第585話 ドワーフ族の儀式
「むぅん!」
「――ぐおッ」
ドワーフ族の戦い、それは“腕相撲”だった。
なにげに俺の予想は良い線いっていたな。
しかし、これのどこが儀式なのか。たぶん、祭りのことをドワーフ族では“儀式”と呼ぶのかもしれないが。
「むさくるしいわね」
ジトッとした目で腕相撲を見つめるメサイア。
確かに、筋肉ムキムキの男ドワーフしかいないしな。
「兄様、これに優勝するんですか……」
まるで危篤の兄を見つめるような眼だった。
「まて、フォル。なんで死ぬ前提のようなトーンで言うんだよ。死亡フラグになるだろうがっ」
「ですが、あの筋肉を見て下さいまし。……ふ、ふつくしい」
いかん。フォルは筋肉に目がないんだった。
特に俺の腹筋が好物らしいが、ドワーフの上腕二頭筋も守備範囲内だったか。
「フォルちゃんは相変わらず筋肉が好きなんだね」
「ええ、ベルさん。わたくし、兄様以外に浮気するつもりはないのですが……あの素晴らしい筋肉は目が離せません」
ヘンタイ聖女は置いておき、俺は腕相撲大会に参加することにした。
どうやら、誰でも直ぐに参加できるらしい。
ただし、連勝しているドワーフを相手にしなきゃならんようだ。そういうルールね。
俺は受付へ向かった。
牛乳瓶の底をくり抜いたような眼鏡をかけたドワーフがいた。今時こんな眼鏡のヤツがいるんだな。
「よろしく頼む」
「おや……人間族とは珍しいですね」
「ああ、ゼタやクシナに頼まれてな」
「そうでしたか。では、名前を記入してください」
名簿に名前を書いた。
出番はこのあと直ぐらしい。早いな。
「サトルよ、この腕相撲に必ず勝つのじゃ」
「うおっ、ベイリンの婆さん。いたのかよ」
いきなりニョキっと生えてきやがった。
「この戦いに勝たねば占星術師の情報は絶望的だぞ」
「分かってるさ。応援していてくれ」
男の俺がやるしかないだろう、こういうのは。
だからこそ俺自ら志願したわけだからな。
正直、ムキムキのドワーフと腕相撲とかしたくない。下手すりゃ骨折するだろうし。
だけど、世界の未来が掛かっているんだ。仕方あるまい。
「受付番号17番、サトル。テーブルへ向かってください」
俺の名が呼ばれた。もうやるのか。
いや、やらねばならない。そして勝たねばならない。
テーブルへ向かうと、そこには連勝しまくっている無敗のドワーフがいた。他のドワーフよりも体が大きく、明らかに屈強。
腕も山のようにムキムキだ。
……目の前にすると凄い迫力だ。あとヒゲもヘビのように長い。
「おぉん? 人間とは珍しいなァ」
「よろしく」
適当に挨拶して、その直後に会場は熱気に包まれた。
「おいおい、なんだのチビは!」「弱そうな人間だな」「実際、雑魚だろ」「人間がドワーフ族に勝てると思うなよ」「連勝者はドワーフ族最強の傭兵ダンケルクさんだ」「あの門番ガードナーの親父だぜ」「もう一か月以上、無敗だってよ」「腕がぶっ壊れた連中が多数だって聞いた」「おい、マジかよ。やべえじゃん」
な、なるほど……周囲の話を聞くと、かなりヤバそうだな。
名前も分かった。
ダンケルクというのか。
「がんばってください、サトルさんっ!」
リースの天使の応援が聞こえ、俺はやる気が100%アップした。
ありがてぇ、声援だ!
あの癒しマシマシの可愛い声が聞けて俺の心に火がついた。負けるわけにはいかねえ!!
テーブルに肘をつけ、手を組む。
ゴツゴツのデカい手が俺を包む。
……さすがドワーフ族の手。
鋼鉄の手袋にでも掴まれてる気分だ。
「それでは参ります……! 勝負――開始ィ!!」
その瞬間、俺の右腕にとてつもない力が加わった。
「…………ぐ、あぁッ!?」
「フフフ。人間よ、このこれでもまだ50%だぞ」
バカな!!
これで50%のパワーだと!?
物凄い筋力だぞ。
俺はギリギリ、たぶん数ミリで耐えている状況だ。
「ちょっと、サトル! 負けちゃうじゃない!」
近くで見守っているメサイアが叫ぶ。
大丈夫だ。まだ負けたわけじゃない。
ここから巻き返してやる。
「うおおおおおおおおおおっ!!」
「……なッ! 人間、貴様……」
ぐぐぐっと力を加え、確実に押し戻す。最初の地点に戻れそうだった。
だが。
「80%!!」
「…………ぐああああああああ!」
な、な、なんちゅう力だ!
マジで腕が千切れそうなほどの腕力だ。これは確かにバケモノだ。
この男、ダンケルクを侮っていた!
俺の筋力パラメーターなら勝てると思っていたが、ここまでとは。
だが、俺もまだまだ本気ではないっ。
もう一度、戻していく。
「なにッ!?」
「まだ終わらねえッッ!」
「人間、貴様の細腕のどこにこんな力が! ありえぬ!」
同時に周囲のドワーフもざわついていた。
「おいおい、あのダンケルクさんが押されているぞ!」「あの人間、やるなあ!」「すげえ勝負だ」「こんな熱い戦い見たことがねえ!!」「どっちもすげえぞ!」「あの人間の男、何者なんだ……」「ダンケルクさんが負けるなんてあるのか?」「そんなわけないだろ、たぶん」
更に、メサイアたちも俺を応援していた。
「絶対に勝ちなさいよ、サトル!」
「ああ。勝つさ!」
更に力を加えていく。
「……認めよう、人間。貴様はこのダンケルクに匹敵する力を持つと」
「それ以上かもだぜ」
「ふん。ありえぬ。我がパワーは無限なのだ。見せてやろう……100%の力を!!」
その瞬間、空気が一気に変わった。
気づけば俺の腕が折られそうなほどの力が加えられ、敗北寸前に至っていた。……な、なんだよこれ!
「あああああああああああああああっ!?」
「敗北を認めろ、人間。このままだと右腕が折れるぞ」
「……負ける、ものか」
「本気か? では折ってやろう。貴様の右腕も……心も!」
ダンケルク……確かに、凄まじいパワーだ。
本当に凄い傭兵なんだろう。
だけどな、俺は今まで数々の修羅場を潜り抜けてきたんだ。
ここで負けるほどヤワではない。
コイツが100%なら、俺はまだ100%中の100%を発揮していない。
「人間を舐めるなあああ!!」
「……ば、馬鹿な!!」
一気に押し返し、俺は決着をつけた。ダンケルクの右手の甲はテーブルについたんだ。
「うおおおおおおおおお!」「すげえ!!」「あの人間、やっちまいやがった!」「ダンケルクさんが負けた……」「どうなってんだ!?」「どこにあんな力があるんだよ」「ありえねー。これは夢か?」「信じられん」「細腕なのに、なんで……」
……ふぅ、危なかった。
実際はメサイアのオルクスや、フォルのグロリアスブレッシングの支援などあったんだけどな。
リースも応援という魔法で補助してくれていた。
珍しくベルも俺の名前を叫んでいた。
そうだ、俺はみんなの力を借りて勝てたんだ。
これでクシナの望みは叶えられたぞ。
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