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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 藤守 友


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一話・11

 こうして改めて見ると約七年振りになる朱音は納得出来ないことにかなり綺麗で、それでいて一つ一つの仕草が上品になっていた。


 なのに昔を思わせる意地悪な部分も残っていて、それがちりりと顔を覗かせる度に当時の記憶がフラッシュバックして悪寒が駆け巡る。


 それを悟らせまいと平静を装うが、上手くやれている自信はまるで無い。


 なんせ相手は朱音だ。


 今も物怖じ無く無遠慮にこっちを眺めているが、それだけで心を見透かされているような気分になる。


「でも、春輝が従育科にねぇ。

 意外だけど……でもよく考えたら、そこまで的外れな展開じゃないよね」


「な、何がだ……?」


「今でこそそんな外見だけど、昔はもっとなよっとしていたし……それになんて言っても二年生の時の……」


「いやそんなことよりも気になることがあんだけどよ!」


 これ以上言わせると何かヤバイ内容を口にされそうで、春輝は慌てて遮った。


 どうしてこいつはこうも厄介なのか、神様辺りに問い質したくなる。


 正直なところ、かなり泣きたい。


 しかし泣いても目の前の小悪魔は喜ぶだけだと分かっているので涙は堪え、何か話題はないかと取り繕うように周囲を見回し、そこでふと、あることに気がついた。


「……なあ」


「どうしたの?

 神妙な顔しちゃって」


「いや……俺の気のせいかもしれないんだけどよ。

 なんか妙に注目されてないか?」


 ひそひそと声を抑えて尋ねた通り、気がつけば食堂にいる人間の目は殆ど自分達に向いていた。


 自分達、というか、むしろ自分だけの気もする。


 勘違いならそれでいいのだが……ティーカップを傾けながら、或いは友人らしき人物と談笑しながら、しかし彼女達の意識はこちらに向いているような気がして落ち着かない。


 自分がラベールブロンシュという場を意識してしまっているせいもあるのかもしれないが、それにしたってちらちらと感じる視線は居心地悪い。


 針の筵とはこういうことなのか。


 朱音が笑って『そんなわけないでしょ』と言ってくれれば、春輝も少しは気が楽になったのだが、


「まあ、そうね。

 でも仕方ないんじゃないの?」


 あっさりと、肯定されてしまった。


「あなたって見た目不良っぽいでしょ。

 男ってだけで過剩反応されてもおかしくないんだから、当然といえば当然よ」


「けどよ、共学化してからもう一ヶ月以上経つわけだろ?

 いい加減、慣れていてもいい頃合いなんじゃないか?」


 箱入り娘の彼女等にとって自分みたいな庶民は敬遠すべき存在なのかもしれないけど、同じ学校の生徒なら好奇心も手伝って多少の接触があってもいいはずだ。


 そうでなくとも日常的に同じ空間にいるのだから、一ヶ月も経てば折り合いくらいつけられて、ある程度順応している時期だと思う。


 順応した結果、それでも過剰反応されるくらいの珍獣扱いだとすると……うん、へコむ。


 自分の想像に地味にダメージを受けていると、朱音はピンと立てた右の人差し指をくるくると回して、


「確か、ラベールブロンシュの高等部は三学年合わせて百五十人くらいしかいないのよね。

 その内、従育科の生徒は一年生だけで二十人ちょっとだったかな」


「……何の話だ?」


「その二十数人の中で、男子生徒は、三人だけ。

 上育科の男子はもっと少なくて、たったの一人しかいないのよ」


「……は?」


「だからね、この学院には春輝を含めても五人しか男子生徒がいないの。

 しかもあなたみたいにヤンキー風の生徒はいないから、もうかなりレアってこと」


「……」


 疼きだしたこめかみに右手をあてて、春輝は考える。


 今のは、完全に初耳の内容だ。


 生徒総数の少なさも驚きだが……男子生徒は片手の指の数しかいない?


 本当に?


 まら……


「じゃ、じゃあ男子寮とかどうなってんだ……!?」


「上育科用のはちゃんとあるけど、従育科の男子用を建てるのはちょっと無駄遣いになっちゃうから、ってことで、従育科女子と同じ寮を使っているのよ。

 まあでも、西館と東館で男女は分かれているらしいけどね」


「ちょっと待て!

 それじゃあれか!?

 男子の立場は!」


「うん、かなり悪いのよね。

 最近外で生徒の盗撮写真が出回っているとか、女子の私物が無くなっているとか、そういうのもマイナスに働いていて……でも、苛めとかはないはずよ。

 男相手にどうすればいいのか分からないみたいだから」


 そんなことを言われても気休めにもならず、春輝は呆然とした。


 男子の数が、たったの五人。


 しかも寮は女子と同じ建物。


 おまけに妙な事件のせいで立場も危うい。


 なんだそれ。


「ああ、ちなみに、ね」


「まだ、あるのか?」


「上育科の生徒の大半は、従育科の生徒を同じ人種とは思っていないっていうか、ストレートに言うと見下している子が多いから、理解しておきなさいね?」


「……」


 声に微かな真剣さを含ませて、朱音はちっとも喜べない情報を教えてくれた。


 本当に夢じゃないのか、これ?


 そりゃあ覚悟はしていた。


 元女子校なんだから色々と不都合な点はあるだろうし、従育科という試験的な枠組みに入ることにも不安はあったし、あっさりと決まった編入自体にも『どうなんだそれ』って感じはしていた。


 けど、背水の陣を敷いて退路は既に無く、やるしかないというつもりで今日を迎えたのだ。


 だから後悔はしないつもりだった、のだけれど。


 今、春輝の頭の中は後悔の二文字に埋め尽くされて、大変なことになっていた。


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