第590話 変わり果てた紅蓮の騎士
グレンは、恐らく俺の作った島にいるはず。不在ならアーカム家へ帰っているかもしれないが。ともかく、いったん島へ戻ってみるか。
丁度このカムランには、メサイアの設置した転移ゲートがある。
ゼルフィナと別れ、俺たちはゲートへ向かった。今も機能しているようで、人の出入りも多いようだ。
「さすが、私ね!」
「ああ、メサイア。お前の功績だ」
褒めつつも、ゲートを潜る。この先は島に繋がっているはず。
【ガルガンチュア島】
そうそう、俺の島に名をつけた。その名も『ガルガンチュア』だ。……特に意味はないッ!
「久しぶりに島へ戻ってきましたね!」
俺の右腕に頬をスリスリするフォルは、弾んだ声で喜ぶ。絶対、帰還の喜びではないな、これ。
「モンスターに襲われた様子もないわね。平和そのもの」
漆黒の髪を風で揺らしながら、周囲を見渡すメサイアは上機嫌だ。たぶん、本音はカジノが無事で安堵しているんだろうな。
「もう夜ですね、サトルさん」
もう逢魔が時。月がポツンと輝きはじめ、闇を知らせている。そろそろ帰宅としたいところだが、世界の破滅が迫っている。
のびのびスローライフを満喫している場合ではないな。
「すまないが、みんな。飯は簡単なもので済ませるぞ」
「「「えぇ……」」」
全員、嫌そうな顔ッ!
そりゃ俺だって美味いもんを食っておきたいさ。世界の破滅も目前だしな。でも、悠長に食っている場合でもないだろ?
「その辺の屋台でタコス買って、食いながらいくぞ」
どうやら、今日は『聖ロバート祭』らしく、屋台がズラリ。……なんの祭りだよ。
「ほお、聖ロバート祭ですか!」
「知っているのか、フォル」
「もちろんです。フリージアの聖女ですから!」
えっへんと胸を張るフォル。詳細が気になるようで、リースが聞き返した。
「どういうお祭りなのですか?」
「良い質問ですね、リース。聖ロバートはレメディオス教会の聖人です。偉大な神父様だったのですよ」
「へえ~。その方を讃える為のお祭りなのですね」
「そういうことです」
ほーん、俺は内容までは知らなかったな。
おかげで屋台で食料を調達できるのでありがたいが。
今回は緊急につき、俺のへそくりで支払うことに。
俺はタコスを売っているおっちゃんに注文し、人数分を購入。みんなに手渡していく。
「ほら、これが夕食だ」
「へえ、珍しい食べ物ね。サンドイッチみたいな」
大体間違っているけど、遠い親戚みたいなものだ。ちなみに、クレープの生地に肉や野菜がたっぷり盛り付けられている料理だ。
贅沢なほどふんだんに肉と野菜が挟まっている。実に美味そうだ。
真っ先にメサイアがタコスを口にした。
「う~ん! ちょっとピリ辛で美味しいわね!」
「ほら、ラムネの瓶」
「飲み物まで買ってくれるなんて、気が利くわね、サトル」
「腹が減ってはなんとやらさ」
偶然、近くにラムネの瓶を販売している屋台があったんだけどね。
そして、気づけば花火なんて上がっていた。
たまやー…じゃなくて、これでは本当にお祭りだな。
聖ロバート祭ってこんな賑やかなんだな。しかもなんで日本の祭りなんだよ。
謎が深まるばかりだが、タコスは美味かった。
フォルとリースも気に入ったのか、モグモグと小動物のように味わっている。
すっかり夜になり、聖ロバート祭も盛り上がっている。こんなに大盛況だとはな。人混みも凄いことになっている。花の都ネオフリージアから多くの人が来ているんだろうな。
「浴衣の人が多いですね~」
瞳を輝かせるリース。ああいう服を着てみたいのだろうか。
「世界の破滅を止めたら改めて祭りに参加しよう」
「そ、そうですよね。今は楽しんでいる場合ではありませんもんね」
リースは妙に肩を落とす。本当は自由に楽しんでもらいたいところだが、タコスを食ったらグレンを探さねば。
あの男を連れ出し、カムランにいるゼルフィナに引き渡す。でないと、スイカを探せない。
そう改めて考えていると――人混みの中から慌ただしく動く女性がいた。ワインレッドの髪色をした妙に見覚えのある騎士。
「これも! これも! これもだ!」
凄い量を屋台で買い込んでいるな。
「……あれ。あの赤髪の女性騎士さん、どこかで……」
「フォルも覚えがあるか?」
「ええ。でも、女性ではなかったような」
そうなんだよな。あんな美少女なら忘れるはずが――って、こっちに来たぞ。
「やけ食いだあああああああああ!」
「!?」
ぴょんと飛び跳ねて俺の前に着地する赤髪の騎士。ポニーテールを激しく揺らし、なぜか涙目。……可愛いな。
いや、だけど俺の本能が悟った。
この女性は……なにかおかしいと。
な、なんだこの違和感。
「それ誰よ?」
不思議そうに俺と赤髪の騎士を見つめるメサイア。そんな浮気の現場みたいな視線を向けないでくれ。
「知らん。でも、なんとなく覚えがある」
「は? 事と次第によっては……」
「馬鹿落ち着け! 死神オーラを出すな!」
「じゃあ、誰よ」
そこが問題だ。俺は改めて赤髪の騎士に訊ねた。
「あなたはいったい?」
「……サトル! おれだ。おれなんだよ!!」
「新手のオレオレ詐欺か?」
「ちゃうわい! おれだよ。グレンなんだよ!」
「へ……」
「「「えええッ!?!?!?」」」
メサイアたちも一斉に驚く。それもそのはず。
本来のグレンは“男”なんだからな。
でも、今目の前にいるグレン・アーカムは“女”だった。しかも、すっげー美人。チャルチといい勝負だぞ。
「ど、どうしたのですか、その姿……!」
「よくぞ聞いてくれました、聖女フォルトゥナ様。実は――」
グレンによればこうだ。
ミクトランの命令で、かつてエルフの里カムランを支配していたポウラを拘束。
大監獄ヘルヘイムへ護送した……のだが、ポウラが抵抗。性転換スキル『ペルソナ・ノン・グラータ』を食らってしまい、グレンは男から女になったという。
そうか、ゼルフィナが言っていたっけな……!
ポウラは大監獄へ収監されたって。
その時の護衛がグレンだったというわけか。
なんたる悲劇!
「お前、本当にあのグレンなんだな」
「そう言っているだろう! こんな凹凸の激しい体になってしまうとは……」
悲しみに暮れるグレン。――いや、まて……すっげー美女なんだけど。普通に羨ましいレベルの容姿だぞ。もともとグレンは、イケメンだったからな。要素が反映されたってことか。
「そんな……ポウラのスキルを……」
「そうなんです。リースさん。おかげでヤケ食いしていたところです」
それで屋台で食い物を爆買いしていたのかよ。せっかくスタイル抜群なんだから、もったいないと思うけどな。
ともかく、これでグレンは発見できた。女になっちまったけどな。でも、グレンに変わりはない。カムランに連れていくか。




