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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 神泉 朱之介


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七話・9

「ですから、一番財力と将来性のある殿方と結婚をしようと思っているんですよ。

 そうすればお父様もお母様も無理せず安泰に暮らせますし、お祖父様を高級老人ホームに入れてあげることも出来ますし……」


「いや祖父さんの扱いが……」


「はい?」


「……いや、いいけどよ。

 つまりは、金目当ての結婚をする、と……」


 随分と遠回りして辿り着けたオチに、春輝はため息を漏らす。


 俗っぽいと取られそうな感じもするけど、たぶん家族の為に自分が出来ることを懸命に考えての結論なんたろう。


 裏表無さそうな性格だし、本気で社会不適合な一族っぽいし。


 ……なんというか、夏休み目前で期待に溢れる時期に相応しくない、物凄く重い話を聞かされてしまった気がする。


 でも深刻さより疲労感の方が強いのは何でだろーか?


 ともあれ、マジな話には違いなかった。


「……けど、それなら妹の心配なんてすることないだろ。

 あんたが幸せにしてあげるつもりなんじゃないのか?」


「ええ……ですけど、早苗さんは真っ直ぐな子なので、わたしが結婚をしても従育科を辞めないと思って。

 随分と厳しい授業を行っていると聞いていますし、姉としては不安で……」


「まあ、確かに不安だな。

 色々な意味で。

 いやむしろ全面的に不安ばかりか」


 身近で見てきた姉もフォロー出来ない領域らしく、沙織は哀しそうに深く頷いた。


 何せ相手はあの鳳凰寺だ。


 授業・実習で壊した備品は数知れず、その総額で都内一等地に高級住宅が建てられると評判のハイパードジ娘だ。


「ですから、妹を支えてくれる人が見つかって、これで安心して嫁ぐことが出来ます」


「よし待て、その発言についてちょっとシンキングタイムに突入してみようか」


「はい?

 どうかなさいましたか?」


 惚けたように小首を傾げる上級生に、春輝は聞き間違いないようにゆっくりと、


「……誰が、誰を、支えるんだ?」


「あなたが、早苗さんを、支えます」


 下手な和訳のような言葉が返ってきた。


 ああくそ、想像はしていたけどその通りでも何も嬉しくない。


「どうして俺が鳳凰寺を支える流れになるんだよ?!

 おかしいだろ絶対!」


「おかしくはないですよ。

 ほら、愛がありますから」


「どこにだっ!?」


「目には見えないところなので説明は出来ませんが……でも、大丈夫。

 話をしてみて、あなたが優しい人だということは十分に分かりました。

 どうか早苗さんのことを宜しくお願いします」


 そう言って頭を下げられてしまい、春輝はどうしていいのか分からなくなる。


 何なんだ、この不思議な思考回路は。


 これはたぶん、説得なんて無理だ。


 力押しで何とか有耶無耶にするしかない。


 そう決めて、春輝は強く沙織を睨み、


「俺だって自分のことで一杯一杯なんだ、鳳凰寺の世話まで見ていられない」


「まあ、何とかなりませんか?」


「無理。

 一応は仲間だから出来る範囲は手助けするけど、あの天災級ドジ爆弾のフォローをするなんて、そこまでボランティア精神旺盛じゃないんだよ」


 自分でも酷いことを言っているな、と思いはするけど、表情は変えない。


 ここでちょっとでも退いたら、なし崩しに面倒事を背負わされる予感が絶大だ。


 疼く良心を押さえ込んで、春輝は頑として譲らないことをアピールすべく、沙織を見据えて、気付く。


 あの表情はおかしい。


 残念そうに眉を顰めるでもなく、柳眉を逆立てて怒るでもなくて、何故だかにこにこと笑っていた。


 希望を全力で拒否された人間がする態度じゃない。


 嫌な予感に首筋辺りがちりついて、春輝は搔いて痒みを発散させようとして……挙げた右手を、沙織に両手で包み込むようにして握られた。


「……え?」


 予想外の行動と、白磁のよう麗しい手の冷たくて優しい感触に春輝は戸惑って、


 そこに、性別を問わず誰もが魂を惹かれるような微笑みを至近距離で見てしまい、見事に思考がパンクした。


「勿論、大事な大事な早苗さんの事です。

 ちゃんとお礼はさせて頂きますよ」


 艶やかな唇が淑やかに動くのを呆然と春輝が見ていると、握られている手が引っ張られた。


 そして、そのまま、キャミソールに包まれた沙織の豊かな胸元に引き寄せられた。


 ふみゅに、という反則めいた感触が、


「ぃ!

 なをすてっ!?」


 あまりのことに『何をしているんですか!?』と言おうとして意味不明なことを口走ってしまった。


 春輝は自分の手が視覚的にも触覚的にもえらいことになっている異常事態に半ばパニックになって、微笑んだままの沙織へ叫ぶように問い質す。


「なんっ、何でこんなことを!?

 新手のキャッチセールスか?!」


「ですから、お礼です。

 前払いですよ」


「んな礼の仕方聞いたことねえよっ?!」


「そうですか?

 伝統的な方法を選んだのですけどそれにわたし、自分の体くらいしか誇れるものが無くて」


「いやその使用方法は間違ってるって!!」


 このままではまずいと、春輝は立ち上がると共に手を引き抜こうとして、


「なっ、動かな……!?」


 全力で引っ張ってもびくともしなくて、愕然とする。


 あんなに細くて柔らかな手でハムスターでも包むように持っているように見えるのに、何で動かないんだ。


 岩の間に挟まったんじゃないかと思うくらい微動だにしない。


 受け入れ難い現実に春輝は躍起になって手を引っ張るが、ちっとも効果はなくて、それどころかさらにしっかりと抑え込まれてしまい、


「まあ……積極的ですね?」


「違う、逆っ!

 超消極的な行動取ろうとしてるんだよっ」


「ん……服の上からだと物足りませんか?」


「そんなアピールしてないだろっ?!」


「婚約前に、そんな……でも流されるままに不貞を働くって、ちょっぴり燃えますね?

 それも妹の想い人だなんて……ハーレクイン小説みたいです」


「いやむしろ昼ドラ展開だからっ!

 どろどろなことになるから止めろっての!」


 聞く耳を持たない沙織は照れるように頰を染めて、それがまた綺麗で……って、ときめいている場合じゃない。


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