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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 藤守 友


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一話・10

「つまらない。

 あなたね、ここは嘘でもいいから顔を真っ赤にして、

『バッ……そ、そんなことあるわけないだろっ?!』

 って感じで慌てふためくシーンじゃない。

 空気読みなさいよ」


「そんな元気どこにも余ってないっての」


「ま、いいけどね。

 あんまり期待はしていなかったから」


 なんて酷い言い草だ。


 それでも、春輝はあまり不快には思わなかった。


 他の相手に言われたのならともかく、相手は朱音だ。


 初めから色々と諦めているので、これくらいの発言で腹を立てていたらきりがない。


 人生諦めは肝心だ。


 たぶん。


 ただし、訊いておきたいことはあるので、そっちはちゃんと聞き出さないと。


「なあ、藤條」


「あ、名前で呼んじゃっていいよ。

 咄嗟に言い間違えられるよりはずっとマシだから」


「……朱音はどうしてこんなところに通ってやがるんだ?

 想像つかなくはないが」


 当時は、小学三年生だった自分は、夏休み中に突然転校した理由など分からなかった。


 クラスの君臨者で時にいじめっ子だった彼女が居なくなったことを嬉しく思い……あと、ほんの少しだけ寂しく感じたような気がしないでもないけど、それが精一杯だったはずだ。


 しかしもう高校生で、おまけに朱音の名字は変わっている。


 ある程度の予測が出来る材料は揃っていた。


 だからなのか、朱音の方も隠すつもりはないらしかった。


 組んだ両手をテーブルの上に置き、ふっと苦笑するように僅かに笑んで、


「まあたぶん、想像通りかな。

 うちって母子家庭だったんだけど、再婚することになってね。

 スピード婚でわたしも驚いたけど、その再婚相手が凄いお金持ちだって知った時はさらに驚いたわよ」


「んで、それ以来ここに通ってんのか?」


「ラベールブロンシュに通い始めたのは中学からね。

 それまでに覚えなきゃいけないことがたくさんあったから、ちょっと準備が必要だったし。

 知ってる?

 中学の入試問題にテーブルマナーに関する出題とかあるのよ?」


「……凄いな、そりゃ」


 半ば呆れてそう返すと、朱音はにんまり笑って身を乗り出し、


「ところで従育科の編入試験って何をやるの?

 どうやって潜り抜けたわけ?

 やっぱり必殺のカンニング、って、そんなことしたら深閑先生に殺されるわね」


「つーかカンニングなんてやりようもねぇよ。

 筆記試験無しで、いきなり料理作らされてしかも試験終了から三十分と待たずに合格通知渡されるし。

 受かっておいてなんだが、何がどうして合格したのかまるで分からねえ」


 話しながら試験の時のことを思い出し、春輝は顔を顰める。


 本当によく分からない出来事だった。


 編入を希望して手続きの為の書類を送ってもらい、届け出をしてから僅か三日後に編入試験が催されることになった。


 あまりの早さに驚きつつ、元より全てを賭けるつもりで編入届けを出したので覚悟を決めて試験に赴けば、恐ろしくでかい正門とスーツの似合わない事務員が待っていた。


 正門には鋼鉄製のドアがあり、それを潜ると通路になっていてしかも途中には空港にあるような金属探査のゲートが設置されていてと、常識では測れないラベールブロンシュに驚かされて、ようやく敷居をまたげればそのメルヘン王国っぷりにまた驚かされて。


 見る物全てが夢物語に出てきそうな光景に感覚が麻痺し、どこをどう歩いて校舎内まで連れていかれたのかもよく覚えていない。


 ただ、試験が実施される部屋の前まで来ると流石に緊張してしまって、一体どんな問題が出されるのかという不安と駄目もとでぶつかる決意とがせめぎ合って……


 そんな状態だったってのに、試験に筆記が無いんだから詐欺に近い。


 なら初めから言っておいて欲しかった。


 試験の連絡があった時に『身一つで来い』というニュアンスの言われ方をした時に気付ければ良かったんだろうが、んなもん分かるか。


 混乱の中で出された課題も意外で、規定通りに料理を作るのに多少の苦労はあったものの、何とかこなすことが出来た。


 そして眼鏡を掛けたメイド服の深閑と名乗る従育科の教師に合格を伝えられ、呆気に取られているうちに編入する日についての話になったのだ。


 あっという間に編入が決まり、今こうしてラベールブロンシュにいる。


 どーにも現実感のないことで、豪華絢爛な雰囲気や目の前にいる朱音のことを含めて、全てが夢の中での出来事なのではないかと思ってしまったりもする。


 ただし、本当に夢の中で朱音が出て来ているというのなら、それは間違いなく悪夢に分類されるもので、一秒でも早く覚めて欲しい。


 そう願って、こっそり腿の辺りを抓っても痛いだけで終わってしまう以上、やっぱり現実なんだろうけど。


 嫌なことを色々と思い出してしまい、どんよりと重くなった肺に溜まっている空気を吐き出して、春輝は改めて向かいの席にいる朱音を見た。


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