仕事始め
年が明けた
海は変わらない
空気だけが 少し澄んでいる
港には いつもの船がある
「おはようございます」
あゆみが言う
「おはよ」
渚が短く返す
山中さんは 事務所から出てくる
「今日からや」
それだけだった
机の上には 書類がある
新しい年度のものではない
だが 形が変わっている
「正式に決まった」
山中さんが言う
「市の委託や」
あゆみは 少しだけ頷く
聞いていた話
でも
言葉にされると 重さが違う
「条件はそのままや」
「六島 週二回相当」
「運行固定 報告あり」
淡々と続く
「やることは変わらん」
山中が言う
「ただ 責任は増えた」
短い言葉
それで十分だった
「いくで」
渚が言う
あゆみは 荷を確認する
正月明け
数は少し落ち着いている
でも 人は待っている
船を出す
最初の島に着く
「おめでとうさん」
声がかかる
「今年もよろしくお願いします」
あゆみが返す
それが 何度も続く
潮見島では すでに動きがある
「また来たな」
「今年も回ります」
短い会話
磯原島は 変わらず静かだった
でも待ってる人はいる
「正月 どうやった」
静かだった それだけだった
新崎島へ向かう
移住者の多い島 少し明るい
「今年も頼むで」
子供らが手を振る
あゆみも 軽く手を上げる
遠瀬島では 変わらない
「来たな」
「来ました」
それで終わる
次 松灯島 少し長く話す
「寒いな」
「ですね」
手が 少し冷たい
大喜波島南港へ向かう 人が集まる
「今年も来るんやな」
「来ます」
あゆみは はっきり言う
それで 十分だった
全て終える
今日は基本新年の挨拶だけ
船に戻る
荷は きれいに減ってる
港に戻る
夕方の光が 少し柔らかい
山中が 外に立っている
「どうや」
「回りました」
あゆみが言う
山中は頷く
「ほな 今年も始まりや」
短い言葉
あゆみは 港の方を見る
同じ海
同じ船
でも
少しだけ 違う
仕事は 続く
今度は 形を持って
止められないものとして
それでも
やることは変わらない
運ぶだけだ
必要なものを
必要な場所へ
その話しは 大喜波島南港で聞いた
「もう少し 奥にも来てもらえないか?」
そうあの大喜波島だ
北側は栄えているが 南側は寂しい港
「さらに奥?」
あゆみが聞き返す
「この先に 小さな港があるんや」
指をさされる
今のルートより 少し外れている
「年寄りもおるしな」
ぽつりと言われる
あゆみは 少しだけ頷く
「検討します」
それだけ答える
船に戻る
その日の運行を終える
港に戻る
荷を下ろす
少し静かになる
「どうした」
山中が聞く
あゆみは 島での話をする
場所
人
状況
話し終えると 少し間があく
「距離は?」
山中が聞く
「今の港から さらに十五分くらいです」
あゆみは答える
渚は答える
「往復で三十分
寄港入れたら もう少しかかります」
短く計算する
「今の時間に入るか?」
山中が聞く
あゆみは 少し黙る
頭の中で ルートをなぞる
きつい 分かってる
「……余裕は ないです」
正直に言う
渚が頷く
「押したら 後の予定全部に響く」
「今でも ギリギリや」
現場の正しい言葉だった
山中は 腕を組む
「契約の範囲は?」
「今の六島 六港までです」
あゆみが答える
「そこは 入っとらん」
山中が言う
静かな 確認だった
「……でも」
あゆみが 少しだけ言葉を出す
「困ってる人はいます」
止めずに言う
山中は 直ぐには答えない
渚も 何も言わない
少しの 間
「行けるか」
山中が聞く
あゆみは 目を上げる
そして
少しだけ 間を置く
「……今のままでは 無理です」
自分で言う
それで はっきりする
渚が 小さく頷く
「増やすなら どこか削る」
「か 人増やす」
選択は 限られている
山中は ゆっくり息を吐く
「今は 安定させる段階や」
静かに言う
「広げるのは その後や」
あゆみは 何も言わない
分かっている
でも
直ぐには納得しきれない
「今回は 見送る」
山中は言う
それで 決まった
あゆみは 小さく頷く
「はい」
短く答える
外に出る
港は 静かだった
船は 揺れている
あゆみは その先を見る
行っていない場所
まだ 届いていない場所
いつか やな
そう思う
今は まだ
線の内側を回す
それが仕事だった
朝 見慣れない車が港に停まっていた
スーツの男性が 外に立っている
「おはようございます」
あゆみが声をかける
「市の担当です」
短い自己紹介
「今日は 同行させてもらいます」
山中が 横から出てくる
「聞いとる」
それだけ言う
渚は 船の準備を進めている
「どうぞ こちらに」
あゆみが言う
担当者は 少しだけ周りを見る
船
荷
静かに頷く
出航する
海は穏やかだった
最初の島へ着く
その日は最初は新崎島
いつもの人たちが集まる
買い物が始まる
担当者は 少し離れてみている
数
流れ
メモを取る
あゆみは いつも通り動く
名前を呼ぶ
袋を渡す
会話は いつも通り
特別な事はしない
「そのままでええ」
山中の言葉を思い出す
「利用者はどれくらいですか」
あゆみに聞く
「今日はこのくらいですが
曜日で変わります」
簡潔に答える
「継続利用者は?」
「ほとんど同じ方です」
担当者は頷く
子供の声が聞こえる
担当者が 少しだけ目を向ける
「若い方もいますね」
「最近 増えてます」
あゆみが答える
販売が終わる
船に戻る
「どうですか」
あゆみが聞く
「ええ そうですね」
短い返事
続いて遠瀬島
時間がかかる
担当者は時計を気にしてる
波
距離
言葉は少ない
着く
待っている人がいる
短いやり取り
「今日は 違う人が来てるな」
一人が言う
「市の人です」
あゆみが答える
「そうか」
それ以上は聞かない
担当者は
それを じっと見ている
全て終えて戻る
海の駅に着く頃には 日が傾いていた
「ありがとうございました」
担当者が言う
「これから書類を見せてください」
場所は 事務所に変わる
机の上に 資料を並べる
運行記録
利用人数
売上
担当者が 一枚ずつ見る
ページをめくる音だけがする
「ここ」
指が止まる
「遅延の記録 ありますね」
「はい」
あゆみが答える
「連絡は」
「各港に 入れています」
「記録は?」
少し間
あゆみは紙を探す
「……まとめは有りますが
個別の記録は簡略です」
正直に言う
担当は 少し考える
「今後は 時刻と連絡先の記録も
残してください」
淡々と指摘した
「はい」
あゆみは 頷く
さらにページをめくる
「全体としては」
少し 間
「機能しています」
短い評価
山中が 軽く頷く
「そうか」
それだけだった
担当者は 資料を閉じる
「継続前提で進めます」
はっきり言う
それで十分だった
外に出る
空は暗くなり始めている
あゆみは 少しだけ息を吐く
「どうやった」
渚が聞く
「見られてました」
短く答える
「そのまま」
渚が言う
「そのままで通るなら それでええ」
あゆみは少しだけ頷く
仕事は変わらない
ただ
見られる側になっただけだった
水曜の運行だった
あの大喜波島の南港
港は小さい
人は いつも通り集まっている
「来たで」
誰かが言う
あゆみは いつも通り荷を下ろす
声をかける
袋を渡す
流れは変わらない
その中に 見覚えのある顔があった
少し離れた場所に立っている
あの話をした人だった
目が合う
軽く頷く
あゆみは 一度だけ視線を外す
仕事を終える
人が少しずつ引く
港に 少しだけ間が出来る
その人が 近づいてくる
「この前の話しな」
先に口を開ける
あゆみは頷く
「すいません」
短く言う
「今のままでは 行けません」
はっきり言う
少しの 間
その人は海を見る
「そうか」
それだけだった
責める様子はない
ただ受け止めている
「もう少し先になります」
あゆみが続ける
「今は
このルートで回すことになってます」
言葉を選ぶ
でも買えない
その人は 小さく頷く
「分かっとる」
短い言葉
「無理したら 続かん」
そう言う
あゆみは 少しだけ顔を上げる
「はい」
それ以上 言葉は出ない
暫く 沈黙が続く
風の音だけがある
「また 頼むわ」
その人は言う
「はい」
あゆみが答える
それで終わる
船に戻る
渚が ロープを持っている
「話したか」
「はい」
「分かってくれました」
短い会話
船を出す
港が 少しだけ遠ざかる
あゆみは 後ろを見る
さっきの場所
小さな港
人がまだ立っている
その姿が 少しだけ残る
外やな
そう思う
線の外
行けない場所
でも消えたわけじゃない
船は 海の駅に戻る
やることは 変わらない
それでも
頭の中に 少しだけ残る
そのまま 残しておく
朝は少し早い
風の音が目が覚める
海が近いからだった
台所に立つ
湯を沸かす
窓の外を見る
港が見える
小さい
静かな場所だった
食事を済ませる
袋を見る
中は少し軽い
あと少しやな
外に出る
道は坂になっている
港に向かう
誰かが もう来ている
「早いな」
「まあな」
短い会話
海を見る
何も来ない
それが普通だった
「今日は行くか」
別の声がする
車の話しだった
「誰の車出す」
「わしでええ」
鍵を取り出す
軽自動車だった
少し古い
でも動く
「何人乗る?」
「四人やな」
それで決まる
それぞれ 袋をもって乗り込む
狭い車内
でも 慣れている
エンジンがかかる
ゆっくり動きだす
坂を下る
道は細い
カーブが多い
スピードは出せない
「今日は何を買う?」
「米と調味料やな」
「わしは薬もや」
それぞれ 必要なものを言う
まとめて買う
それが普通だった
暫く走る
山を抜ける
道が少し広くなる
店が見えてくる
小さなスーパーだった
車を停める
降りる
中に入る
カゴを取る
歩く
品物を見る
値段を見る
必要な分だけ入れる
無駄はない
「これ やすいな」
「こっちの方がええか」
少しだけ話す
レジに並ぶ
袋に詰める
持てる分だけ
車に戻る
積む
少しだけ重くなる
また 走る
同じ道を戻る
港が見えてくる
降りる
其々荷物を持つ
「助かったわ」
「また 頼むわ」
それで終わる
坂を上る
家に戻る
袋の重さが 少し安心になる
でも
毎回できるわけでもない
日によって違う
それが この場所だった
夕方になる
海は変わらない
風が少し強くなる
一日が終わる
特別なことはない
それでも 生活つづいている
更に奥の港の日常




