第586話 占星術師、現る
無事に優勝すると、記念アイテムとして『トゥルースルーペ』を入手。
なんだ、この“虫眼鏡”は。
なんの役に立つんだ……?
「腕相撲の優勝賞品て、そんなものなの?」
「みたいだな、メサイア。苦労した割には……いや、これをクシナに渡せばいいはずだ」
「そうね。彼女との交換条件だっけ」
その通り。たぶん、里長の家にいるはずだ。
俺たちは会場を去ろうとしたのだが、見覚えのある顔がそこにいた。クシナだ。
「優勝おめでとう、サトル」
「なんだ、見ていたのか」
「うむ。最初からずっと見させてもらった」
「そうか。ほら、優勝賞品の『トゥルースルーペ』だ」
手渡すと、クシナは素直に受け取った。
「ありがとう。これで妾は占星術師としての力を発揮できる」
「……な、なにっ!?」
「すまぬすまぬ。騙すつもりはなかったのだが、妾こそが“占星術師”なのだ」
マジかよ!!
俺以外のみんなも同じように驚いた。
クシナが占星術師だったのかよ。
ドワーフ族にはいないって言っていたような。でも、彼女は美人でちょっと特別っぽいしな。普通の人たちとは何か違うのかもしれない。
それとまさか、このアイテムを手に入れる為に、俺を出場させたのか。……なるほどね。
「そういうことなのですね。考えましたね、クシナさん」
「ありがとうございます、聖女フォルトゥナ様」
「おや、わたくしのことをご存じで?」
「ええ。貴女の名はこの辺境のドワーフの里まで轟いておりますから」
メサイアと同じく、有名ってことか。
いや、そもそもバテンカイトス教と対立しているから、知っていてもおかしくないな。
ともあれ、これで碑文が読み解けるというわけだ。
「あたしたち、クシナさんの掌で踊らされていたわけですね……」
「その通りだ、リース。だけど、世界は救えるぞ」
「そ、そうですよね。ポジティブに考えましょう!」
そうだ。今は儀式を止める方が最優先だ。
俺は改めて、不思議なルーペを握りしめるクシナに向き直る。
「暗号を解いてくれ」
「もちろん。妾もあの先を読みたいと思っていた」
「そうなのか」
「単純な好奇心でな」
そういうことね。そもそも、世界の破滅を止めないと全員お陀仏。今世界の運命はクシナに掛かっていると言っても過言ではないのだ。
さっそく里長の家に戻った。
クシナはトゥルースルーペを使い、碑文を読み解いていく。
あの鏡文字の古代バビロニア語をスラスラと読んでいた。
「どうだ?」
「うむ。分かったぞ」
③生贄の儀式 確率0.1%
聖女を生贄に捧げないと三日後に世界が破滅する! 聖女を生贄に捧げよ。拒否する場合、とりあえず『死神の使者デスサイズ』を召喚する。
儀式を止めたい場合、三日以内に――愛する者を生贄に捧げよ。魂と引き換えに、この儀式は無効化され、世界の破滅が回避される。
「あ、愛する者を生贄に捧げる!?」
俺は思わず叫ぶ。
「な、なによそれ!」
今度はメサイアも叫ぶ。
「そ、そんなの残酷すぎです……」
涙目になるリースは、こんなの信じられないと頭を抱える。
「生贄の儀式って、そういうことですか。やはり、聖女を生贄にするしかないようですね」
フォルは呆れながら憤慨する。
「面倒な儀式だねー」
飄々としながらも反応するベル。落ち着いている。
そして、最後にベイリンだが。
「…………愛する者」
「なんで俺を見る!?」
おいヤメロ! 俺とベイリンの婆さんは愛し合ってなんていないぞ!! つーか、吐く!
「どうするのよ、サトル。これじゃあ、生贄の儀式するしかないじゃない!」
「そう言われてもな。メサイア、いい方法ないか?」
「ないわ。それにね、誰かを生贄にしてまで世界を救いたいと思う?」
「それはないな。だが、世界は破滅しちまう」
「……む、むぅ」
誰かに生贄になってもらうしかないのか……?
そんなの誰が喜んでやるっていうんだ。ありえない。
「わたくしかいないようですね」
「フォル?」
「兄様。わたくしは“聖女”です。対象でしょ?」
「ふざけるな。お前を生贄なんてさせない」
「ほ、ほ~! それってつまり、愛ですか!? つまりつまり、わたくしは聖女であり……兄様から愛されているので、二つの意味で該当していますね! なんて名誉なのでしょう!」
頬を赤らめ、めっちゃ喜ぶフォル。いや、喜ぶな!
確かに、完全に一致しているが、そういう問題ではない。
他の方法を考えるしかないか。




