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第三十五話 ヒュー・キッドの ライバルを探せ!!

あれから5年の年月が流れた。僕は相変わらずヒュー・キッドとしてお腹を空かせている人々を救っている。


 もちろん働くのが嫌で僕を殺しにかかる人もいるけど、そういう人たちは見捨てていた。僕は畑を耕したり、ヤギウマやヤギウシなどの家畜を連れて牧場を作ったりする。

 その際に集落の周りには柵や罠を張り巡らし、水車の力で車を丘の上に登らせ、ミニカーのように走らせたりした。これは人の数が少ないため、なるべく効率の良さを追求した結果である。

 

 風力の力で畑を耕す機械を作ったり、水力で動く列車を作ったりした。内燃機関がなくてもなんとかなるものである。

 鍛冶の際に発生する熱を利用してお湯を沸かしたり、色々やっている。水車や風車を利用した冷蔵庫も製造した。電化製品と比べれば雲泥の差だけど、ないよりははるかにましなレベルである。馬車に冷蔵庫を取りつけることで、新鮮な果実や肉を遠くへ届けることも可能になった。


 まあ、そこまで教え込むのが難しいんだけどね。


「さてリベルターの方はどうなったかな?」


 僕はニューエデン合衆国、79年前にはアメリカと呼ばれた地へ向かった。


 ☆


 リベルターシティは豊かになっていた。僕の教えた技術を生かして周囲の集落を吸収していった。さらに外国からは海賊たちがやってくる。まあ彼等は商人でもあるので取引はしている。

 リベルターの兵士がにらみを利かせているから、下手なことは出来ないだろう。

 

 リベルターの中央にある広場では生前の僕の銅像が設置されている。さらに右の隣にはヒュー・キッドの銅像が建てられていた。

 町の中にはヒュー・キッドのポスターが貼られており、公園では紙芝居を見るために子供たちが集まっている。ヒュー・キッドのイラスト入りのシャツを着た子供たちを見るとほっこりしてきた。


 さて僕はブライアン商会へ飛んだ。リベルターの南側にある小さな丘の上に二階建ての石造りの屋敷がある。そこがブライアン商会だ。

 ミラー・ブライアンこと、ウンディーネが子供たちを集めて、文字の読み書きや計算などを教えている。平均点を取った者は従業員として雇っていた。

 従業員になれなくても、学のある人間は大成することができるので問題ない。


 僕は屋敷の前に降り立った。すると正面の玄関から一人の執事服を着た羊が出てきた。ブライアン商会の執事ワーナーである。ウンディーネが雇った執事だ。


「これはこれはヒュー・キッド様。会長は現在書類とにらめっこしております。ご用件ならわたくしが承ります」


「うん、急ぎの用事じゃないんだ。今、商会の運営はうまくいっているか知りたかっただけだよ」


「それならば応接間へどうぞ。そこでわたくしが商会の状況をお教えいたします」


 僕はワーナーに連れられて屋敷に入った。


 屋敷の中は人でにぎわっていた。事務処理に、キャラクターグッズの製造など大忙しだ。

 それに今のリベルタータイムスに連載されている漫画はウンディーネから、別の人が描いている。

 現在のリベルタータイムスは毎日発行されていた。去年から紙の値段が安くなり、情報伝達力が上がったためだ。


 リベルターでは西方にあるパッション劇場でヒュー・キッドの劇を演じている。

 紙芝居もその一環だ。日本では紙芝居という娯楽があったという。周辺の村や機械帝国にも輸出していた。ただカラー印刷の技術が確立してないので、ひとつひとつが手作りである。


 僕は応接間に通された。石造りの部屋には赤いじゅうたんが引いてある。壁にはヒュー・キッドの絵が飾られていた。部屋には観葉植物と食器棚、ソファーが二脚に細長いテーブルが置かれてあった。天井はシャンデリアが下がっている。


 僕はワーナーに促されてソファーに座る。ネズミのメイドたちが紅茶とスコーンを持ってきた。僕はそれを口にしながらワーナーと話をする。


「事業は成功しております。リベルタータイムスの売り上げは好調です。先日単行本を百冊刷りましたが、すべて完売いたしました。現在は増刷中でございます」


「売れるのはいいけど、調子に乗らないようにね。在庫が出てゴミになる可能性があるから」


「はい、注文を受けてから増刷しております」


 ワーナーは僕の質問に淀みなく答える。リベルターシティは他の国と違って、頭がいい人が多い。学問の大切さを理解してくれて助かる。

 逆に周辺の村は中世ヨーロッパ風になっていた。獣のように力で弱いものをねじ伏せ、無ければ他人の物を奪えばいいと考えている。

 リベルターには軍隊があり、周囲の村を訪れてはヒュー・キッドの良さを伝えて回っているようだ。まあ、僕としてはあんまり暴力を振るってほしくないけどね。いやヒュー・キッドも最後はヒューパンチで解決しているから、文句は言えないけどさ。


「リベルターシティにおける劇場での演劇や、紙芝居の売り上げも上々です。紙芝居では飴を買わないと見れないようにしておりますので、お菓子屋も連日飴の製造に勤しんでいます」


「うん。ブライアン商会だけが儲けてはだめなんだ。他の人も富を分け与えないといけないんだ。と言っても無茶をさせちゃだめだよ」


「存じております。ですが……」


 ワーナーは言いよどんだ。僕は何があるのかと尋ねたら、教えてくれた。

 周辺の村では僕ことチャールズ・ヒュー・モンローをヒーローとして扱うことが気に喰わない老人が増えているという。

 モンローが生まれたせいで世界は荒廃したんだ。ヒュー・キッドで自己弁明するとは何事かと、ヒュー・キッドに関するものをすべて火にくべろと怒り狂っているそうだ。

 もっとも僕を知らない世代では、老人のたわごとなど聞く耳持たない。逆に老人たちを牢屋に閉じ込めてしまうそうだ。


 そう言った牢屋の周りにマウスピースと言う怪物が生まれるという。口から火を吐く犬の魔人が村を襲うそうだ。自警団が片づけているからなんとかなっているらしい。

 ヒュー・キッドの人気は高まっている。そもそも集落では娯楽がないからだ。子供はおろか大人も楽しめている。ヒュー・キッドの人気が高いところではマウスピースの力は弱まっているという。

 ただリベルターシティでは起きないらしい。町の人々にとってヒュー・キッドはおろか、生前の僕を英雄視しているからだ。


「僕を悪役にしないと精神を保てない老人はまだまだいるんだな……。マウスピースたちの力が弱まっているのも、ヒュー・キッドの影響だろうな……」


「そうですね。ですがリベルターでは魔人は現れなくても、キチガイはいます。モンローは恐怖の大王だ、モンローを美化するなとヒュー・キッドのポスターを剥がしたり、紙芝居をしているところを襲撃する人間が出てますね」


「人間……。亜人はいないのかい?」


 ワーナーは首を横に振った。僕が嫌いなのは人間が多い。亜人はよほどのことがない限り出てこない。そういう時は精神が異常なまでにおかしくなっている奴ばかりだ。


「それと最近の読者アンケートです。ヒュー・キッドはお腹を空かせている人を助けるのはいいのですが、マンネリ化しているとのことです」


「あ~、確かにな。アメリカの漫画は日本みたいに劇的な展開はないからね」


「ですが読者の気持ちを置き去りにするのも問題です。実はうち以外にヒュー・キッドを模倣した作品が出ております。その名もフューリー・キッドという犯罪者を殴り殺すという刺激的な内容ですね。しかもそいつはあなた様と同じチャールズ・ヒュー・モンローを名乗らせております」


 ワーナーは言葉に怒りをにじませていた。彼はヒュー・キッドのファンなのだ。粗悪な模倣品など許されるわけがない。

 しかもフューリー・キッドは影ながら人気が高く、子供たちの間ではヒュー・キッドとフューリー・キッドを戦わせる遊びが流行っているそうだ。


 キャラの模倣は生前ではよくあることだ。だけど真似されるのは癪だな。なんとかして殲滅したいよ。


「現在はモンローの名を騙る悪人として取り込みました。作者もこちらに取り込んでおります。もっともフューリー・キッドはヒュー・キッドのライバルにはなりえません。なぜなら相手はヒュー・キッドを妬む小市民ですから」


 ワーナーの言い分はもっともだ。フューリー・キッドは犯罪者を甚振る悪役で毎回ヒュー・キッドに説得されるが聞く耳持たない。リベルター以外では庶民の気持ちが理解できてないと文句を言う人が多いそうだ。

 それにフューリー・キッドは架空の悪役だ。実際に活躍する悪役を出したいな。


「それはそうと、ヒュー・キッド様はご存じですか? ニューエデンにはある伝説があることを」


「伝説? いったいどんな伝説かな?」


「人間を殺す巨大なビッグヘッドですよ」


 ワーナーが言うには数十年前から人間の住む集落を襲撃するビッグヘッドがいたという。

 大抵襲われる村は傲慢な人間が多く、人を奴隷にして楽しんでいたそうだ。

 ビッグヘッドはその村を襲撃しては、めちゃくちゃにするらしい。ただしその巨大な口を使わず、蟻を踏むように人間を踏み殺すらしい。


「それってエビルヘッドの事じゃないかな?」


 エビルヘッドは鳳凰フォングァン大国の龍京ロンキンから生まれたビッグヘッドだ。79年前に誕生して以来龍京の守護者として見守っているらしい。

 世界各地にある原子力発電所や核廃棄施設に赴いては、ビッグヘッドの種をばらまき、数年かけてビッグヘッドたちに喰わせているという。

 おかげでアメリカにある原子力発電所は消え失せた。核ミサイル基地や廃棄施設も悉く地上から消え失せたのだ。


 とても喜ばしい事なのに、マウスピースたちはそれを嘆いた。核の力を失い、核の力を奪ったエビルヘッドを憎む存在となったのだ。まったく狂っているね。

 僕の仲間ディーヴァがエビルヘッドに名前を付けたのだ。当時は王大頭ワンダトウと呼ばれていたが、世界進出するならとつけたそうだ。


 エビルはスペルに直すとEVIL。スペルを逆さにするとLIVEになる。

 殺されても反対に生き返るという意味らしい。

 ブライアン商会のブライアンは、マリリン・マンソンの本名、ブライアン・ヒュー・ワーナーから取りました。

 執事のワーナーもマンソンがモデルです。

 正直言えばただモンローたちを戦って殺すという展開に面白みを感じなくなった。

 戦闘がないけど、キャラクターグッズの世界的展開を広げるのが面白くなったのです。

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