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お嬢様たちの恋のバトルが過熱して、結果として色気が出てしまう  作者: 神泉 朱之介


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六話・10

「ただいまー……っと、倉木はまだか」


 寮の自室に戻ってみると、部屋の電気が点いてないのでルームメイトの不在が知れた。


 そういやまだ冷戦状態だったっけかと思い出して、春輝はやれやれと頭を振る。


 問題がそれだけだったらここまで気が重くならずに済むっていうのに。


 結局、リーシャと意思の疎通が出来ずに心を折られるという駄目展開のままどーにもこーにも上手くいかず済し崩しに会話は終了となってしまった。


 自分の不甲斐なさに軽く絶望しつつカフェテラスに戻ると、律儀なことに皆待っていてくれたので会議を再開してみたが、やっぱり良案は出なかった。


 光明が見えたと思った次の瞬間に叩き潰されて、香取が馬鹿なことを言うので地べたに這い蹲らせて、終いにはオレリアが朱音に突っ掛かっていって、それをビビッたななみが泣きそうになって……途中から相談なんてどこかへ消えていたような気もする。


 ただし、それでもヒントは見つかった。


 やっぱりアーフラム教に関して知らないことが多すぎる。


 まずはそこを調べて、あと三日以内に何とか打開策になり得そうな材料を見つけ出すそれが先決だ。


 早速図書館に調べに行きたいところだけど、会議が長引いたのでもう七時になる。


 図書館は閉まるし、夕食の時間も近い。


 それに今日は色々と疲れたから、ゆっくり風呂に浸かって体を解したい。


 部屋にあるユニットバスじゃなくて大浴場の方へ行こうと思いながら、春輝は部屋の明かりを点けようとスイッチに手を掛け、


「……ん?

 おお?」


 パチパチと動かしても明かりが点かない。


 停電……っていう線は、廊下は明かりが点いていたから無いはずだ。


 となると、ブレーカーが落ちたか寿命がきたか。


「こういう時は誰に相談すればいいんだっけかな……?」


 寮監の先生は誰だったかと思い出そうとしながら、とりあえず着替えだけはしてしまおうと、春輝はモーニングコートを脱ぎに掛かる。


 暗くても一ヶ月近く暮らした部屋なので大体の位置は掴んでいる。


 脱いだ上着を皺にならないよう気を付けながら椅子に掛けて、アスコットタイを外して机に置き、ボタンを緩めて、やっと、一息つけた。


「はー……しんどいなぁ」


 今日は色々ありすぎた。


 殺されかけるわ婚姻話を持ち出されるわ、許容範囲をさくっと越えている。


 そこにこの暗闇状態は、張り詰めていた緊張の糸をぷっつり切るだけの安心感があって、春輝は肺に溜まっていた息を吐き出した。


 これから食事と入浴があって、その前に明かりも何とかしなくちゃならない。


 なのに体内のエネルギーは空っぽになっているみたいく、何もする気が起こらない。


 仕方ないのでちょっと休もうと、春輝はベッドに腰掛け、両腕を広げながら後ろ向きに倒れて……


「ん?」


 左腕に、何かくにゅっとした感覚が。


 勘違いとは思えないので、春輝は横目でそちらを見て、暗がりのベッドを凝視する。


 少しずつ闇に慣れた目を凝らしていると、シーツがやや膨らんでいるのが見えた。


 それが見間違いでない証拠に、膨らんでいる部分がのそりと蠢いて……左手を、そっと包み込むように握られた。


「な、え?

 だ、倉木か?

 もしかして、もう帰って……?」


 間違えて倉木のベッドを使ってしまつたのかと慌てながら、春輝はそこから退こうとして、


「っうわ!?」


 不自然な体勢になったところに胸にしがみつかれて、ベッドに倒れ込んでしまった。


 何がどうしてと混乱しかけたところに、視界がさらに暗くなる。


 誰かが覆い被さるようにして乗ったのはすぐに分かった。


 けど重さは頼りなくて、服とシーツを介して伝わってくる感触は柔らかくて、いくら倉木が小柄とはいえ、流石に男って線は有り得ない。


 じゃあ何なんだと、至近距離で暗闇に包まれた顔を凝視して……春輝の思考はストップした。


 よく見えなくても、光量が足りなくて肌色が分からなくても、下手な宝石よりずっと綺麗な印象的な瞳だけですぐに分かる。


 一糸纏わぬ生まれたままの姿のリーシャ・カティアが、そこにいた。


「お、ま……何で……!?」


 胸の上に手を着く形で体を支え自分を見下ろすリーシャに、春輝はそんなことしか言えない。


 昼間以上に状況が吞み込めないというか、何でここに彼女がいるんだ?


 鍵はちゃんと掛けて出たはずなのにどうやって開けて、しかもベッドに潜り込んで、おまけに裸……裸はまずいだろう裸はっ!


 自分が如何にヤバイ状況にいるかをようやく悟った春輝は、なるべく顔から下は見ないようにしてリーシャと顔を合わせる。


 所謂夜這いを仕掛けて来た癖に、幼子のような無垢な表情で、これっぽっちも淫猥さを感じさせない……けど、体にまとわりつく細くてしなやかな感触と青少年の妄想力が加算されると、話は別。


 のっぴきならない状態になってしまう。


 ヤバイ駄目だと理性を搔き集めて、どうしても視線が首筋から鎖骨のラインをなぞるように下がってしまうのを必死に押さえ込んで、


「どうしてこんなことしてんだあんたっ!?

 あれはっ、あの侍女さんは!

 どこ行ったんだよおい止めろよこれっ!」


 叫びながら周囲を凝視するけど、他に人影は見つからない。


 殺されるのは嫌だけど、どうしてここぞという時に邪魔しに来ないんだあの侍女は。


 あんなに難色を示していたっていうのに肝心な時に!


 焦りと苛立ちに強く奥歯を噛んでいると、


「……っ?!」


 そっと頬を撫でられて、春輝は危うく声を漏らすところだった。


 絹のように滑らかで優しい感触だけでも背筋が強張るくらい何とも言えない気持ち良さなのに、暗くてよく見えないから全てが不意打ちになつて、自分でも驚くほどに過敏な反応になっている。


 ヤバイ、このままだとなし崩しで過ちを犯して婚約から逃れられなくなる。


 今も耳の辺りを触られて、それだけで声を出してしまいそうになって、金縛りにあったように体が硬直してしまう。


 微かに鼻の頭にかかる吐息とか服越しにでも徐々に伝わってくる体温とか鼓動とか、視界が利かないだけに破壊力が数割増しになっていて、身悶えそうなくらい肌がざわつく。


 過去に密着する羽目になったオレリアや鳳凰寺と比べれば肉感的に劣るはずなんだけど、そんなことは些事に過ぎないっていうくらい、肌の質感が凶悪だ。


 それに普段は全身を隠している敬虔な信徒だという先入観が余計な刺激になっていて……まずいまずい、このままだと本気でマズイ。


「くっ、の……離れろって……!」


 上に乗っているリーシャの顔がさらに近付いてくるのを春輝は何とか肩を両手で掴んで突き放そうとするが、予想よりもずっと細い骨格に力の入れ具合を量りきれず、密着したままそれ以上の接近を阻むのが精一杯だった。


 ちょっと位置がずれて、あとほんの少し近付けば唇が触れ合いそうな至近距離で、香料でも使っているのかと思うくらい頭をふわつかせる甘い匂いが漂ってきて……ああもう何の拷問なんだろうこれ。


 抵抗するのが億劫になるくらいの執拗な攻撃に春輝は残っている理性を総動員して、


「ここまでする必要、ないだろっ!?

 明日以降にじっくり話し合うとして、とりあえず離れて服を着ろって!

 それにっ、戒律的に結婚する前にこーいうことするのはまずくないのか?!」


 行動に似合わず澄んだ目をしたリーシャを睨み、何とか説得を試みる。


 すると、リーシャは暗闇でも分かるくらい優美な微笑を浮かべ、再度顔を近付けようとしてきましたよ。


 ああくそ、やっぱり効果無かった。


 そうじゃないかとは思ったけど案の定だよ。


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