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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 神泉 朱之介


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七話・4

 追試は簡単、と聞いていたが、実際に受けてみると確かに楽勝ムードだった。


 そもそも試験自体が易しいレベルで赤点を取る生徒が殆どいない為、病欠した生徒等への救済措置として使われることが多いらしい。


 うっかりミスって追試を受けている春輝の感覚からすると、それでもさらにワンランク簡単な内容になっていて、おかげでかなり助かった。


 ……と、いうのも。


 試験開始直後から、集中しよう、気にしないようにしようと思ってはいるけど……


 どうしても、隣の席の美人に意識が向きそうになる。


 極力見ないようにしているけど、ちょっと問題に詰まってふと顔を上げたらついついそっちを見そうになるし、机と机の間は一メートルくらい空いているのになんか頭がふわつくようないい香りがしてきて、ちっとも集中出来ない。


 お前は集中力が無さすぎるからだ、と倉木には言われそうだけど、春輝としても言い分はある。


 試験中だから喋れないけど、本当は声を大にして言いたい。


 あんなの、気にならない方がおかしいって!


 春輝だって、いくら見たこと無いような美人がすぐ近くにいるからといっても、十分もすれば多少は慣れる。


 けど、ちょっと視界の方で動くものがあったから、なんだろうと思って左を見てみると……


 落としたケシゴムを拾おうと椅子から降りて、無防備に四つん這いになっている姿が。


 それだけならまだしも、何故かすぐに拾えないようで、こっちに向けて突き出された丸いお尻が揺れて、しかも丈が長いスカートが捲れ上がって、それはもう危ういギリギリなところまで見えていた。


 魅惑的なのは、そんな目に見えたものだけじゃない。


「……ふぅ……ぁ……」


「……んっ……ぅん……」


「は……ぁ……もう……」


 ふとした拍子に聞こえてくる、憂いを带びた色っぽい吐息が耳朶に響いて、その度に浮かんでいたはずの時事問題の名称やら単語やらが吹っ飛んでいく。


 おまけに、普通なら注意を浴びせて緊張感を取り戻してくれるはずの試験監督は、熟睡したまま起きやしない。


 役立たずにも程がある理事長だ。


 そんなわけで、真っ当な青少年には辛すぎる状況の中、春輝は何度も自分を見失いそうになりながら、それでも懸命にテスト用紙に食らいついて……


 そしてようやく教室に試験終了のチャイムが響き渡った時、春輝は一気に脱力して机に倒れ伏した。


 長かった……こんなにも長く感じた試験は、たぶん初めてだ。


 それもテスト以外の要素が絡むとなると、間違いなく初めての体験だった。


 それでも、結果的に何とかなった。


 解答は全部埋まって、少なくとも八割方は正解しているはずだ。


 春輝は背伸びをして、達成感と開放感に身を委ね……


「……あ?」


 ふと視界の端にあった、隣の机に置かれている解答用紙に目がいって……そのまま、固まる。


 どの教科かは知らないけども、マークシート方式の解答用紙は、見事に縦一直線で塗り潰されていた。


 あれは……もしかして、伝説の……全然分からないから全部同じ選択肢にしてみましたっていう、小学生がたまに使う技か……?


 真面目に答えたけどたまたま全部同じ選択肢になった、ってことは……無いよな、きっと。


 大して難しくも無い追試にそんな技を使う美女に、春輝はよく分からないけど畏怖のようなものを感じて見入ってしまい……


 視線に気付いたのか、こっちを振り向いた彼女と目が合った。


 それだけでまた息が詰まるくらいの衝撃で、春輝は半ば放心するような形で見返して……


「……あの?」


「え?

 あ、なっ、違、何でもないっ!

 別に用があるとかでもないから!」


 反射的に手をブンブンと横に振って、春輝は自分の顔が真っ赤になっているのを感じて目を逸らす。


 美貌もヤバイけど、彼女を見ていると試験前に見えてしまった胸元の白さや、試験中に見えてしまった黒いレースのあれとか、やたら熱い吐息とか、色々と思い出されてしまって……あああ、これじゃまるで妄想爆発しまくりの香取状態だ。


 違う、自分はあんなじゃない。


 決してそんなはずはない……!


 なんかもう色々と胸の内がごちゃごちゃになって春輝がストレスにやられかけて胃の辺りを押さえていると、不意に教室のドアをノックする音が聞こえてきた。


 何だ、と視線を入り口へと向けると、


「あの、追試はもう終わりましたでしょうかー?」


「鳳凰寺?」


 少しだけ開いたドアから顔を覗かせたのは同じ従育科の鳳凰寺で、春輝は少しだけホッとした。


 窮地で見知った顔が現れるのは、それだけで心強い。


 この際だ、相手が従育科きってのトラブル娘でも関係ない。


 ただ、どうしてここに来たのかが分からない。


 何か従育科関連のメッセージでもあるんだろーかと、春輝は声を掛けようとして……


 その前に、鳳凰寺の視線が自分を越えて固定された。


 そして、


「あら?

 早苗さん……?」


「あっ、お姉ちゃん!

 追試は大丈夫でした?」


 パッと表情を明るくした鳳凰寺は隣席の美女に駆け寄って、何やら親しげに話を……


 と、そこで春輝は重要なキーワードをスルーしそうになっている事に気付いた。


 あんまり予想外なことを言われたからつい認識拒絶しそうになったけど、バッチリ聞こえてしまったので聞き間違いの勘違いってことも無いはずだ。


 だから恐る恐る、口の中で呟いてみる。


「……なあ、鳳凰寺」


 その声に、二人は殆ど同時に振り向いた。


「はい、なんでしょうか?」


「あら、やっぱり何か用事が?」


 その反応で、春輝はやっぱり間違いないらしいと悟る。


「うー……駄目ですよお、聡さん……一郎くんは、二葉くんと出来てるんですからぁ……ああ、でもこのカップリングも……」


 ついでに聞こえてきた都の寝言は聞こえない振りだ。


 春輝は確認がてら二人を交互に指差して、


「あんたら……姉妹なのか?」


 念の為に訊ねてみたところ、返ってきたのは小さな頷きだった。


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