第595話 スキルを共有する力
聖地マーリンは夜を遥かに凌駕する闇に支配されている。
ナイトビジョンでもないと、まともに前進できないぞ。
「で、どうやって歩くのよ?」
「姉様の言う通りです。わたくしも疑問です」
メサイアもフォルも、外出方法に疑念を抱いていた。という俺も、今のところは何も思い浮かばない。やはり、ここはスイカの出番だな。
「なあ、スイカ。暗闇でも視界が良好になる魔法とかないのか?」
「おかしいですね。サトルさんは“目”をお持ちかと」
「ん、目ぇ?」
――いやまて。そうか、俺には『千里眼』や『ホークアイ』があったな! 発動すれば、闇の中も見れるじゃないか。最近、活躍がないからすっかり忘れていた。
「ちょっとサトル。あんた、便利なスキルがあるじゃない!」
「すまん、失念していた」
「もう、しっかりしてよね。期待しているから」
少し呆れるメサイアだが、直ぐに激励に変わった。俄然やる気がでるってモンだ。
とはいえ、千里眼系スキルを使えるのは俺だけだ。……まあ、スイカは賢者スキルでなにかあるのだろうけど。
どうしたもんかね。
「移植とかコピーとかできないよなぁ」
「サトルさん、それなら大丈夫です」
「マジか、スイカ」
「ええ。あたしのスキルで『千里眼』の効果をパーティに共有することができます」
そりゃすげぇな。
魔法に精通しているリースですらも驚愕しているぞ。
「う、うそー…。スキル自体に干渉する力が存在するなんて……不羈魔法使いって本当に凄いんですね」
エルフ族でも難しいんだろうな。だが、賢者は不可能を可能にする。万物の力だからだ。
【ソウルシェアリング】
【効果】
①対象のスキルを指定する
②そのスキルの効果をパーティおよびギルド単位に共有・適用する
③魔力は通常の三倍消費する
「おぉ、これが! なるほど、共同で使うってことなのですね」
納得するフォルに、俺も同調する。そういうことだとはね。
「よし、スイカ。そのソウルシェアリングで『千里眼』を指定。みんなにも有効にしてくれ」
「了解しました」
瞼を閉じ、右手を俺に向けるスイカ。途端に魔力を感じ、千里眼が指定された。それは一瞬でメサイア、リース、フォルに適用された。
「これが千里眼なのね! どう? リース」
「えっと……はい、外が見えます! メサイアさん、これなら動けますよ!」
二人ともきゃっきゃしていたのだが、フォルは俺を見つめてべったり。お前も外を見ろよ!?
「わたくし、兄様だけを見つめていたいのです……」
「おまえなっ! ちゃんと適応されているか確認しろって」
「ええ、確認しましたよ。そもそも、わたくしの目は特殊でして。なにしろ、聖女ですから!」
そや、右目が青の左目が桃色というオッドアイだ。片方はフォーチュンの瞳のようだけどな。そうか、ヤツの力が働いているのかもしれない。
実は、フォルには見えていたのか。
「そうかい。頼りにしているぞ」
「はいっ。わたくし、兄様の為ならこの身を捧げる覚悟でございますからっ」
だからって、ベタベタしすぎだあああっ!
顔だとか体だとか、いろいろ接触して俺の中の獣がざわついている。目を覚ましたらどうしてくれるんだ。理性を保つのも苦労するぜ。
◆
【聖地マーリン:街中】
千里眼を全員に適用したまま、俺たちは聖地マーリンの中を歩いていく。
当然ながら人の気配なんてない。誰も歩いちゃいない。
住人がいるのかすらも怪しい。
こんな四六時中、極夜みたいな状態ではなぁ……誰も出歩かないわな。スキルがなければ、マジで視界ゼロだし。
だが、今の俺たちは全てが見えている。
「……おぉ。千里眼、ここまでとはね」
「どうだ、メサイア。俺の千里眼、すげーだろ」
「うん。暗闇がウソみたいにハッキリしているわ。やるわね」
思えば、千里眼スキルは数々の場面で活躍していたっけな。今もこうして現役で使えているから万能だな。
改めて千里眼の効果もおさらいしておくか。
【千里眼】
【効果】
対象:自分
見えない場所を見通したり、
透視する能力。視力もアップ。
使用時、回避力が増加する。
「ところで、スイカさん」
「なんでしょう、リースさん」
「お母さんはどこにいるんですか?」
それは俺も気になっていたが、スイカは直ぐに答えた。
「この聖地マーリンの中央部付近にある遺構『アンブローズ』です」
遺構ってことは、ほとんど建物は残っていない土地みたいなものか。
向かっていくと、巨大な遺構が現れた。
……湖だ。
それも、かなり広々とした湖だな。
確かに、わずかにだが太古の建物の柱が残されていた。つまり、湖に沈んだってことか。
「ここがアンブローズ……」
びくっと震えるリースは震えていた。強い闇が俺たちに圧し掛かる。……なんてプレッシャーだ。
確かに、この湖のどこかにスイカの母親の亡霊がいるようだな。
やがて空気が大きく変化した。
「……お母さま」
スイカがぽつりとつぶやいたその瞬間――湖の奥底から現れる大きな気配。……あれが?




