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灯りを運ぶ人ー山から海ー  作者: 堺大和
潮目の波間
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73/83

休日でかける

朝 港に少しだけ緊張した空気があった

見慣れない顔が一つ

制服ではない

私服

「おはようございます」

少し硬い声

あゆみが振り返る

「おはよう」

高校の後輩だった

「三口汐里と言います

今日はよろしくお願いします」

深く頭を下げる

「そんな硬くならんでええよ」

あゆみが言う

渚は 準備を進めている

「乗るか」

短く言う

船に乗る

少し揺れる

「……結構揺れます」

後輩が言う

「まだマシや」

渚が答える

出航する


最初の島 潮見島に着く

人が集まる

いつもの流れ

「これ 運んでくれる」

あゆみが言う

「はい」

後輩が受け取る

袋は 思ったより重い

少しよろける

「あっ」

手が 少しだけ滑る

あゆみが直ぐに支える

「大丈夫」

短く言う

袋を持ち直す

「すいません」

「気にせんでええ」

そのまま運ぶ

「ありがとうございます」

渚が 後ろからひと言

「落としたら終わりやで」

静かな声 強くもない

でも はっきりしている

少し戸惑う後輩

「……はい」

後輩が もう一袋持ち直す

その手は さっきよりしっかりしていた

まだ慣れていない

あゆみは その様子を見る

何も言わない

時間が押す

「急ぐで」

渚が言う

後輩も息が上がる


遠瀬島

船の時間が長い

後輩は少し黙る

暫くして少し疲れが見える

「大丈夫か」

あゆみが聞く

「大丈夫です」

少しだけ無理している声

「毎回 此れですか」

ぽつりと言う

「そうや」

渚が答える

それだけで 十分だった

全て終える


港に戻る

荷を下ろす

後輩は 少しだけ肩を落とす

「どうやった」

あゆみが聞く

「……思ってたより きついです」

正直な言葉

「でも」

少しの間

「やりがいはあります」

続ける

あゆみは 少しだけ頷く


そのまま事務所に入る

山中が座っている

「座り」

短く言う

後輩は座る

姿勢が固い

「どうや」

山中が聞く

後輩は 少し考える

「大変です」

「でも 必要な仕事だと思いました」

言葉を選びながら話す

山中は 黙って聞く

「続けられるか」

次の問い

少しの沈黙

「……やってみたいです」

はっきり言う

山中は 少しだけ頷く

「分かった」

それだけだった

面接は終わる

外に出る

港は 静かだった

後輩は 少しだけ息を吐く

「ありがとうございました」

あゆみは言う

「どういたしまして」

短く返す

少しだけ 間

「明日 筋肉痛やで」

渚が言う

汐里が 少し笑う

その顔は 朝とは違っていた

あゆみは それを見る

少しだけ 視線を外す

次やな

そう思う

仕事は 続く

少しずつ 形を変えながら



島は人が集まっている

全て いつも通りだった

同じ様に人がいる

同じ様に買う

遅れもない 不足もない

予定通りに進む 予定通りに終わる

船を走らせる 波は穏やかだった

港に戻る 時計を見る

何も起きていない これが一番難しい

ぴったりだった

「珍しいな」

渚が言う

「ですね」

あゆみが答える

荷を下ろす 片付ける

それで終わりだった

事務所に入る

机の上に 帳簿がある

あゆみは それを開く

ページをめくる

数字が並ぶ


日付

数量

売上


指でなぞる 少し前のページ

遅れた日 その記憶がある

さらに前

増やした日 最初の頃 数字が少し違う

増えとるな 小さく思う

渚が 後ろから見る

「どうや」

「少しずつですけど 増えてます」

あゆみが言う

渚は 頷く

「減っとらんだけでもええ」

現実的な言葉

山中が入って来る

「見とるか」

「はい」

あゆみが答える

山中は 帳簿を見る

「安定しとるな」

短く言う

「これが一番難しい」

続ける

あゆみは 少しだけ頷く

「広げる話は?」

あゆみが聞く

山中は 少し考える

「今は まだや」

はっきり言う

「回る事を優先する」

それだけだった

あゆみは 帳簿を閉じる

数字はそこに残る

でも それだけではない

顔が浮かぶ

島の人

場所

それも 一緒にある

外に出る

港は 静かだった 船が 揺れている

何も起きていない

でも 確かに 続けている

それが 仕事だった



朝は いつも通りだった

風も 波も 変わらない

荷を積む 数も いつも通り

「いくで」

渚が言う あゆみは 頷く

船を出す 海は 穏やかだった

最初の島に着く

人がいる

「来たで」

声がかかる

買い物が始まる 流れは 変わらない

名前を呼ぶ

「これでええか」

「ちょうどええ」

同じやり取り

何度も繰り返してきた

最初は 覚えられなかった

一瞬だけ 思い出す

名前も顔も

紙を見て 確認していた

今は違う 顔を見れば分かる

あゆみは 袋を渡す

手が止まらない

それが普通になっていた

会話も同じ 

「寒いな」

「ですね」

短く続く

何も起きない



日曜の朝は 港が静かだった

船は 動かない

音も少ない

「行くか」

渚が言う

「はい」

あゆみは少しだけ 明るい声で返す

今日は休みだった

車に乗る

大橋を渡る 本土に着く

道は 海沿いに続いている


「久しぶりやね 楽しみ」

あゆみが言う


「顔に出とる」

渚が短く返す

あゆみは少しだけ笑う

山道に入る カーブが続く

街にでる

建物が増える

ショッピングモールの看板が見える


「見えてきた」

少しだけ声が

「そやな」

駐車場に入る 車を降りる

人の流れがある

中に入る

温かい空気が ふわっと当たる

外とは別の場所だった

天井が高い

光が均一に落ちてくる

通路は広い

人が流れている

店の前に 色が並ぶ

雑多

音楽が流れている

軽い音

何処を見ても商品が整っている

見やすいな

あゆみは ふと様に思う

手に取りやすい位置

迷わない導線

自然に歩ける

人が止まらない

それも計算されたように見える

少しだけ 立ち止まる

周りを見る

人の流れ

何処かで止まるか

何処かで買うか?

其れが分かる

「みとるな」

渚が言う

「ちょっとだけですよ」

あゆみが答える

「落ち着け」

渚が言う

「はい」

でも少しだけ速い


服の店に入る

色が並ぶ

「これ 可愛いですね」

手に取る

鏡に当てる

「どうですか」

渚に見せる

「似合うんちゃうか」

短い

でも ちゃんと見ている

あゆみは 少しだけ嬉しそうにする

「買います」

直ぐに決める

袋を受け取る

それだけで 少し軽くなる

「ちょっと楽しいですね」

あゆみが言う

素直な声だった

渚が 少しだけ見る

「たまにはな」

短く返す

そのまま歩く


次の店へ

雑貨

手に取る

並べ方を見る

値段を見る

これ 出せるか

ふと 手が止まる

「どうした」

渚が聞く

「これ 島で売れそうかなって」

あゆみが言う

小さな保存容器

軽い

「どうやろな」

渚が手に取る

「年寄りは こういうの使うかな」

「でも 軽いのはええかも」

少しだけ 真面目な顔になる

「値段次第やな」

現実的な言葉

あゆみは 頷く

仕入は無理やけど 参考にはなる


次の店

食糧品売り場

匂いが変わる

棚に商品が並ぶ

「これ よう売れそうやな」

渚が言う

少し大きめのパック

味付け済みの惣菜

「手間かからんしな」


「これ 美味しそう」

あゆみが 商品を手に取る

でも 直ぐに値段を見る 裏を見る

日付も見る 原材料を見る

少しだけ考える

「日持ち短いですね」

冷静に言う

「船やと難しいか」

渚が言う

「でも 似た形ならいけるかもです」

ぽつりと言う

「どうする」

「冷凍か 簡易にするとか」

言いながら少しだけ笑う

「完全に仕事やな」

渚が言う

「休みなんですけどね」

あゆみが返す


これ 最初の頃なら

何も分からんかったやろうな

一瞬止まる

小さく思う

今は違う

持つ場所 見るところ

自然に分かる

あゆみは商品を戻す

そのまま少しだけ笑う

これ船でいけるか 考える

少しだけ顔が変わる

「完全に仕事目線やな」

「最初の頃より ようみとるな」

渚が言う

「ちょっとだけです」

「最初は 何もわかってなかったです」

あゆみが少しだけ考えながら笑う

「今は?」

「少しだけ分かります」

短く答える

渚が 少しだけ頷く

「それでええ」

それだけだった

あゆみは 少しだけ笑う


フードコートに行く

「何にします」

少しだけ迷う

「あれ 食べたいです」

指をさす

注文する

席に座る

食べる

「美味しいですね」

少しだけ素直に言う

暫く 何も考えずに食べる

その後

「これ 島でだせたらいいですけど」

ぽつりと言う

「難しいな」

渚が言う

「このままでは無理や」

「形変えたら いけるかもな」

少しだけ前向きな言葉

あゆみは 頷く

食べ終わる

日用品を少し買う

外に出る

空は 少し曇っている

「楽しかったです」

あゆみが言う

「そら よかった」

渚が言う車に乗る


帰り道

海が見える

港が近づく

見慣れた景色

あゆみは 袋を見る

買ったもの

でも

頭の中には 別の物も残っている

あれ いけるかもな

小さな考え

それを そのまま持ち帰る

山中のカーブを越えてく

静かだった

大橋を渡る 風で揺れている

あゆみは 少しだけ息を吐く

「戻ったな」

渚が言う

「はい」

短く言える

休みが終わる

でも

何も変わっていない わけでもなかった


途中

スマホが鳴った

表示を見る

徹子だった

「もしもし」

「ひさしぶりやな」

少し明るい声

「元気?」

「まあな」

短いやり取り

「そっちはどう?」

「普通や」

それで通じる

少しだけ 間

「仕事 続いとる?」

「続いとるよ」

「そっか」

小さく笑う気配

「こっちもまあまあや」

詳しくは言わない

でも それで分かる

「また帰ったら連絡するわ」

「うん」

それだけだった

通話が切れる

音が戻る

あゆみは 少しだけ空を見る

遠くに 光がある

其々の場所で 続いている

それでよかった


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