなるような間題でも起きたのかと疑問に思うが、手を下ろして顔を上げだ朱音はこちらへと向き直ったので、春輝はそこで思考を中断する。


「春輝くん、申し訳ありません。

 急な所用が出来てしまいましたので、、少しお待ちいただけますか?

 それともお一人で構内を歩いてみますか?」


 しおらしく、本当に二重人格かと思うくらい優しい声音で訊ねてくる。


 対して春輝は、背筋がざわつくくらい気持ち悪いので勘弁してくれと強く言いたかった。


 それに、演技だっていうのが丸分かりだし。


 その証拠に、吉住と呼んでいた女生徒からは位置的に見えない左の口端が、ほんの少しだけ吊り上がって笑みを作っている。


 恐らく、ギャップのありすぎる態度を見せて楽しんでいるのだ。


 弄ばれる身としてはちっとも楽しくない。


 むしろ腹立たしい。


 けど、それを指摘しても簡単に惚けられるのも分かつている。


 こいつはそういう女だ。


 だからもう投げやり、


「そんじゃ、一人で回ってみる」


「あまり役に立てなくて、本当にごめんなさいね」


「あー気にすんな分かってるからさっさと行ってこい」


 棒読みで、行け、というより追い払うような仕草で手を振ると、ぴくりと朱音の眉が動く。


 跳ね上がるとまではいかない小さな動きだったが、あれは癇に障ったに違いない。


 ほんの少し気が晴れた。


 こっちとは対照的に負の感情を抱いたはずの朱音は、しかしそれをまるで感じさせない微笑みを浮かべ、優雅に一礼までしてみせた。


 そう簡単に剥がれるような安い仮面を付けてはいないらしい。


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