12話
けんたは じゅもんを となえた。
「俺が残ったのは蛮勇なんかじゃねえ、剣太となら倒せる自信があったからだ」
「それを人は蛮勇と呼ぶのだ」
「お前は人じゃねえだろ。剣太、俺はお前と長い事友達をやってきてファンタジーのことなら剣太にさんざん叩きこまれてる、あまり俺を甘く見ていると俺が一人で倒しちゃうぜ?」
「見栄を張るな瞬。こいつはふたりで確実に仕留めるぞ」
「わかってるさ」
俺は瞬の最後の言葉を聞き終えた時、2つの刀を手に握りしめ駆け出していた。未だに斧の直撃を食らった胸はじんじんと痛み今にもまた泣き出しそうだ。さっきの1撃を思い出すだけで恐怖で足がすくみそうになる。だがそれよりも、俺の目の前で瞬が傷を負ったり殺されたりするほうがもっと怖い。
この猪の王への恐怖を別の恐怖で塗り替える。
俺は猪の王の周りを駆けまわりながら少しずつ体表を削っていく。ぶよぶよとした脂肪のような体つきの割にはとてつもなく硬い。1撃1撃がまるでダメージが
通っていないのではと思うほどかたい。それでも俺は連撃をやめない。止まってしまえばただの的として再びあの斧で命を削り取られるだけだ。
何度も猪の王の周りを飛び跳ね時には足の下を潜りながら斬りつける。ありとあらゆる不規則な連撃を続け、時には後方から瞬が複数のつららを飛ばしてくる。
だがそのつららを猪の王は鬱陶しそうに斧を1凪ですべて壊す。飛来するつららを迎撃するために腕を上げ、猪の王の胴ががら空きになる。その瞬間を逃すまいと猪の王の胴目掛け刺突を繰り出す。押し込むように刀の柄に左手を添え体重をかける。
ズブリ。
まるでそう擬音が聞こえるように深く刺さる。初めて大きなダメージを与えることができただろうが油断せずにフェルムクレイとラッザを発動させ、刀を手放す。
再び刀を作るために後退する。
「小賢しい真似を。ぐっ!?」
猪の王が胴に刺さった刀を抜こうとしても抜けないことに驚愕の表情を浮かべている。
抜けないのは当たり前だ、俺があの場から離れるときフェルムクレイで刀に返しをつけておいた。引く抜くには己の肉を引きちぎるしかない。これで優勢になったつもりはないが戦闘が始まって以来の有効なダメージだろう。
その時、猪の王は怒りを表すように、無理やり返しの刀を抜き、まるで理性を失い野生に還ったかのように喉を震わせた。
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
「っっ!!」
怯み。それは確実な隙。
突然の咆哮に目を伏せ耳を塞ぐ。
「剣太ぁ!くっ、氷柱!!」
ようやく耳が聞こえ始めた時、瞬の魔法の行使を耳にし目を開ける。そこには氷柱、いや3本の氷山がそこには聳え立っていた。その氷山が決壊しきらきらと群青に輝きながら四散する。
その奥には猪の王が膝をついて疼痛の表情を浮かべていた。
猪の王が自ら刀引き抜いた時にできた傷に見事に氷柱が突き刺さったのだろう、先ほどとは比べ物にならないほどの大穴が口を開けていた。
「すまない剣太、今ので魔力が尽きちまった……」
俺のために魔力を使い過ぎてしまったのか、瞬が倒れこむ。
「わかった。ありがとう瞬、あとは俺に任せてそこで休んでいてくれ」
「ぐふっ、なるほど。貴様は魔法が使える身だったのか。蛮勇と言ったことは訂正しよう」
「その傷をうけ、それでもまだやるというのか?」
「我は魔王パーガトリー様に仕える身。このような情けない姿でパーガトリー様の前に立つことは許されない。それにこの星の民を皆殺しにしろとの命を受けている。我とここで相対した時点でどちらかが死ぬまでこの戦いは終わらぬ。そろそろ決着をつけよう」
「そうだな猪の王」
「お前を雷鳴の騎士の名において葬り去ってやろう」
宣言と同時に迅雷の鎧に換装。そして2本の刀を捨て一本の日本刀を作りだし影の構えをとる。ヘルムを脱ぐことができない状態の今、この影の構えが一番速く強い1撃を繰り出すことができる。
なぜか猪の王の先ほどの大きな傷が癒えている事は気になるが、猪の王も次の1撃で決めるつもりなのだろう。斧をわきに構え身を屈めている。
「……」
数秒の静寂の後、同時に踏み込みお互いを打ち倒すべく肉薄し1秒にも満たない交差のあと、剣太は刀を振り下ろした状態、猪の王は斧を振り上げた状態で静止する。
剣太はビクッと体を揺らし腹から肩口にかけて鎧ごと斬られた傷口から大量の血を放出する。
猪の王も同じように肩から腹にかけ斬られ大量の血を流してはいたものの死ぬまでに至る傷ではなかったようだ。
「我の勝ちだ。さきの傷が癒えてなければ負けてたやも知れぬが、運がなかったな」
「運が、悪かったのはどっちかな…」
「!?」
猪の王は寒気のするほどの殺気を感じて振り返るがそこにいたのは血だらけで満身創痍の剣太だった。
「見栄を張るのは止せ」
「いいや、あんたの負けだよ…猪の王」
剣太から流れる大量の血が収束し形を得ていく。まるで生きているかのように、未だ血管にいる血のようにどくどくと脈打っている。さらには猪の王から流れる血も剣太の周囲に集められていく。それだけに留まらず青坂や田辺が倒した魔物の血もまるで刷り込みをされた鳥の様に剣太の元へと集い合う。
「赤き紅い紅血よ 生々しき鮮血よ
深き渇きに身を委ね 血を求めん
相対する敵の血で 美しき花弁を咲かせたまえ」
「紅血の薔薇」
剣太が詠唱と魔法名を言い終え魔法の行使の許可を出した時、収束していた血が息を吹き返したように猛烈な勢いで猪の王へと向かい荊棘が伸びていく。主の敵を滅ぼさんと猪の王に迫る。
猪の王も負けじと自慢の斧を振るうが荊棘の数が多く何本か打ち漏らしてしまう。
この期を逃すまいと勢いを増す。何本かの荊棘は猪の王の体表の硬さもお構いなく突き刺さり、1本の荊棘が猪の王の体に巻き付き棘を食いこませながら締めあげる。
「グッ、グゥオオオオオオオッ!!」
それでもなお猪の王は猪を束ねるものとしての意地なのか、魔王に仕える使命感なのか。それとも剣太を強者として認めたのか。猪の王は体の内側と外側から食い込んでくる棘の痛みに耐えながら未だやむことのない荊棘の嵐を耐えしのぐ。術者の剣太を先に打とうにも、倒れこんだ剣太の周りに、自らの主を守ろうと真っ赤な薔薇が花開き防御を固めていた。
何度荊棘を打ち落としただろうか。幾度も迫りくる殺意でも籠ったかのような荊棘を打ち落とし続け残り1本。何本かは食らってしまったものの様々な角度から迫りくる荊棘を撃ち落とし続けてきた猪の王にとってただの1本など容易に切り伏せることができるだろう。
だがその油断が戦場では命取りになる。
たかが1本と油断した。
神経をすり減らしながら荊棘を撃ち落とすことで体内からアドレナリンが放出され今まで抑えていたのは
「毒」
剣太が刺突で体内に刀を差し込んだ時に発動していたラッザがじわりじわりと猪の王の体を蝕んでいたのだ。
毒により体の力が抜け落ち膝をつく猪の王。もううまく体が動かないのだろう。
そこに1本の荊棘が飛来し、猪の王の脳髄を貫き大量の血をまるで花が咲くように散らしていく。その瞬間紅血の薔薇が解除されただの血へと戻り、ビチャ。という音と共に地面に落下した。
「まさか……この星に紅血を使うものが、いたとは……」
脳髄を失ってもなお喋り続ける猪の王
「我を、倒したところで…あと、3……」
と言いかけたところで朽ち果ててしまった。
「おい!応援を連れてきたぞ!あれ、さっきのでかいのは逃げちゃったんすか瞬さん」
「遅かったですね……剣太が倒した後そのまま灰になって消えました」
猪の王を丁度倒し終えたところで青坂さんと田辺さんが応援を連れてきてくれる。なんてタイミングの悪い。
「は!?あいつが倒したって?嘘でしょあんなゴミカス野郎が倒せるわけないっすよ!実は瞬さんが倒したんじゃ―」
「少し黙れ。あの血だまりを見てもまだ状況がわからないか?回復魔法を使えるやつは連れてきたんだろうな?」
「えっ、瞬さん?回復なんてしなくても数で押せばいいかなって……」
「この能無しが。くたばれ。」
そんな侮辱の言葉と憎悪の眼差しを青坂さんに送り、瞬が俺のほうに駆け寄ってくる。
「すまない剣太、守るといったのに。俺の魔力量がもっと多ければ……もっと力になれたのに…!」
瞬が倒れ伏していた俺を抱きかかえ、本日二回目の泣き顔を俺に見せてくる。
「瞬、今日はいっぱい、泣くね。」
「あたりまえだ、自分の不甲斐なさのせいで友達がこんな目に……!」
「俺も、瞬がこうなったら嫌だなって、思いながら、戦ってたんだ…そしたら、怖かったけど、立ち上がれたんだよ。ありがとう瞬」
「そんなお別れみたいな言葉聞きたくねえ!!なにか、なにか方法はないのか!」
回復魔法が使えるものを連れてこなかったことをまだ怒っているのか、見たことも無いような目で青坂さんを睨みつける瞬。
その時俺の周りにできていた血だまりがズズズ、と動き俺に集まり始めた。
「な、なんだ……?」
集まった血は俺の中に入り込み、再び体内に血が流れる感覚が蘇る。
俺が紅血の薔薇を行使するために使用した血が全て、体の中へと入っていく。魔物の血も猪の王の血も全てだ。
やがて傷はふさがりその場にあった血も綺麗になくなった。一塊を残して。
「どういう事だ?」
「そりゃあ俺っちを取り込んだからだろうよ」
そう喋ったのは俺に吸収されなかった一塊の血。くるりと方向を180度変えこちらに顔を見せる。
それは猪の顔をした赤いスライムのようなものだった。
「俺っちの血を体に入れただろ?そのせいで俺っちの固有アビリティ「再生」がお前にも発動いたんだろうよ。お前に吸収されちまったからこれ以上離れられねえぜちくしょう」
悪態をつきながら俺から2メートルほど離れたところで見えない壁に体当たりをしてポヨンポヨンしていた。
「お前は猪の王なのか?」
「あったりめえよ!」
「本当はそんな喋り方なのか?」
「なわけあるかい!他のやつらはおまえが倒した猪の王と一緒に消えたよ。簡単にいえば俺は七つの大罪でいうところの「憤怒」の部分だ。何で俺っちだけここにいるんだよちくしょう!」
魔物にも七つの大罪についての知識とかあるんだ。
「剣太、どこにも痛みはないのか?」
「うん、どこも。ごめんねまた心配かけちゃって」
「いい。剣太が無事なら何でもいい」
「ちょ瞬さん生きてるじゃないすか!なんか新しいアビリティゲットしたらしいし結果オーライじゃないすじゃないすか?お前もよかったな!」
こいつまだいたのか、本当はいいタイミングでアビリティも魔法も使わない俺のほうが早いってことを見せたかったんだけど結局猪の王戦でも逃しちゃったし、俺の本当の実力見せれてないんだよな。とか考えていたら瞬がいきなり青坂さんの顔面をぶん殴った。
「結果オーライかどうかを決めるのは剣太だ。調子に乗るだけ乗ってなにもできなかったくせに、助けてもらったお礼もできないのかあんたは」
「た、助けてもらったって、俺だって応援呼んできたじゃないすか!」
「なぜ自分の罪を反省できない。この人たちは駆け付けてくれて、剣太は死ぬほど痛い思いをして戦ったんだ、でもあんたは逃げてただけだろ」
「さっきから剣太剣太って…、どうせとどめを刺したのがそいつってだけでほとんど瞬さんがやったんじゃないんすか!?」
痛い思いをしたのは確かだが青坂さんの言う通り、途中までは瞬の与えたダメージのほうがでかかったはずだから何も言い返せないな俺は。
「……もういい、二度と俺の前に現れないでくれ」
俺がどれだけバカやっても呆れることなく構い続けてくれて、俺以外の友達にも常に優しかった瞬が初めて、人に対して呆れや失望の表情を浮かべていた。
「シェルターに戻ろう……」
瞬は俺と、応援に駆けつけてくれた人に寂しげにそう呟いた。
シェルターに着いてからまず俺は軽い自己紹介とここに来た目的についてをシェルター内の人に説明した。既にここから北に7キロほど離れた場所に第1の壁を建てたこと。そしてここから南に5キロ離れた場所に第2の壁を作ること。そしてその壁を建て終わればこのシェルターで暮らさなくとも自分の家に帰れることを話した。すると皆は大喜びで、中には狂ったように飛び跳ねている者もいた
だが円状にすべて囲うには24日ほどかかることと、今日を含め10日ほどで一度壁の中に戻らなくてはいけないことを話すとみなわかりやすいほどに落ち込んでいた。話す順番逆にすればよかったかも。
上げて落としてしまった手前シェルター内にいるのも気まずいので近くの人に外で魔物を狩ってきますと伝え外に出る。瞬にも伝えようと思ったが前にビルの中であったおじさんをここに連れてきた時と同じように相変わらず子供や奥様から人気の様で、話し込んでいたので一人でシェルターを出る。
一人で黙々と魔物を狩りながら、壁を建設予定の場所に来る。
今日ですべての壁を建てれたら、あの人たちも、ここ以外のシェルターにいる人もみんな笑顔にできるのに。
ん…、あれ。
ふと気になる点があったのでステータス画面でヒノキマスターの説明を見る。
【ヒノキマスター】
ヒノキを自由自在操ることができる。レベルに応じて作れるヒノキの量が変動する
(1レベルごとに体積100メートル分のヒノキが作れる)
ふむふむ、レベルに応じてヒノキの量が変動するね。そして俺はあの魔王の城が落ちてきたときレベルに見合わない量のヒノキを作ってしまったから気絶したと。なるほど…。
「俺ってやっぱ馬鹿だなぁ……」
自虐の言葉を合図にまず第1の壁作ったときの様に外周5キロ分の壁を1枚作る。壁の端まで飛び、またヒノキマスターで5キロの壁を作る。それを24回繰り返した。
つまり、第2の壁を俺は1日で建てたのだ。
俺はあの城の周りに壁を建てた時1日の使用制限を超えたから気絶したのだと思っていた。だが実際に制限がかかるのは1度の発動だけで1日何キロ作ろうが制限は無かったのだ。
魔法のコツをつかもうとリュイソーを発動させた時に魔法のような消費がないことに気が付いたとうのに、なぜ俺は今まで気づかなかったのだろうか。
早速シェルターに帰ってみんなに知らせよう。他のシェルターの人たちにも知らせないとな。
「ただいまぁっと、おう瞬ちょうどいところに」
「剣太か、出ていくなら声かけろよ?」
「ごめんね、いろんな人に囲まれてたから」
「そうだったか、それでちょうどいいってのは何がだ?」
俺が望んでいた質問を瞬が聞いてきたので俺は得意げに答える。
「うん、壁が完成したよ」
「は?さっき自分で24日かかるって言ってたじゃねえか」
「それが、アビリティについて少し勘違いしてて…てへっ」
「てへっじゃねえよまったく、剣太らしいっちゃらしいが。本当に出来たのか?さっきみたいにバカ騒ぎさせた挙句ほんとは跨げば乗り越えられる壁とかいうなよ?それは壁じゃなくて柵だからな?」
だからな?」
「ふふん、見ればわかるよ」
瞬と一緒に外に行き壁を見る。高さ100メートルを優に超える壁、その光景を俺が作り出したとはいえ壮観だった。
大きく目を見開き、しばらく壁を見つめていた瞬が口を開く。
「すげえな剣太は!こんなでっけえ壁つくっちまうなんて!後はこの壁の中にいる魔物共を全部倒してみんなを家に帰すだけだな!」
「そうだね、俺も帰るまでの10日間ここの人たちと一緒に魔物の討伐に協力するよ」
瞬に魔物討伐の手伝うことを約束し今日は休むことにした。
そういえば猪の王は死ぬ直前「3」と言っていたがいったい何のことだったのだろうか?
「そりゃお前あと3匹いるってことにきまってんだろ!」
「あぁ、いるの忘れてた」
「ふざけんな!お前が壁作ってる間もずっとお前の足元にいたわ!!見えない壁あるからお前が素早く移動するたびに引きずられ、宙を舞い、叩きつけられたりしてたんだぞ!」
ぷんぷん、というかプルプル怒ってる猪の王の憤怒の部分。名前つけよ。
「今日からお前の名前アフマルな」
「結構いいじゃねえかちくしょう!」
何に対しても怒ってるんですね。でも、アフマルのお陰で賑やかになりそうだ。途中まで忘れてたけど。
(´◉◞౪◟◉)




