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第三十八話 エビルヘッド教団の教義

神五郎じん ごろうは1950年生まれで、7人兄弟の五番目の子供だった。実家は理髪店で、戦後の焼け野原に建てたという。文字通り裸一貫からの始まりだったそうな。

 五郎が生まれた時期は夭折が少なくなり、一人も欠けることなく7人兄弟は育っていった。日々の生活は苦しいでひもじい思いをする日々は珍しくなかった。よく死ななかったのは奇跡と言えた。

 ちなみに上から一郎、二郎、三郎、花子、五郎、六郎、留吉とめきちで年子である。

 四郎がいないのは4番目に生まれたのが長女で、4は縁起が悪いからだという。留吉はここで留めるという意味でつかわれた名前だ。女の場合なら留子である。


 五郎は昔から絵を描くのが大好きだった。紙芝居と映画娯楽の時代で、当時は物資がまだまだ少なかったが、木の板に炭で描いた絵を描いては、兄や弟たちを楽しませていた。

 五郎は4男で実家は長男が継ぐから割と好きにやらせてもらっていた。のちに15歳の頃中学を卒業して、大御所漫画家のアシスタントになった。そこで漫画の技術を学び、18歳で一冊の絵本を描いた。それがそらとぶ! オムスビマンであった。

 頭がオムスビで、お腹を空かせている子供に頭を食べさせる絵本である。

 

 五郎は戦後間もない時代でひもじい思いをしていた。いつもかぼちゃやイモを食べていた。ジャガイモで作ったおかゆはとても不味くて食べられたものではなかった。

 運動会ではバナナとゆでたまごが最高の御馳走だった。

 オムスビマンは腹いっぱい食べたいという気持ちをぶつけた作品であった。だが受けなかった。


 逆に師匠の漫画家からエッチな作品を描いてみろと勧められ、冗談半分に少年ステップと言う雑誌でオゲレツ学校を投稿したら担当編集者の目に留まり、連載になった。

 人気は高まり、実写映画化にもなった。ただ両親は漫画が嫌いで五郎の漫画は送ってもすぐ風呂の焚きつけにされていたという。兄たちは説得しても聞く耳持たなかった。何せ戦後の焼け野原から生活の為に働いてきたのだ。漫画家は絵を描くだけの楽な仕事と思い込んでいる。

 実際は漫画の描きすぎで腱鞘炎になったり、絵がうまくても人気次第ですぐ打ち切られるなど厳しい世界だが、両親は最後まで漫画家をやくざな商売として見下していた。

 

 そんな折、両親は流行り病でコロッと死んでしまった。息子がお下劣な漫画を描いたため、近所の人に馬鹿にされたので、心身ともにやつれていたという。

兄たちは理髪店を畳んで、五郎のために出版社を作った。五郎の描いた漫画はすべてその出版社で発売することになる。

 

 オゲレツ学校の人気は絶好調であった。だが他の雑誌ではオゲレツ学校と同じような漫画を描いてくれと注文を受けてばかりだった。

 ロボットを操縦するデモンダーXの連載を打診したが、編集部はオゲレツ学校に執着しており、兄たちが何とか説得して連載を終了させ、連載にこぎつけた。しかしこの一件は編集部に暗い影を落とし、デモンダーXの連載が終了して以降、少年ステップで連載することはなかった。


 次に大人向けの漫画、ヘルメス4を描いた。国籍不明の凄腕の狙撃手が主役の作品だ。こちらは脚本と作画を分けている。こちらも大ヒットになった。


 だがヒットしても心は晴れない。自分の好きなものを描けずに、出版社の注文ばかり受けている。兄と弟たちはなんとかマネージャーとしてがんばってくれていた。オムスビマンを描いていた頃が懐かしくなった。

 46歳の頃、アメリカから手紙が届いた。姉に翻訳してもらうと、アメリカに住むチャールズ・ヒュー・モンローという少年からのファンレターであった。

 しかもそらとぶ! オムスビマンのファンだという。


 五郎は嬉しくなった。自分の描いた作品が海外に住む少年の心をつかんだからだ。


 五郎は精力的に世界に自分の作品を発表するようになった。

 1999年、中華帝国の帝京ディキンでは兄弟そろって、作品の展覧会を開いた。

 そして世界の終わりを経験したのであった。


 ☆


「思い切って、エビルヘッド教団は七つの大罪をモチーフにした方がいいかもしれないね」


 三日後、ガリバーが僕の元に駆け付けてくれた。ガリバーの見た目は可愛いネズミだけど、7体集まると、ムキムキマッチョなネズミ人間に変身する。

 

「七つの大罪ですか? 確かオルディネ教の教義にもありますね」


 七つの大罪は犯してはいけない罪であり、悪魔の事だ。


 傲慢はルシファー。

 憤怒はサタン。

 嫉妬はレヴィアタン。

 怠惰はベルフェゴール。

 強欲はマモン。

 暴食はベルゼブブ。

 色欲はアスモデウスだったはずだ。


「賢人さんはサタンですね。無理やりこじつければ大罪に該当する霊獣、ユニコーンに近いです」


「……わたくしは怒りっぽくありませんよ」


 賢人は憤慨している。


「あれ、僕の時は怒っていましたよね」


「あれは王大頭ワンダトウをあなたの敵役にさせろと言われたからです。普段は怒らないフィガロですら怒っていましたよ」


「別にサタンを名乗ってもその通りにする必要はないです。あなたはむしろ忍耐がありそうだ。七つの大罪を司教の証にして、正反対の教えをすればいいのです。対外的にはサタンと言えば憤怒ですから」


 ガリバーが説明してくれた。

 ちなみに傲慢は謙虚。

 嫉妬は感謝。

 怠惰は勤勉。

 強欲は慈善。

 暴食は節制。

 色欲は純潔だそうだ。


 それぞれ該当する動物があるので、賢人に選んでもらおう。


「ですが最高指導者はどうするのですか? 私はサタンになるのは構いませんがいきなり司教になるのは問題がありますよ」


「あなたが最高指導者になるつもりはないですか?」


「ありません。そもそもこの町は龍京ロンキンへの交易のためです。将来は龍一族の誰かに継いでもらいたいですね」


 ガリバーの問いに賢人は反論する。


「ではあなたはどんなのがいいですか? 一応役職としては大司教にしておきましょう。オルディネ教では教皇や枢機卿がいますが、そこまで複雑にしなくていいでしょう」


 ガリバーの説明に賢人は納得する。まあオルディネ教の真似をするのはまずいな。オラクロ半島の人々は今でもオルディネ教を崇拝している。モンロースナックも髪の毛を操るのに神のためと説得するまで苦労したそうだ。


「わたくしのきいた話ではキノコ戦争が始まったとき、当時は子供だった祖父たちが生き延びたのです。祖父たちは一つの家族、兄弟シオンディとして育ったのです。なので大司教はシオンディと名付けましょう」


 何とも安直だが、それでいいかもしれない。僕はあまり物語を作るのは苦手だからそうした方がいいだろう。


「あとは教えだな。確かビッグヘッドは空を飛んだり、水を泳いだりできると聞いているけど」


「ええ、います。大頭ダトウには腕を翼に変える物や、魚のように及ぶ個体もいます。これは環境によって変化するという話ですね」


 ガリバーの問いに賢人が答えた。陸のビッグヘッドはキングヘッドとウイッチヘッド。空はミカエルヘッドとルシファーヘッド。海はネプチューンヘッドとセイレンヘッドがいるという。


「普通のビッグヘッドは地神派と言ってウイッチヘッドを崇拝し、4本足の生き物は食べないようにしましょう。

 飛行型の場合は空神派としてルシファーヘッドを崇拝し、鳥を食べないようにしてください。

 最後に水神派はセイレンヘッドを崇拝し、魚を食べないと制約するのです。その一派を集めてビッグヘッドが生まれるよう念じさせるのですよ」


 ビッグヘッドは神応石スピリットストーンという人の精神に影響される石が心臓だ。

 集団で祈りを捧げれば狙ったビッグヘッドが生まれるかもしれない。


「よくそんな設定が思いつきますね。感心します」


「ガリバーさんはマンガ家なんですよ。僕の一押しはそらとぶ! オムスビマンですね。他にはデモンダーXやヘルメス4という漫画がありますね」


「龍京城の図書館にありましたね。昔拾った本を大頭が食べて改めて印刷したものです。中華帝国は日本共和国を嫌っていましたが、漫画は別でしたから」


 賢人がしみじみと答えた。中華帝国の国民は日本を嫌っていた。過去に日本軍が帝京を占領し、若き皇帝、黄帕克フォン パカを傀儡にしたという。その後、1945年8月、日本の疲労島ひろしま詠埼ながさきでは開発中の原子力爆弾が暴発し、十数万の人間が犠牲になったそうだ。

 そのため戦争終結を余儀なくされ、日本は終戦を迎えたという。


「そうだ、賢人さんはこれを機に名前を変えた方がいいでしょう。イメージチェンジですね。もちろんサタン以外ですが」


 ガリバーが勧めた。賢人は悩んでいる。


「イメージチェンジですか……。思いつきませんね」


「思い切ってスレイプニルはどうでしょうか。北欧神話に出てくる最高神オーディンが乗る、八本足の馬の名前です」


「なんでよその国の神話をモチーフにするのですか?」


 賢人が怪訝な表情でガリバーを見た。


「こういうのは勢いですよ。ここは蟲人王国インセクターキングダムに近い。北欧神話も割となじみが深いんです。ここから北にあるドイツでは巨人と小人の国、巨人王国ジャイアントキングダムが出来ているのです。そこの支配者が一つ目のビッグヘッド、オーディンヘッドなのです」


 ああ、確かにそんなのがいたな。巨人王国では世界樹と呼ばれる巨大な木が生えている。

 アフリカゾウ並みに大きな巨人の背中に、小人が住んでいるのを見たな。もしくは3メートルほどの巨人が、小人を肩車にしているのもいた。

 かといって知性が低いどころか、かなり高い。割と手先が器用で、火縄銃を作っていたな。


「それとあなたは顔が固い。もう少し親しみやすくした方がいいですね。例えばピースサインをして、語尾にいえーいと言うのがいいでしょう」


「……あなた、わたくしを馬鹿にしてませんか?」


「冗談ではありません。親しみやすさは大事です」


 ガリバーの真剣な目を見ると、賢人は何も言えなくなった。


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