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School Savage VS. Identity Fragment  作者: ジョシュア
第四話:方舟のプリンセス
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エリュース・ディネラ:わたしの夢、あなたの夢

 エリュースはその拳を、〈鬼神奮迅オーガ・バトラー〉を発動している悠果の頭へまっすぐと伸ばした。

 完全に不意打ちであったからか、悠果は抵抗をすることなく拳の直撃を受けた。

 体に浮かぶ赤い紋様は、彼女の力が発揮されていることを示している。

 これでもまだ、半分程度の出力だ。さきほど暴れまわっていたときなど、八割以上解放していたのだから、それに比べれば軽いもの。

 悠果は不意打ちに加えて、頭部に一撃を喰らったから、昏倒していた。自然と能力も解除される。

 かつて悠果と喧嘩したときも、同じようにして彼女を止めたことがあった。その経験が活かされたのである。


「お兄さん、悠果を!」

「あ、ああ! ありがとう!」


 そう言って遊仁は悠果に駆け寄る。能力を使うと服が弾けてしまうから、その身に自分の上着をかけて抱きかかえていた。

 それを見届けて、エリュースは占い師と女子大生の方へ向いた。

 女子大生はエリュースを見ると、ニヤリと笑う。


「遅いっすよ。でも、想定外っすね。風紀委員でもやってくると思ったんすが」

「ごめんなさい。私が代理、ということにさせてもらいます」


 それに、その人には借りもあることですし。

 エリュースはそう言って、占い師へ迫っていく。

 悠果の〈鬼神奮迅〉など、生易しいと思えるほどの速さであった。

 伊達に次期〈七聖曜輝〉の筆頭と言われているわけではない。ここにいる誰もを圧倒するだけの力と技量を、彼女は備えている。

 蝶ノ芽の引力・斥力操作の力で足止めを受けていた占い師は、手に持っていたナイフを向ける暇もなく倒される。

 だが、気を失ってはいなかった。ただ倒されただけである。

 占い師は瞠目していた。その目はエリュースの顔をじっと見ている。

 襟を掴んだエリュースは、その目を見返した。


「……あなたの能力は、一人につき一度のみにしか使えないのですね」

「どうして、どうしてここにいる!? 私の〈蕩ける毒夢(ドリーム・バタフライ)〉は完全に発動したはずだ! 死ぬまでその力は止まらないはずなのに!」

「死ぬまで……ですか」


 だとすれば、自分があの騎士にされたことは、よほど恐ろしいことであったにちがいない。


「そのことを知っているか、知らないでやったのか、わかりませんが。ともあれ私はこのように生きています」

「一体……一体どういうこと!?」


 わけがわからない、と占い師は首を振る。

 理解する必要はない。エリュースとて、状況を完全に理解しているとは言い難いのだから。

 ふふ、と占い師は笑った。観念の笑みだろうか。狂ったのだろうか。


「復讐しにきたのですか? それがあなたの悲願であり、夢ですものね」


 それを利用した占い師は、その能力からわかったのだろう。エリュースがどんなことを願い、この〈方舟〉で生きているのか。


「でも、あなたにはできないでしょう。生まれつき力を持っているあなたには、どうして彼らがあなたを傷つけたのか、理解できない。あなたがいることで、息苦しくなる者もいる。世界とはそういうものなのです」


 夢があった。誰にだって、夢があった。

 それを叶えるのは、もしかしたら生まれつきのものではないか。

 努力をする者はいるだろうと思う。泣きながら、苦しみながら、歩む者もいるかもしれない。

 けれども、叶えることのできない者の方が圧倒的に多い。身の丈にあった生き方を、という風に言う者がほとんどなのだ。

 人は愚かしくあるが、愚かではない。自分のできることの範囲内で収めようとする。

 だからこそ、自分の手で掬えなかったものを、より大きな手で掬おうとする者を恐ろしく感じるのだ。


「確かに、そうなのかもしれません」


 エリュースは言った。納得した。理解はできずとも、わかっているつもりであった。

 彼らの目から見て、自分がどのように見えているのかなど。

 その行為はもちろん悪であるけれども、蔑んで、貶してしまうその根源は、力の差であるのだろうとも。

 正しさでそれらを止めても、心の底では納得できない。

 優しさで誰かを助けようとも、助けられるのはほんのわずかである。

 悪が勝ってしまう、というのは世の中の摂理なのかもしれない。


「けれどもです。そんな人を助けようとしてくれる人がいました。大切にしようとしてくれる人がいました」


 力がなくとも、妹を助けるために立ち向かっていこうとする者がいた。本当ならそこにいてはいけないはずなのに、命を賭けて立ち向かっていった者がいた。

 放っておいてもいいのに。切り捨ててもいいのに。

 理屈ではないなにかに動かされて。

 もしかするとそれは、形を変えた夢であったのかもしれない。小さくなっても、夢であったのかもしれない。

 甘い夢は一度きりでいい。厳しい現実に打ちのめされて、でも諦められない小さな小さな願いが、もう一度その人を夢へと駆り立てていく。


 だから、エリュース・ディネラは。


「私は、誰かの夢や願いを利用するあなたを許しません」


 その言葉に、占い師の顔色が変わる。


「人それぞれなんです。夢も、願いも。それが破れることだって、あります。けれども私は信じています。人は前に進めると」

「そんな、そんなことを、いまさらお前が、いうな!」

「はい、私が言う義理はありません。ですがあなたは、言われるべき人だ」


 言ったのです、これは代理であると。


「あなたの願いは、復讐は……夢を持っていた人しか、抱かないものです」


 占い師の表情が固まった。ああ、そうなのだろう、と思った。

 これは他ならないこの占い師の復讐なのだ。

 内容はわからない。ただ、〈方舟〉の環境に敗れて、力を持っている人を恨んでしまうのは、彼女の言う道理に適っている。

 だから、エリュースや悠果のような、この〈方舟〉に適応した能力を持つ者を恨み、それらを利用して暴れさせ、名誉の失墜と〈方舟〉の破壊を目論んだ。


「観念してください。みなさんを解放するのです。手遅れになる前に。……夢は、自分で見るものでしょう?」

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