第593話 常闇の聖地マーリン
「これで約束は果たされたな、サトル」
グレンを確保できて満足そうに笑うシベリウス。つか、最初から俺の手元に答えがあったとは思わなった。普通に驚いたぞ。
少し前に貰ったボロボロの本が『世界聖書』なるアイテムだったとはな……。装丁の原型すら残っていないし、そんな貴重なものだと思わんだろう、普通。
ともかく、これを使えば転移できるというわけだ。
「助かったよ」
礼を言うと、シベリウスは静かに背を向けて戻っていく。背中で「いいってことよ」と語っているようだった。
相変わらず独特な人だな。
これで依頼は完了だ。
「――で、サトル。ゼルフィナもグレンを連れて行っちゃったし、どうする?」
美しい赤色の瞳が俺を見つめていた。
メサイアは腕を組み、俺の言葉を待つ。リースもフォルも。
「もちろん、直ぐに聖地マーリンへ向かう」
その為には、リースに世界聖書を読み解いてもらう。
空気を察したリースは、世界聖書を手にして聖地マーリンの項目を探していた。
「えっとですね……あ、ありました!」
全ページ古代エルフ語で読めないが、翻訳すると『聖地マーリンへの帰還』らしい。発動する方法は世界聖書に魔力を込めればいいようだ。
となると、この本の所有者はリースがいいだろう。
「お願いしますね、リース」
「ま、任せて……フォルちゃん」
リースは妙に緊張している様子だ。
世界聖書なる神器相当のアイテムを初めて使うのだから、焦るのも当然か。
震えている彼女の手をフォルが握る。
「大丈夫です。上手くいきます」
「ありがとう。がんばるねっ」
フォルの励ましのおかげか、リースの緊張は解れていた。これなら大丈夫そうだな。
しばらくすると世界聖書の反応が現れた。リースの魔力に反応しているらしく、白く輝いている。
……なんだか神々しいな!
「いけそうか?」
「はい、サトルさん。直ぐに転移できます!」
「よし! じゃあ、しゅっぱ――」
その瞬間、ぎゅいいいいいぃぃんと光に包まれていた。って、うぉい! 心の準備がまったくてきていないぞ!?
「うあああああああああああ!?」
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なにも見えない。ここは……聖地マーリンなのか?
漆黒すぎて、俺は今どこかに埋もれているのかと思った。でも、そんな感じもしなかった。……体が動く。手も足も自由が利く。となると……どこなんだ、ここ?
「お、おい。みんな無事か?」
「ちょ! サトル、どこ触ってるのよ!」
べちんと叩かれた。この声はメサイアだ。目の前にいるらしい。……って、俺はメサイアのどこを触ったんだ? すげぇ柔らかかったけど。
「な、なにも見えません……!」
耳元でリースの可愛い声が囁く。……うぉ、たまらん。
「兄様どこですかぁ!?」
俺の背後にフォルの声。そうだ、みんなの声は聞こえている。気配も感じる。なのに見えないとはどうなっている。
どうやら、俺だけでなくてみんなも同じ現象に陥っているようだ。
まさか、聖地マーリンは視界が強制的に遮断される場所なのか……?
なにかの魔法なのか。
それとも、マジで真っ暗なのか。
試してみるか。
「リース。たいまつを頼む」
「わ、わかりました……!」
魔法スキルを発動し、人差し指に“火”を灯すリース。
すると、わずかにだが視界を取り戻した。
なんとリースの灯りの部分だけ見えるようになったんだ。それでも周囲は暗黒空間。とんでもなく深淵だ。
そんな異常をメサイアも感じ取ったらしく。
「ねえ、どうなってるのよ、サトル」
「さ、さあ……? 聖地マーリンは今、夜なんじゃね?」
「それにしたって暗すぎじゃない? 月明りすらないなんて……」
新月の夜でもなさそうだ。それ以上の闇が広がっているようだな。すごく奇妙だ。
「とりあえず、もっと灯りが必要だな。メサイア、たいまつでも作れるか?」
「建築スキルで一発よ」
木材、布、動物の油を合成し、たいまつを作り上げた。よし、あとはリースに着火してもらうだけだ。
たいまつに火をつけてもらい、これで更に明るさが増した。
「おぉ、かなり視界良好です!」
ようやくフォルの顔が見えた。メサイアとリースの姿も確認できて一安心だ。どうやら、本当に暗闇の中らしい。それも、普通の闇ではない。
奈落の底のような世界だ。
聖地マーリンではなにか異変が起きているのか?
向かおうにも闇すぎて先へ進めないし、困ったぞ。
「どこへ向かえばいいんだ……」
「朝まで待つ?」
「それもアリだが、メサイアよ」
「なによ」
「世界の破滅まで時間がないんだ。悠長なことは言っていられないぞ」
「それはそうだけど、こんな真っ暗闇ではどうしようもないわ」
だけど、このどこかのスイカがいるはずなんだ。きっと、どこかに。
その時、リースが落ち着かなさそうに周囲を見渡していた。なにか気配を感じ取っているようだな。
「……っ」
「どうした、リース」
「いえ、あの……。スイカさんがいるような気がして」
「え?」
もしかして、結構近くにいるのか?
俺も探ろうとしたのだが、その瞬間にはまた光を奪われた。たいまつを破壊されたんだ。……何事!?
「……この常闇に光は危険。って、みんなどうして……」
この声はスイカ!
やっぱり、この聖地マーリンにいたんだな!




