13話
魔物の討伐を約束してから6日が経った。来る日も来る日も街にいる魔物を狩り続けようやく少し落ち着いた。今日はみんなにも休養が必要だということで休みだ。異世界と違って本屋に行けば本もあるしゲームもできる。異世界行かなくて良かったと思う今日この頃。
休みだし壁も作ったので久しぶりに自分の家に帰って半日ほどだらだら過ごす。
あー、お布団最高。異世界行ってたらこんなふかふかのベットで寝れなかったのかもと思うとやはりこの世界は最高だと実感する。
今まで毎日のように体を動かしていたからか、半日だらだら過ごしとところでなにか物足りない感じがしてきてしまって立ち上がる。
やろうやろうと思って今までやっていなかったアビリティの実験をしよう。
まずは最近手に入れたフードゥルを試してみるか。
フードゥルは腕に電気を帯びるんだったな、それで鉄を触るとビリビリ来るんだっけ。試しにエルツファーレで刀を作って触ってみる。
「あばばあばばば」
結構痛かった。どれくらい痛いかというとトイフェルから「ライトニング」を受けた時並みに痛かった。静電気の5倍くらい?
「そういえば最近トイフェルに会ってないな」
「呼んだ?」
「呼んでない」
こいつはいったいいつもどこにいるんだ?今みたいに呼べば突然現れる。いや、別に今のは呼び出したわけじゃないけど。
「でもいま私の名前呼んだよね?」
「名前は言ったが呼んではいない」
「強がっちゃってぇ、本当は寂しかったんじゃないのぉ~?」
「寂しくはない。でも顔は見たいと思ってた」
「えっ……」
いやぁ、やっぱり長い事一緒にいたやつの顔見ると安心するなぁ!シェルターにいたら瞬しか知ってる人いないし基本ボッチなんだよねぇ、俺。みんなチーム組んで魔物狩ってるのに俺だけ1人だし。
「え、お、落ち着くの?私と一緒にいたら落ち着くの?」
「うん、(顔見知りだから)落ち着く」
「そ、そうなんだ…ふーん。へぇそっか、私といたら落ち着くんだ」
なんでトイフェルは顔赤くしてるんだ?熱か?風邪ひいてるのか?女神も風邪ひくんだなぁ。
「今アビリティの実験してたんだけど、なんでこんな使えないアビリティが溢れてるんだ?」
「つ、使えなくないでしょ!」
「いや、プルプとかまったく使い道が分からん。で、なんでこんな使えないものが多いんだ?」
「使えなくないのに……。私があなたたちに渡したアビリティはもともと全部私の者よ。一時的に貸し与えているの。剣太は別だけどね」
トイフェルの能力を貸し与えているのか。じゃあなんでデメリットをつける必要があったんだ?
「トランスパーレントとかボニートのデメリットはなんでついてるんだ?自分が使うならデメリットは絶対ないほうがいいと思うが」
「そ、それは私の力が弱い時に作ったアビリティだからデメリットがついちゃったのよ…」
「自分でアビリティを作れるのか?」
「まぁね、女神はだいたいみんな作れるわよ」
最高だな女神ってのは。
ん、でも待てよ?シュヴィンメンやハオスハルトにはデメリットがついてないのはなぜだ?デメリットは力の弱い時に作ったから勝手についてしまったようだが、デメリットのないアビリティも存在するということは既にまともなアビリティを作ることは可能ということだろう。なのになぜ、デメリットはないが戦闘で使えないアビリティもがあるんだ……?
そうか、わかったぞ。
「トイフェル」
「なぁに?」
「お前、料理できないし泳げないだろ」
「な、なななななんでそれを!?!?」
「そこまで説明されれば何も詰まっていない脳でもわかるさ。料理ができないからハオスハルトをつくり、
泳げないからシュヴィンメンを作ったんだろ??あー。これからどんなゴミアビリティを拾えるか楽しみだぜぇぇ!!」
見る見るうちに顔を赤くしていくトイフェル。
あらかわい。たのしぃなぁ、駄女神いじるのたのしぃなぁ。
「で、できるもん」
「んぁ?なんだってぇ?」
「だから、料理もできるもん!!」
「じゃあ料理勝負だトイフェル、もちろん俺はハオスハルトを使わない」
「望むところよ!」
あー、必死になってる駄女神ちゃんおもしろいなぁ、いじりがいがあるってもんだ。
「勝負事には審判が必要だ。女神だからと言ってトイフェルを勝たせないように純粋な心を持ったまなちゃんを呼ぼう」
「今連れてくるから待ってなさい!絶対私が勝つんだから!」
よしよし、これでまなちゃんにも会える。他の人にも会いたいな、たった5日だけど結構長い事ここにいた気がする。
「お前は罪づくりな奴だなぁおい!」
「罪?犯罪を犯した覚えはないが?」
「それをわかってないのが罪づくりだって言ってんだよ!」
ん?アフマルは何を言ってるんだ?
「連れてきたわよ!」
「わ、おにいちゃん!おひさしぶりです!」
「久しぶりまなちゃん」
「どうしてまなをここに連れてきたのです?」
トイフェルがここに来るときに説明してなかったのか、どうして?とかわいく首を傾げている。かわいい。
俺はまなちゃんに、今から俺とトイフェルが料理を作るからどっちが美味しかったか教えてほしいということを伝えた。
「女神さまもお料理ができるんですか?」
「うん、とっても美味しいらしいよ?」
「わぁ、それはたのしみです!」
トイフェルは、やってくれたわね!みたいな顔でこちらを睨みつけているが関係ない。できるっていてたし。
俺は、この状況をどう打破するかうんうんと唸りながら考えているトイフェルをおいて、一足先に料理を作るために意気揚々と台所へ向かう。こう見えても料理は得意なんだ、まなちゃんに何を作ってあげようかな?
どんな料理を作るか決めるために冷蔵庫を開ける。そこで俺は気づいてしまったのだ。野菜や肉が全て腐っているということに。
そりゃそうだよな、もう1か月くらいは家に帰ってなかった気もするし、腐るよな。
急いでトイフェルとまなちゃんがいる俺の部屋に戻る。
「ごめんまなちゃん、冷蔵庫の食べ物が全部腐ってしまっていて料理が作れなくなっちゃった」
「そっか!野菜が腐ってたんじゃ料理は無理ね!」
「嬉しそうにいってんじゃねえ」
「おにいちゃんの料理食べれなくて残念です」
「ごめんねまなちゃん、また今度作ってあげるからね?」
「約束ですよ?」
小指を差し出してくるまなちゃんに合わせ、俺の小指をまなちゃんの小指に絡める。
「うん、約束だよ」
「はい!女神さまの料理もいつか食べたいです!」
「え?私も?」
話を振られると思っていなかったのか驚いた顔で自分を指さしている。
「はい!」
「し、しょうがないわね。今度よ?」
まなちゃんの無邪気な笑顔におされたのか無理な約束をしてしまっている。助けを求めるような表情でこちらを見てくるが俺は知らないぞ。自分でなんとかしてくれ。
トイフェルを見捨てるようにそっぽを向いて、引き続きアビリティの研究でもするか、まなちゃんのことはトイフェルに任せよう。
そうそうフードゥルの実験途中だったんだ。さっきフードゥルを発動しながら刀を触ったら自分もビリビリしたが刀身の方も電気を帯びていた。フードゥルを使えば刀に雷属性を付加できている気がするのだが自分へのダメージが大きいな。ヒノキマスターで柄部分をヒノキで覆ってみるか。
柄部分をヒノキで覆い刀を手に取る。そしてフードゥルを発動したが自分がビリビリすることはなかった。ついてに刀身も電気を帯びてなかった。
そんなうまくいくもんじゃねえか。
あとはシュライエンを試してみたかったがまなちゃんがいるここで発動してもし威嚇効果があったとき、まなちゃんに怖がられるのが怖いからここでは試せないな。
あとはなんか試すものあったかな?プルプは手に吸盤ができて壁に張りつけられるらしい。きっとそれ以上でもそれ以下でもないだろう。そういえば筒抜きは使った事なかったな。確か相手の装備品を奪うんだったか。よしちょっとトイフェルにでも発動していたずらしてみるか、豪華な装飾とかしてあるし。
アビリティ、筒抜き発動。
ん、特に目立った変化はないぞ?あ、でもなんか手に何か握ってる感覚あるし小さいやつとったのかな?
と思い手を広げてみると、その手に握られてたのは。
パンツだった。
パッと見子供用パンツ。あれ、やべえ!もしかしてまなちゃんの方に発動しちゃったのか!?これはまずい、社会的に死んでしまう類のやつだ!はやく返さないと!
「ごめんまなちゃん!これ返すから許してください!!」
俺の中で唯一1万を超える素早さのステータスを存分に発揮し、常人には瞬間移動したように見えるほどの速さで、俺の人生で一番キレのある土下座を繰り出す。
「パンツ、ですか?、まなはちゃんと履いてますよ?」
え??
「え、あぁぁちょ、な、なんで私のぱ、パンツを、剣太が持ってるのぉ!??」
「え!これトイフェルのパンツだったのか、子供っぽいからまなちゃんのかと思って焦っちゃったわ。はいこれ」
「はいこれ。じゃないでしょ!なんでこうもっと興奮したりしないの!?」
「いやだって、なんか子供っぽいし」
「こどもじゃないですー!もう万単位で生きてますぅー!」
「万単位で生きててまだこの下着履いてるのか」
「べ、別に私が何履いても関係ないでしょ!?もう知らない知らない剣太の馬鹿!帰る!」
帰るといってまなちゃんの手を引っ張って瞬間移動しようとするトイフェル。
「ま、まなもですか?おにいちゃん早く帰ってきてね、ばいばい」
お別れの言葉と共に一瞬で消えるトイフェルとまなちゃん。今まで騒がしかった部屋の静寂がやけに大きく聞こえる。
「馬鹿だなお前はよぉ!」
「アフマル。俺はなにかやらかしてしまったようだ」
「その、なにかは明白だろ!本当に興味なくてもちったぁ照れてフリでもしこけばよかったんだよ!魔物の俺っちでもわかるぜそんな事!」
「いや、あそこで興奮してたら、その。変な空気になっちゃうだろ……」
「そういうことかよ!でももっと言い方ってのがあるだろ!」
そこにあった静寂はアフマルがいたおかげでなんとかなったものの、今度トイフェルに会った時どんな顔をすればいいのかわからない。
それにトイフェルは神出鬼没だ。いつもは俺が呼んだり、突然現れたりするが今の状態で呼んでも来てくれそうにない、どうやって謝ればいいのだろうか。
そんなことを考えているうちに日も沈み俺の久しぶりの休日は終わりを迎え、朝日が昇る。
トイフェルのことは気になるが今は魔物の討伐に集中しなければならない。残り4日。いくら雑魚と言えど魔物は魔物だ。人間が知りえない何かをしてくるかもしれないし、先日の様に強い魔物がでないとも限らない。
雑魚の魔物を次々と切り伏せ、注意をしながら俺は今日も一人で魔物を狩る。
別にボッチだからではない。俺が他の人とチームを組んでいるより効率が良いからだ。レベルの概念はあるが、まだわからないことが多い。最後にとどめをさしたやつに経験値が入るとかがわかっているなら全員の力の底上げのため俺がチームに加わることもするだろうけど、ほんとにまだなんにもわかっていない。
わかっているのは、この壁の中にはまだ魔物が少なからずいてそれを俺たちは倒さなければいけないということ、単純明快で俺にも理解できる。
俺はステータスとシュプリゲンのおかげで移動範囲が広いので、他のアビリティ保持者がいない、瞬たちのいるシェルターとは正反対のところまで足を運び毎日魔物を狩っている。
ここらのシェルターの中の人にも壁を建てたのであとは魔物を討伐すれば家に帰れるという状況を説明し、アビリティ保持者がいないか募ったがどういうわけか一人もいなかった。
ひどい自画自賛になるが、俺が頑張って魔物を狩ったからか、狩った魔物の数が1日目は150匹前後だったのが7日目の今日は30匹前後とかなり数を減らしている。
目に見えて減っているので達成感が湧いてくる。だがまだすべての魔物を討伐できたわけではないので気を緩めるわけにはいかない。
8日目の今日は、広い壁の中で少なくなった魔物を見つけることに時間を要したが、午後の2時を回ったくらいで一切魔物を見かけなくなった。
念のため3時間ほど壁中を探し回ったがそれでも魔物を見かけることはなかった。
それからシェルターへ戻り瞬や他のアビリティ保持者達に、今日あったことを話すとどうやら他の人たちも同じ状況だったらしい。
これからのことを話し合いシェルター内の人を家に帰す、という案があったが、確実に安全を確保するため、俺が一旦帰る予定の残りの2日間を、本当に魔物がいなくなったのかを確認に費やす決まりとなった。
2日間、俺たちは魔物がいなくなったか確認するため、他の人たちにも今日は少し遠くまで出向くようにお願いしたが、結果は変わらなかった。
第2の壁の中にも魔物はいなくなり一般人を家に帰すことが決まった。
これでみんな安心して過ごすことができる。そう思っていたのだが、ここで事件が起きてしまう。
外周120キロの壁の中にあるはずの人達の家がなくなっていたのだ。壁の外側の近くの家だ。
本当にそこに家があったのかと何度も聞いてみたが皆、長年住んでいた自分の家を忘れるわけがないと主張してきた。
壁を建てるときに壊したんじゃないのかと問い詰められたが俺が壁を建てた予定のところは運よくすべて道路だったのでただの1軒の家も壊してなどいない。
思い当たる節が1つある。だがそれが確かなのか今の俺に確認する術がない。
だが、あの時のトイフェルの言葉を信じるならば家がなくなった理由は1つ。大陸の移動だ。
理由はわからなが大陸が移動し家がなくなった。正確に言うならばなくなったのではなく家も移動してしまったのだろう。おそらくこの壁の外にこの人たちの家があるはずだ。
「おいお前!家に帰れると言ってたじゃないか!俺の家はどこなんだ!」
「まだローンが残っているんだぞ、どうしてくれる!」
「あんたが壁とか作るからこうなったんじゃないの!?返しなさいよ!」
「ふざけるなこのガキが!」
「この壁の外に行けばあると思います……」
なんと説明したものか、大陸が移動したと言ってもなぜ移動したのか、なぜ移動してることを俺が知っているのか、などと問い詰められた日には即座に答えれる自信がない。余計に反感を買ってしまう結果となるだろう。
今ですら、大勢の人に問い詰められかなり焦っている。
理由はわかっているが言葉にしようとした途端頭がパンクし何も言えなくなる。
「壁の外にいけだと!?俺たちを殺す気か!」
「私たちから家を奪っておきながら壁の外へいけですって!?信じられない!」
どうして、俺はこんなにも責められているのだろう。俺はただみんなをシェルターから出してあげたくて。みんなを家に帰してあげたかっただけなのに。この10日間それだけのことを考え壁を建て、必死に魔物を狩ってきた。
みんなの笑顔が見れるとおもった。でもなぜか俺は今怒りで満ちた表情を大勢の人から向けられている。
きっと俺がまた余計事をやってしまったのだろう。馬鹿なりに一生懸命やったつもりだったんだけどな。
頭に浮かぶのはトイフェルの顔。俺の稚拙な言動で喧嘩別れをしてしまった。そんな時にまで俺はトイフェルを頼ろうとしている。なんて浅ましいんだ俺は。
「別にいつ頼ってもいいんじゃないの」
「トイフェル……どうしてここに?」
「どうして?そんなのいつも言ってるじゃない。女神だからよ」
いつもの調子で返してくるトイフェルの存在に俺は心の底から安堵した。この状況を打破してくれるからではない。トイフェルと喧嘩別れしてから今日までの4日間、トイフェルのことを考えない日はなかった。
呼べばいつでもでてくる当たり前の存在だと持っていたがその認識は完全に間違っているということに気づいたのだ。
失ってから気づくとはよく言ったものでまったくその通りだった。
「状況はわかっているわ、あとは任せて」
「家はどこだ!」「家を返せ!」「家に帰らせろ!」「弁償しろ!」などの心無い言葉を一人の少年に浴びせ続ける。この壁を造り、シェルターから出してくれたのがこの少年だと知りながらも、壁に守られていると理解しながらも、自らの城を失ったもの達の罵詈雑言は止まらない。
少年が作り上げた安寧にあぐらをかく大人たち。
そこに突然現れたのは、女神だった。「まるで」や「のよう」ではなくまさしく女神。神々しく光を放ち、その控えめな胸の前で祈るよう手を組み、今まさに怒りの矛先となっている少年を守るように、少年の前にどこからともなく現れる。
「私は女神トイフェル。この地に平穏を齎さんとするもの」
女神と名乗るものが現れ、怒りに身を投じていた大人たちはみな希望に満ちた眼差しを向ける。
一人の愚か者がこう発した。
「おぉ女神様よ、この餓鬼から我らの家を取り戻してくれるのか」
それを皮切りに口々に少年への不満をまき散らすもの達。
「このものが壁を造りあなた達の家が壁の外へはじき出されてしまった事は知っています」
「そうです、こんな壁なんていらないのにこいつが勝手に作ったから俺たちの家は!」
女神に自らの意思を伝えようと、そうだそうだと口にする大人たち。
「そうだったのですか、この壁を建てることを命じたのは私です。ですがあなた達には必要なかったのですね」
この女神の発言に大人たちの心情が怒りから驚愕へ、そして戸惑い、焦りへと変わる。
「今からこの壁の中は、私を王とした国。叢雲として活動することをここに宣言します。あなたたちは国家反逆罪として国外追放の刑に処す。家でもどこでもお好きなところへ行ってください」
(´◉◞౪◟◉)




