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第四十一話 スプーキー・キッズたちを使って 羅漢たちを邪魔しよう

「ふふふ、だいぶ集まりましたねぇ……」


 押しつぶされそうな真っ黒い空の下に、一人の男が一匹の犬を携えていた。

 周囲は砂漠で岩しかない。生き物の影は一切見えなかった。

 男の名前はモンロー19、犬は人面犬のズルタンだ。


 モンロー19は右手で指を折りながら数えている。ここ数日、彼は世界中を文字通り飛び回っていたのだ。


 そして見どころのある者を見つけては、その者が宿す神応石スピリットストーンに影響を与え、特別な力を与えていた。


 草原紅牛の亜人、レッドブル。

 インドの山奥で見つけた卓球の玉ほどの大きさしかないペルソナ。

 アメリカは東部で人間に追い回されたホオジロザメの魚人ブルース。

 龍京で長の息子なのに馬鹿にされていたネズミの亜人、子小人スゥ シャオレン

 蟲人王国インセクターキングダムで盗み以外生活できずにいたヨーロッパオオナマズの魚人、マーク。

 アナスタシア・ロマノヴァを自称したため村人から迫害を受けたルサールカの亜人アンナ。

 スペインで人間に食い殺されそうになった黒豚の亜人、サーラ。

 コロンビアで殺されかけたカバの亜人、パブロ。

 

「みんなに素敵な力を与えてあげました。その力で自分たちを迫害した者たちに復讐させるのはとても気分がいいですね……」


 モンロー19の右側は嗤っていた。元々チャールズ・ヒュー・モンローと毬林満村まりばやし みつむらの半々で作られた人造人間メタニカル アニマルだ。最初は捏造された毬林の性格が色濃く出ていたが、徐々にオリジナルの性格へ馴染んでいったようである。


 ズルタンはその様子を見ても何も言わない。犬は人の言葉をしゃべってはならないからだ。

 それでもズルタンは念話を通して仲間に連絡を入れている。情報の共有は重要だ。何か起きてからでは遅い。


「レッドブルに力を与えた後、彼は自分を捨てた村に復讐しました。舌を槍のように扱い、村人たちの胸や頭を突き刺して、真っ赤な血の花を咲かせたときは心が安らぎましたね」


 モンローは厭らしく笑う。レッドブルはあまり頭のいい男ではなかった。村人には何でも言うことを聞く便利な道具として扱われていた。つまり奴隷である。

 もっともオツムの弱い人間を奴隷として扱うのは、長い歴史上珍しくはない。寧ろ宗教によってはそういった人間を奴隷として管理し、手なずけることが美徳とされていたこともある。

 

 20世紀では先進国による奴隷制度の廃止により、障碍者たちの働く場所を奪われてしまった。障碍者は家の奥に隠し、人目にさらすことは恥であり、大罪とされた。

 自分たちは運よくまともに生まれたのに、障碍者に対しては見下し、罵倒せずにいられなかった。


 そんな他者を見下し、障碍者を奴隷として扱って当然と考えていたものを皆殺しにする。

 

 レッドブルを家畜のように扱っていた美女が、レッドブルの舌で右耳から左耳を貫通され、目玉が飛び出る様は痛快であったとモンロー19は思っている。


(悪趣味なことだ……。いや、俺も人のことは言えないけどな)


 ズルタンは考える。自分もキノコ戦争が始まったとき、全身火傷で死にかけた人間を片っ端から殺していた。もう助からないなら、息の根を止めてあげるべきだと考えていた。

 だがそれは傲慢であった。誰も頼んでないのに、ズルタンは自己満足で人を殺しまくったのだ。


 妻である魅羅ミラに話したら、「パパはとても素晴らしいことをしたわ。苦しむ人に慈悲を与えたんだから。私なんて自分の両親も含めて色々人を殺したわね。それも私自身がムカツクという理由で。もちろん法に触れないように事故死に見せかけたけどね。今の私たちの姿は、私の責任よ。人殺しを楽しんだ私を長く細く苦しめるためだと思うわ。むしろ私がパパを巻き込んだのよ」と言った。


 魅羅は確かに両親を殺した。だが話を聞くと両親は人間の屑だった。自分の両親はとても立派な人で本当は死んでほしくなかったが、父親からは現実は変えられない、常に現実を受け入れろという言葉を胸に秘めていた。

 だから悲しみを押し殺した。両親を酒酔い運転で殺した加害者に復讐したいと思ったが、正反対の事を口にした。なので周囲からは狂人扱いされ、近所からは疎外された。


(だがこいつの所業を見ていると、自分が正しかったと信じられる……。所詮復讐なんてのは自己満足だ、それに第三者が加害者を殺せと言うが、お前には関係ないだろうと言いたい。人の死を望む人間ほど、心が貧しくなっているのがわかる……)


 ズルタンはモンロー19を哀れんでいた。神応石の影響で他人の理想的な行動を取るこの男に憐憫の情が湧いていた。


「さて、彼等をどうしましょうか。せっかくのスプーキー・キッズたちが活躍する場所を提供しないとねぇ……」


 モンロー19はケタケタ笑っている。一体誰に言っているのかわからない。彼はモンローなのか、毬林なのかそれすらわからないのだ。


「……いいことを思いついた」


 不意にモンロー19の声色が変わった。ズルタンはその声が自分の声だと気付く。


「こいつの頭を念話を聞いていたが、近いうちに君のオリジナルを殺した男、龍金剛ロン ジンガンが遠いヨーロッパへ旅立つという。龍京の人間が作ったフィガロと言う町だ。そこで道中にレッドブルたちを一人ずつぶつけるのはどうかな? ゲームとしてはそちらの方が面白いと思うがね」


 「おお、それは面白いな!! 僕の大好きな日本のゲームみたいに各ステージでボスが待ち受けている!! 金剛て人はどうでもいいけど、見学をしている分は面白そうだ!!」


 右側のモンローは手を叩いてはしゃいでいた。ズルタンは驚いた。自分の念話を盗聴された事実に驚愕した。

 しかしなぜ今のタイミングで口にしたのだろうか?


「実を言えば、君の考えていることは筒抜けだよ」


 毬林の部分が言った。ズルタンは目を丸くする。


「君はあえて犬としての人生を受け入れているようだね。それで私たちが君を虐待して楽しむと思っていたのかね? だとすれば悲しいな。君は鎖に繋がれた犬を見て、棒を叩いて遊ぶ子供を忌み嫌っていただろう?」


「……お前は、私なのか?」


 ズルタンが初めて口を開いた。


「私になったのはついさっきだな。当初は頭がごちゃごちゃしていたよ。お前はこういう人間なんだ、お前はこう振る舞わなければならないんだという怨嗟の声が、嵐のように響いていたな」


 モンロー19がぼつぼつと話した。神応石に影響された人間の気持ちを聞かされ、ズルタンは考えた。

 神応石は他者の精神に影響される物質だ。日本では古くからヒヒイロカネとも呼ばれている。

 実際に神応石に影響されるとはどんなものなのか。モンロー19の話によれば大勢の人間が大きな声を上げているようなものだと察した。

 

 モンローのオリジナルであるヒュー・キッドはどうなんだろう。


『僕はそんな声は聴こえなかったね。そもそも周囲の声なんて雑音だからね、無視していたよ』


『先輩。僕も同じですよ。会社では研究に反対するデモが毎日やってましたけど、僕は無視しました』


『儂もだな。凡人は目の前の餌にしか興味がない。長期で細々と確実に作物を作る発想がないのだ。儂としては反対派の連中を不法侵入や器物損壊で逮捕させていたがね』


 ヒュー・キッドだけでなく、ズルタンの後輩であるアシュラと、アシュラの祖父ミルズも混じっていた。

 もしかしたらミルズが自分たちをスプーキー・キッズとして選んだのは、神応石の声を無視できる人間だからかもしれない。


『正解だ。死んだゴクウやアラディンもそうだった。モンローセンプやモンローエクストラも同じだな』


 だがゲルダはもろに神応石の影響を受けていた。それに50年前の龍京ロンキンではモンロースニークが暴走していた。龍京の最高指導者、龍超人ロン チャオレンの影響を受けていたのだ。

 

「こいつは心の在り方次第じゃないかな? モンロースニークとやらは最初のモンローオリジナルで、心に隙間が出来た。ゲルダとやらも何かしら動揺して心の壁を砕かれてしまったのではないかな?」


 モンロー19が口を挟んだ。確かにこいつの言う通りだ。心の持ち方によって人はたやすく他者に飲み込まれる。

 自分一人が正論を口にしたところで、デマを愛する何百万人の声は書き消えてしまう。


 だが逆に一人で何百万人もの声を黙らせる場合もある。世界的な歌手が一例だ。もしくは世界的なスターに天才科学者も同じである。


 自分を通し続けたからこそ、今の自分があると言えた。


「で、君は私たちの計画を阻止するかね? 一応、私は龍英雄ロン インシオンを殺した悪魔ウモだ。世間受けするわかりやすい悪役だよ」


 ズルタンは考える。正直なところ阻止する理由がなかった。同盟を結んでいるのはあくまでエビルヘッド教団があるフィガロだ。

 そこの責任者はスレイプニルこと、サタン司教である。さすがに同郷の人間を殺したら気分が悪くなるだろう。


『ガリバーから得た情報ですがね。なんでも金剛には羅漢ラカンという黒ヤギの孫がいるそうです。道中に異形の力を持つ者が襲い掛かり、それを羅漢が撃退する。いいお話になると思いますがね』


 アシュラが説明してくれた。自分たちで英雄譚を作ることが大事だという。

 現在は世界中でヒュー・キッドが活躍している。ほとんどの村は自分の血縁だけを愛し、よそ者を忌み嫌っている。中世ヨーロッパ風の生活を好み、不潔で不衛生な生活こそ我が人生だと思い込んでいた。そして自分たちの境遇はすべてチャールズ・ヒュー・モンローのせいであると悪態をついて楽しんでいる。


 ヒュー・キッドはそんな村を潰して回っていた。公衆衛生を徹底させ、因習を破壊していった。おかげで世界中におけるモンローの悪影響は少しだけ収まりつつあるという。


 スプーキー・キッズたちが羅漢たちの冒険を邪魔する。英雄譚としてはもってこいの材料であった。

 元々モンロー19がスプーキー・キッズを集める話を描く予定はなかったです。

 ですが最終シリーズなので丁寧に書くべきだと判断しました。

 本当に小説ってファンタジーですよね、書いている作者ですら予測がつかないから。


 面白いと思ったら伏線を無視してでも変更することが大事だと思う。

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