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第四十二話 ディーヴァの報告

「そろそろ金剛ジンガンたちが動き出すそうですね」


 この僕ヒュー・キッドの目の前では、暗くじめっとした研究室に、白衣を着たチンパンジーが言った。チンパンジーは頭が3つ、腕が左右に三本ずつ生えている。

 名前はアシュラ。人造人間メタニカルアニマルだ。人工AIのミルズによって生み出された。僕も同じだけどね。

 

 アシュラの目の前には畳一畳分のモニターが3つほど並んでいる。そこには中華風の街並みが映っていた。人工衛星で撮影したものだ。キノコ戦争が起きる前の人工衛星はほとんど機能を停止しているはずだった。

 だがアシュラが人工衛星を修理したのである。別に何百億の金をかけてロケットを飛ばしたわけではない。ミルズを複製して、小型ロケットを射出。そして遠隔操作で機能停止した人工衛星を修理し、プログラムを書き換えたのだ。

 現在では世界各国の人工衛星はアシュラの手にある。天気予報も衛星通信も思いのままだ。もっともその恩恵を受けるものは少ない。


龍金剛ロン ジンガン……。モンロースニークを倒したノヤギの亜人ですね」


 僕は当時ミルズが隠し撮りした映像を見ただけだが、金剛は放蕩児で荒くれの雰囲気があった。

 今は68歳になり、どっしりとした落ち着いた感じがする。身体を鍛えているのか、筋肉は分厚い。

 そして横には黒ヤギの亜人が立っていた。金剛と同じ背丈で、威圧感がモニター越しでも伝わってくる。


「彼が金剛の孫、羅漢ラカンなのか」


 僕はつぶやいた。黒ヤギだが祖父に勝るとも劣らない筋肉だ。なんでも自分を戒めるためにわざと罪を犯し、採掘場で働いていたそうだ。しかも常人の百倍以上の働きを見せたそうだ。人造人間なのかと疑ってしまうね。


「羅漢の教育は厳しく行われていたそうです。龍京ロンキンの大臣は代々、開祖である龍英雄ロン インシオンの真実を教わるようにしているそうですね」


「一番偉い人が大臣なのか。なんでなんだろ?」


「彼等は中華帝国の皇帝、黄帕克フォン パカがいます。彼等にとって皇帝は絶対です。皇帝を差し置いて王を名乗れません。代々代表者が大臣なのは、あくまで皇帝のしもべであることを示すためなのですよ」


 僕の質問にアシュラが答えてくれた。本当は知っていたけどね、確認の為に訊ねたのさ。

 しかし龍京の人々は皇帝が大好きなんだな。ゴクウさんもそうだったけど、モンローセンプである维诺姆ウィ ノウモウもそうだった。


 だが彼等はどこか狂気じみていた。皇帝の為に命を懸けることに疑問を抱かない。自分の命を皇帝に捧げることを最大の誉れと思い込んでいる。

 東洋人の思想は正直理解できない。アシュラは日本共和国の人間だけど、本人曰く変人だったそうだ。まともにしゃべったのは先輩のズルタンと、姪の機械女帝マシン エンプレスくらいだったと言ってた。


「彼等の他に金華豚の亜人、亥吃豆ズゥ チドウ。ナミチスイコウモリの亜人、子黒夫

《スゥ ヘイフ》。マレーグマの亜人、龍七海ロン チーハイが同行するそうです。他にも代表者はいましたが、彼等が選ばれました」


「どういう理由で選ばれたのかな?」


「彼等は割と柔軟性が高いらしいですね。遠く何十万キロも旅をするのです。頭の固い人間が同行したら発狂しかねません」


 もっともな理由だ。羅漢たちの目的地はヨーロッパにあるエビルヘッド教団の本拠地、フィガロだ。もうじき地中海にある箱舟の扉が開く。そこから箱舟の子孫たちが大勢出てくるのだ。

 

 僕は詳しく知らないが、当時は世界各国から無神論者の18歳の男女が集められたという。そして百年間閉じ込めて、血と思想を混ぜて新しい人類を生み出す計画だそうだ。

 だがそんなのうまくいくわけがない。アメリカは自由の国と謳っているけど、実際は血統を重視している。


 僕のママであるロザリアはイタリアの移民だった。彼等は他国の人間と結婚することを忌み嫌っていたという。そもそもイタリア人なんて人種はいない、ママの一族はローマ出身のロマーナだった。ロマーナ以外の血を入れることが最大の禁忌とされており、祖父がママを犯して僕を産ませたのも、そのためだったそうな。


「でモンロー19が集めたスプーキー・キッズたちは各地で待機しているのかな?」


「はい、待機していますね。レッドブル、ペルソナ、ブルース、小人シャオレン、マーク、アンナ、サーラ、パプロは揃っています。まるでテレビゲームのボスキャラのようですね」


「それも日本製だね。僕も好きだよ。日本のゲームはバラエティに富んでいて好きだね」


 モンロー19の半分はズルタンのクローンだ。日本人好みが影響されていてもおかしくない。


「でも数が少なくないかな? どうせなら人を大勢操って羅漢たちの邪魔をした方が効率的なのに」


 ズルタンのオリジナルである毬林満村まりばやし みつむらの影響を受けているなら、羅漢たちがいない場所で親しい人々を攻撃してもおかしくないと思った。


「その懸念はあった。だが衛星で監視していたが、その動きはなかった。以前念話を割り込んでいたから、徐々にモンロー19としての意識へ迎合されたのかもしれない」


 アシュラが説明した。モンロー19は19歳の僕と、毬林満村の心がきれいに別れて合わさっている。時間が経つごとに反発した精神が混ざっていったのかもしれない。


『ヒュー・キッド、ちょっといいかしら?』


 突如僕の頭の中に声が響いた。それは僕のママ、モンロースナックだ。今はラプンツェルと名乗っている。


『どうしたのラプンツェル』


 僕は訊ねた。ちなみにラプンツェルに対してママと呼ぶのは厳禁だ。本人が断固として認めないのである。今更自分が母親面するのが許せないのだろう。僕を虐待し続けたのは理由があり、そのおかげで今の僕がいる。僕はもうママを恨んではいないが、ママ自身は自分の罪と向き合っているのだろうな。


『モンロークラウトの動きがつかめたわ。あの男はモンロー19と同じように神応石スピリットストーンを活性化させて力を授けているわ。だけどちょっと特殊なのよ』


『特殊というと?』


『相手は自分が偉人だと思い込んでいるわ。確認するだけでもアナスタシア・ロマノヴァや、宮本武蔵などが確認されていますね』


 アナスタシア・ロマノヴァはロシアの王女様で家族と一緒に銃殺されたという。もっとも生存説が根強い人気の高い女性だ。

 宮本武蔵は日本の剣豪だ。自分より弱い相手としか戦ったことがないと言うが、自分が生き延びるためには効率の良いやり方で僕は好きだな。

 ラプンツェルの口ぶりでは他にもいるかもしれない。油断大敵だな。


『こちらはあなたたちの血縁を狙っているわ。クラウトも長年の生活で思想が変わったのかもしれないわ』


 人造人間はあまり精神が成長しない。僕らも同じだ。普通に暮らしていたら精神が疲弊していただろうな。

 しかしモンロークラウト、龍英雄の精神を宿す人造人間だ。彼は中華帝国の皇帝以外の存在をすべて焼き尽くそうとしている。

 僕たち人造人間を狙うのは、僕らが普通の人間より頑丈で長生きだからだ。だからハヤクコロシテ楽にしてあげようという親切心だろうが、小さな親切大きなお世話である。

 

『クラウトの狙いは3つ。アマテラス皇国の花主人フラワーミストレス。ニューエデンにある機械帝国マシン エンパイヤの機械女帝。最後に海賊島バッドガイアイランドのディーヴァね』


 花主人と機械女帝は、僕らの仲間ディーヴァの生前同級生だった人たちだ。

 現在、僕らは三人と同盟を結んでいる。ディーヴァはすでに僕らとは独立した組織を作っていた。


「別にクラウトは我々の戦力をそぐつもりはなさそうです。単純に人造人間だから殺す、居場所がはっきりしているから、あの三人は狙われたと言えますね」


 アシュラが言った。僕もそう思う。


『早く助けに行かないと。あなたの仲間でしょう?』


 ラプンツェルは心配そうに尋ねた。そうか、彼女はあの三人の事を知らないんだ。


『大丈夫だよ。あの三人は簡単には殺されない。相手が誰であろうともね』


 僕の言葉にラプンツェルは息をのんだ。


『クラウトが何を考えているかわからないけど、あの三人を相手にしてタダで済むとは思えないな。心配はいらないよ』


『……相手がどんな手を使ってくるか、わからないわよ。あんまり信用しすぎるのも問題だと思うわ』


『そう思うよね。でもあの三人はえげつないよ。日本の小学生だったけど、彼女らの話を聞いて僕は背筋に寒気が走ったね』


 僕はディーヴァたちの過去の話を聞いている。小学五年生なのに自分たちをいじめた同級生やいじめを無視する教師に対しては、家族のスキャンダルを暴露して破滅させていた。

 それも一度や二度ではない。無力な小学生でさえ手に付けられなかったのだ。人造人間になった彼女らに敵などいるわけがない。


『あー、ヒュー・キッド聴こえているかしらん?』


 噂をすればディーヴァからだ。何が起きたんだろう。


『実は私と真仁まさみ真咲まさきのところに頭がおかしい奴が来たのよ。で始末しちゃった。心当たりある?』


 なんと話はすでに終わっていたようだ。さすがのラプンツェルも呆気に取られている。


『……それは偉人を自称する者たちでしたか?』


『そうなんだよね。まったくうざいったらありゃしないわ』


『あなたたち、花主人、機械女帝の元に来たのですよね? 全員倒したのですか?』


 ラプンツェルはさらに訪ねてきた。三人の実力を知らないから、本当なのか心配なのだろう。


『そう言っているでしょ。まあ、どんな奴らが攻めてきたかは話しておくわね』


 そう言ってディーヴァは説明をするのだった。

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