第592話 古代エルフ語で書かれたボロボロの本
直ぐにガルガンチュア島から転移し、エルフの里カムランに到着。
キャメルフォード通りへ向かい、ゼルフィナところへ向かうのだが――あ、そういえば居場所を聞いていないぞ。
「赤レンガの家って聞いたわ」
「え、そうなのか、メサイア」
「ええ。忘れていると思って、立つ前にゼルフィナに聞いておいたの」
なるほどね。ありがたい。
おかげで居場所が直ぐに判明した。
赤レンガの家は一軒しかない
「あそこですね~!」
リースが指さす方向。そこにゼルフィナの家らしき建物があった。
なかなか立派というか、屋敷みたいな外観だな。
アイツが一人で住んでいるには豪華すぎるような。……まあいいか。
俺たちは敷地の中へ。
玄関の扉をノック。すると中からゼルフィナが姿を現して「中に入れ」と短く言葉を口にした。
俺たちは指示通りについていく。
広々としたリビングに到着し、ソファに腰掛けた。テーブルでけぇな。
「依頼通り、グレンを連れてきた」
「姿が見えないが?」
どういうことだ、サトル――と言いたげな鋭い視線だ。分かっている。俺はメサイアに目配せして合図を送った。
「私のスキルで閉じ込めているの。解放するわ」
指を鳴らし、女神スキル『ホワイト』を発動。白い靄の中から女体化グレンがテーブルの上に放り出された。仰向けで。
「――ぐあっ!?」
なにが起きたのか分からないのか、グレンは混乱していた。当然か。
「よ、グレン」
「サ、サトル! お前、おれに何をした!?」
「俺じゃない。メサイアさ」
「……ぐ、ぬ。女神メサイア様がそんなことするわけなかろう!」
ほう、一応そういうところはシッカリしているんだな。今やメサイアは、花の都フリージアの女神。ミクトランの娘であることも周知だろう。花の騎士なら知っていてもおかしくない。
だから信じたくないわけだ。だが、事実だ。
「依頼通りだな、サトル」
「ああ、ゼルフィナ。これでシベリウスの居場所を教えてくれるんだな」
「もちろんだ。この家にいるんだがな」
「マジかよ……!」
すると、二階へ続く階段から気配がした。誰か降りてくる。……いや、この独特な魔力は間違いない。
「し、師匠ォ!」
真っ先にグレンが叫ぶ。めちゃくちゃ嫌そうに。
そして、シベリウスは姿を現した。エルフ族の伝統的な衣装姿で。
さすがに家の中では鎧姿ではないか。
「この馬鹿タレ!」
「……ぐぅ」
「よりによってポウラの技を受け、女体化するなど……恥だ! プロメテウス伯もさぞ嘆いておられるだろう」
怒りを滲ませるシベリウスは、次第に呆れた。ため息交じりで失望している。ダメ弟子を前に完全に嘆いている状況だ。
「お久しぶりですね、シベリウスさん」
「おぉ、聖女フォルトゥナ様か。それに、リース」
同族のリースに対し、優しい瞳を向けるシベリウス。まるで孫娘を見るかのような、そんな瞳だった。
「ど、どうもです」
「うむ。無病息災で何よりだ」
どうやら、女性に対しては優しいらしい。といっても、グレンも今は女だが。
「……さて。依頼は完遂された。サトルよ、なにが聞きたい?」
「あ、ああ。その事なんだが、スイカを探している。聖地マーリンにいるはずなんだが、徒歩じゃ間に合わない。転移の方法とかないか?」
「不羈魔法使いスイカか」
「そうだ。そのスイカだ! 世界の破滅を救う為に探している」
事情を簡潔に話すとシベリウスもゼルフィナも、そしてグレンでさえ驚いていた。そりゃ、そうだよな。あと少しで世界が破滅するなんて聞かされては。
モノを生贄に捧げるだなんて発想も馬鹿げている。
だけど、今はそれしか手段がない。
「よかろう。サトル、お主にはアヴァロンとカムランを救ってもらった恩があるからな」
「じゃあ、方法を教えてくれるんだな!」
「その前に、ゼルフィナ。グレンを拘束し、牢に閉じ込めておけ」
指示に従うゼルフィナは、グレンを鎖で巻き付けた。……そんなもの用意していたとは。
「ぎゃあああああ! やめろ! おれを殺す気か!?」
大音量で絶叫するグレン。そんなにシベリウスの修行が嫌なのかよ……。
つか、近所迷惑だから叫ぶなって。
見かねたのか、メサイアが止めに入る。
「ちょっと、グレンをどうする気よ?」
「さあ、知らん」
と、シンプルに答えるゼルフィナは、グレンを担いでどこかへ行ってしまった。……お、おいおい。大丈夫なのか。
でも、最後の修行とやらを進めるんだろうな。
世界の為だ、すまんな……グレン。
「あ、あのぅ……サトルさん」
「ん? どうした、リース」
「グレンさん、大丈夫でしょうか……」
「きっと大丈夫だ。そうだろう、シベリウス」
シベリウスに聞いても答えなかった。
今回は“本気”らしいな。
これ以上の言及は避けておくか。
それよりも、聖地マーリンへ行く方法だ。
「サトル。お前はもう“答え”を持っている」
「……は? シベリウス、それってどういう意味だよ」
俺が答えを持っている? 意味がわからない。知っているなら、とっくに寄り道せず、ストレートに聖地マーリンを目指してるってーの。
分からないから、こんな苦労しているんだぞ。
「やれやれ。以前、お前に『ボロボロの本』を渡したはず」
「ん……あ!」
言われてみれば、シベリウスからエルフ語で書かれたボロボロの本をもらったっけ。まさか!
俺は急いでメサイアに頼んで『ボロボロの本』をホワイトの中から出してもらった。
「はい、これ。こんなボロボロの本になんの意味が?」
「これをリースに読ませる」
「へ?」
みんな『?』状態だが、俺はリースに翻訳してもらうことに。
「えっと……わっ! これって『世界聖書』じゃないですか!」
悲鳴にもにた声を上げるリース。
せ、世界聖書?
「どういう意味よ、リース」
「は、はい。メサイアさん……この本は世界で一冊しかない貴重な本なんです。しかも、古代エルフ語で書かれているんですが、現存していたとは……」
そんなに貴重なものだったのか。シベリウスが大事そうに読んでいたが、そんなスゲェもんを貰っていたとはな。
「へえ、リース。その中身はなにが書かれているのですか?」
興味深そうにするフォルは、本を覗き込む。俺も気になってページを見てみるが――なんだこりゃ。もはや、これは文字なのかすら分からん。
鏡文字の古代バビロニア語も意味分からんが、これも異常すぎる。
「宇宙や世界の全てです。でも、そこは重要じゃなくて……各聖地への“帰還権限”があるようです」
「なにっ!? それってつまり!」
「はい、サトルさん。この『世界聖書』があれば、各聖地へ飛べます」
な、なんだってぇ!?
まさかシベリウスからもらったボロボロの本がとんでもないレアアイテムだったとはな。これで聖地マーリンへ行けるってことだな。




