第594話 力が乱れた不羈魔法使い
暗闇のせいでスイカの顔や表情、姿をまるで確認できないが――声は間違いない。
「よ、よう……スイカ。久しぶりだな」
「その声、サトルさんですね。みなさんの気配も感じます」
「そうなんだ。君に用があって来た」
「あたしに、ですか?」
「そうだ。世界の破滅を救う為に協力してほしい」
「なるほど……」
と、スイカは短く返事。少し間があって心配になったが、彼女は続けて「ついてきて」と言った。……ついて来いって、どうやって?
「あ、あのぅ、スイカさん。なにも見えなくてどこへ行けばいいのか――あぅ」
適当に歩いたのか、俺にぶつかるリース。闇雲に動くと危ないぞ。
しかし、こう何も見えないと危険すぎるな。モンスターに襲われたら面倒だぞ。と、いっても俺の場合はオートスキルで迎撃できるが。
「そうですね。さすがに歩行が難しいでしょう。あたしの家に案内しますので、歌声のする方へ来てください」
その手があったか!
しかも、家が近いのか。となると……ここは“聖地マーリン内”ということか。
スイカの歌声を頼りに、俺たちは前へ進む。
それにしても、このハイテンションな歌はなんだ?
どこかで聞いたことのあるような歌だ。それに、この言語もどこかで……?
「ね、ねえ……サトル」
「どうした、メサイア」
「スイカの歌って別の言語よね」
「そうみたいだな。……たぶん、ドイツ語かなぁ」
「どいつ語?」
って、そりゃこの世界にドイツ語が分かる奴なんていないよな。俺も詳しいわけじゃないが……。いや、だが、スイカの歌は明らかにドイツ語だ。わずかだけど聞き取れる。
どうして彼女がドイツ語の歌を?
聞いてみようとする前に、家にたどり着いたらしい。
扉の開く音がして――ようやく明かりを前にした。
「おぉ、光が! 家の中は明かりが許されているのですね」
「ええ、フォルトゥナ様。聖地マーリンは闇に閉ざされていますが、家の中だけは別です」
ようやくスイカの姿が見えた。
以前と変わらない魔法使いの姿。ほとんど全身が黄緑という不思議なビジュアルをしているが、この薄暗い中では黒いローブを羽織る魔法使いにしか見えない。
でも、正確には『賢者』らしい。
スイカは、奥の部屋に案内してくれた。
椅子はなくて地べたに座るようだ。
俺たちは腰掛け、改めてスイカに話した。
「実は、ドワーフの里キララウスで厄介なことになってな」
説明をはじめようとすると、スイカは左手を向けて止めてきた。
「読み取ります」
なにか“力”を感じて、それが魔力であると理解した。もしかして、不羈魔法使いの力か……?
そして、スイカは全てを理解したのか左手を下ろした。
「なにか分かったか?」
「はい。生贄の儀式を阻止したいのですね」
俺含めみんな「おぉ」と口をそろえて驚いた。……さすがだな。
あの一瞬で理解してしまうとは。
確か――『ソウルフォース』だっけ。
「さすがスイカさんです……!」
ぱちぱちと拍手をするリース。まんざらでもないようで、スイカは珍しく照れていた。以前に比べると感情の発露も増えてきたな。うん、そうだ。あのベルよりも表情が豊かになった。
というか、ベルがクールすぎるんだけどな。
「君の力、ソウルフォースで『物』に魂を宿して欲しい。そして、生贄に捧げる」
世界救済のプランを伝えると、スイカは静かに首を横に振る。おい、マジか。その答えは想定外だったぞ。
「どうしてよ。スイカ、あなたならできるでしょ?」
痺れを切らしたかのようにメサイアが言う。しかし、それでもスイカの返答は“ノー”だった。なんてこった。
「な、なぜ?」
今度はフォルも詰め寄る。それから、リースも心配そうに見つめる。すると、スイカは目を伏せ――諦めたかのように理由を話した。
「……聖地マーリンから出られないんです。それに、力も以前に比べて弱くなりました」
「なぜ? 詳しく話してくれ」
「お母さまの亡霊が聖地マーリンを闇で覆ってしまったから……」
母親の亡霊だって?
スイカの母親が聖地マーリンをこんな風にしてしまった、ということなのか。
「続けてくれ」
「あれは……ポウラ撃退後の数日後でした。なぜかソウルフォースに乱れが起きたんですそれからです。聖地マーリンがこのような闇に包まれたのは……」
「あの数日後に? なにがあった?」
だが、スイカは「分からない」と落ち込むだけ。彼女にも分からないことがあるんだな。
俺はリースに視線を向けるが、同じ反応だった。
そんな中でメサイアだけは違った。
「……もしかして」
「なにか思い当たる節があるのか?」
「ええ、サトル。たぶんだけど、ソウルフォースって万物の力でしょ」
「そうだな。火、水、風、地、闇、光などあらゆる自然が源になっている」
――って、なんで俺詳しいんだよ。
いや、思えばバテンカイトス……勇者ユメの相棒がソウルフォースの使い手。もしかしたら、ユメの闇スキルを会得した影響があるかもしれない。
「それって……『花の騎士』に通じない?」
「ん、花の騎士ってフリージアの――そ、そうか!」
あの騎士たちは、それぞれの属性を持つ騎士たちだ。そんな騎士たちの一人に“異変”があった。
つい最近会ったばかりの『グレン』だ。アイツが“女体化”してしまったせいで、均衡が崩れてしまった――というわけか。
「え、それってつまり……ポウラのせいってことですか?」
「正解だ、フォル。ポウラの性転換スキルでグレンが女体化。そのせいで、花の騎士の力が崩れ……ソウルフォースが乱れたってところだろう」
あの騎士たちがそんな重要な存在だったとはな。知らなかった。
更に、聖地マーリンが闇に染まった影響もあるというわけか。
とはいえ、まだ仮説の域は出ないのだが――大体、そんなところだろう。
スイカも割と納得しているようだし、可能性は高い。
「……炎の騎士であるグレン様が女体化を……」
「ポウラを監獄へ護送中にくらったらしい」
「ならば、グレン様の戻さないと」
それがもう無理そうなんだよなぁ。シベリウスの『最後の修行』とやらを強制的に始めるようだし。今更撤回なんて無理だろう。
それに、もう時間もない。あと数時間もすれば世界は破滅する。
「いや、それよりもスイカにソウルフォースの力を使ってもらう方が早い」
「分かりました。では、まずは母を鎮めましょう。せめて、聖地の闇を払えればソウルフォースもマシになりますから」
「協力するさ。世界のため、聖地のために」
いったい、なぜスイカの母親が亡霊化したのかも気になるしな。案内してもらおう。




