七話・2
落ち込んでいたのと朱音達に捕まっていた時間もあって、春輝が追試の行われる教室に着いたのは試験開始直前だった。
それにしても答案を返されて即日に追試って、普通じゃありえない。
その理由が『面倒なことは早く終わらせて、試験休みにバカンスを!』という一部先生方の意向だというのもありえない。
この学校、生徒だけじゃなくて先生もかなり常識外れだ。
ともあれ、普段は入らない教室が追試会場となっているので、ちょっと緊張する。
けど、ドアにはご丁寧に『追試試験場』と書かれた張り紙があるし、テスト自体は別に難しくもないんだから、そこまでビビる必要はないはずだ。
そう自分に言い聞かせ、春輝はドアを滑らせて教室へと入る。
中は普段使っている教室と似たような広さで、教壇以外にぽつんと二組の机が置かれていた。
その内の一つ、奥の机に見知らぬ女生徒が着席しているのを見て……春輝は、その場で立ち尽くした。
ありえないだろそれ……と思うくらいとんでもない美人が、そこにいた。
小さな細面とやや眦の下がった大きな瞳の組み合わせだけでも見惚れるくらい綺麗なのに、ツンと高い鼻や紅を塗ったように赤い唇も、スッと細く整った眉や髪で半分隠れている耳まで全てが相乗効果を上げていて、危うく呼吸を忘れそうになった。
真っ直ぐに伸びた黒髪は腰より長そうで、しかも絹糸だってここまで綺麗なのはそうそうないんじゃないかってくらい艶やかで見栄えがいい。
それに座っているのにプロのモデルだって羨むくらいスタイルがいいって分かるのは、相当に凄いことのはずだ。
ここに来て以来『良い物食って上品に育てられると容姿まで良くなんのかなー』と思ってしまうくらい、ラベールブロンシュに通う生徒には美人が多いけど……その中でも彼女は、頭一つか二つ飛び抜けている。
正直なところ、性格を抜きにすれば朱音やオレリアだってかなりのものだし、深閑みたいに大人の魅力というかクールな雰囲気がマッチしている美人もいるけどそれでも、単純に誰が一番綺麗かと問われたら、今教室にいる上育科の制服を着た彼女がトップだ。
それくらい輝いて見える。
今まで生きてきてここまでの美人に遭遇したことは無いと断言できるくらいの美貌に、春輝は呆然と見とれてしまい……
と、不意に彼女がこちらを向いた。
「あら?
あなたも追試ですか?」
「っ……そ、そうです」
春輝は思わず敬語で答えて、それからやっぱり彼女に見覚えがないと再確認。
たぶん上級生なんだろう。
ずっと病欠していた可能性も無くはないけど、同じ一年にそんな人がいれば香取辺りが騒いでいるだろうから、その線は薄い。
ともあれ、直視していると体温が上がってしまいそうなくらい美人な彼女は、容姿に以合った優雅な仕種で胸元にかかっていた長い髪を後ろに流し……
「あら、髪が……?」
制服の胸元にあるリボンに引っかかってしまったようで、彼女は何度か軽く髪を引っ張る。
が、リボンの下にあるはずのボタンにでも掛かっているのか、なかなか取れない。
春輝がそれを見ながら、引っかかっているあの黒髪を切ることになるならそれはかなり勿体ないなー、と思っていると、見知らぬ上級生は少し考えるように僅かに首を傾け、
「ふう……」
小さく息を吐いて、おもむろにリボンへと手を伸ばし……
シュッ、と衣擦れの音と共に、胸元のリボンが外れ、
何故か一緒に首から胸にかけてある二つのボタンが外れ、乳白色の胸元が露わに……
「あら?」
「っ?!」
突然のことに、春輝はそこに目が釘付けになる寸前に最大限の力でもって勢いよく視線を逸らした。
事故、事故で仕方のないことだとはいえ、とんでもなく嬉しい役得だけども、見てはダメだ。
一秒に満たない僅かすぎる時間だけど、見えてしまったボリューム満点の胸の谷間は実をむき出しにした白桃のような、なんかこう瑞々しくて引き寄せられる魅惑の果実っていうか……
けど何がどうなればボタンが二つも外れて胸が見えるようなことになるんだ?
どこにそんなトリックが隠されて?
分からないことを必死に考え、春輝は脳内にこびり付く幸せな映像を除去しようとやっきになり、
「……あらあら?」




