七話・5
「姉はですね、三年生なんです。
とっても綺麗で、自慢のお姉ちゃんなんですよ」
「あー……確かに恐ろしく美人だな」
追試が終了し、今日はもう授業もHRも無い。
ということで、春輝は鳳凰寺(妹)を引っ張ってきて、場所を食堂に移しての質問タイムを設けさせて貰った。
道すがら聞いた内容と合わせるとかなり色々な新事実が浮上してきたので、確認するように呟いた。
「しかし、驚きだな。
お前、去年まで普通にラベールブロンシュに通ってたってことたよな?」
「はい、そうですよ。
私も姉も幼椎舎からずっとラベールブロンシュに通ってるんです」
「……で、なのにどうして高等部から従育科に転科したんだ?」
メイドに憧れが、というのも無くはないだろうけど、家事が好きだっていうんならあそこまで壊滅的に何も出来ないってことは無いだろうし、それに加えてあのドジっぷりだ。
掃除をすればハリケーンの如く破壊と混乱を招き、ただ走るだけで転び、率先して動こうとすれば裏目に出る。
しかも周囲を巻き込んで。
そして巻き込まれる確率がやたらと高い春輝としては、今からでも大人しく上育科に戻って貰いたいというのが本心だ。
何度となく死を予感させるドジに巻き込まれるのは、本当に勘弁して貰いたい。
淡い期待を抱いて向かいに座る鳳凰寺を見ると、メイド服を着た同級生はどこか恥ずかしそうにテーブルの上でもじもじと指を絡ませて、
「その……ちょっと家が、没落しちゃいまして……」
「……それはまた……ディープな理由ですね……」
突いたところで意外な言葉が出て来て、春輝は頬を引きつらせてしまう。
こいつのことだからどうせ真っ当な理由じゃないんだろうなー、と思ったけど……没落て。
いつの時代に盛んに使われていた単語だ、それは。
もしかしなくても訊いちゃいけないデリケートな部分に触れてしまったんじゃないかとおどおどしていると、鳳凰寺ははにかむように微笑んだ。
「家自体は鎌倉時代から続く祭司の家系で、それなりに名門だったと聞いていますけど……お恥ずかしことにお祖父ちゃんとお父さんが事業に失敗してしまって、さらにお友達に騙されて膨大な借金を抱え込むことになってしまいましてー……それでこう、ぽてんと転がるように、没落を」
「そんな可愛らしいもんじゃないと思うが」
「いいえっ、全然大丈夫です!
確かにお祖父ちゃんもお父さんも無職になって、住み慣れたお家も大好きだったスイスの別荘も全部手放すことになりましたけど、最終的には財産処理で借金は完済出来ましたし、臓器は売らずに済みましたから!」
「だからディープ過ぎるんだよ内容が!」
思わず大声で返して、それから春輝は吐息と共にテンションを落とし、
「それで金の掛からない従育科に入ったのか?
でも、それだとあの……ええと、」
「あ、お姉ちゃんは沙織って名前ですよ」
「その沙織さんは、どうして上育科にいるんだ?」
従育科の生徒がタダで寮に住めて授業を受けられるのは、上育科の生徒が莫大な額を払っているからだと、春輝は聞いていた。
「ラベールブロンシュは進級毎にではなくて、進学毎に一括で学費を納めるようになっているんですよ。
高等部の場合、総額で一億円くらいだったと思います。
お姉ちゃんの高等部に通う間の分は支払済みでしたので」
流石に凄い額だけど、この数ヶ月で鳳凰寺が壊した備品の総額に比べれぱ、それ程高くもないような気がするのがもっと凄い。
「それに加えて、行事や施設の増改築等がある度に寄付金を募りますけど寄付は強制ではないので、素知らぬ顔をしていれば大丈夫です!」
「……意外に遅しいのな、お前」
ぐっと拳を握る鳳凰寺にそう言って、春輝は椅子に深く座り直す。
常識を疑いたくなるくらい何も出来ない奴だとは思っていたけど、お嬢様だったわけか。
しかも鎌倉時代から続く家となると、かなりの家柄なんだろう。
となると、家事どころか普通なら自分でやるようなことも使用人とかに任せっきりだった、ってことも考えられるわけだ。
しかし親や祖父がそこまで壊滅的な失敗をして、おまけに姉は追試を受けていた、ってことは……
「なあ、鳳凰寺よ」
「なんですか?
そんな、改まつて」
「お前、テスト結果どうだった?
赤点は無かったみたいだけど」
「良かったですよ!
何日も徹夜して一生懸命勉強した甲斐があって、なんと最高点は四十二点ですっ。
赤点無しなんて、何年振りかも分かりませんし……努力した甲斐がありました!」
「そうか」
ちなみに春輝は前の学校は平均よりちょっと悪いくらいの成績で、そこそこ勉強して臨んだ期末テストの平均点が六十点台だったりした。
現代社会での痛恨のミスさえなければ八十点台になっていたはず。
その程度の難度だった。
なのに、ギリで赤点を回避するくらいの成績ってことは。
鳳凰寺家の皆さんは、総じて駄目揃いってことか?
「……お前も騙されないように気を付けろよ」
「心配無用ですっ。
誘拐されかけたことは何十回かありましたけど、こうして無事に五体満足ですから!」
「……本当に気を付けろよお前……」
物凄く将来の不安を感じさせてくれる同級生にそう言って、春輝は大きくため息を吐いた。




