04 大掃除
「よし、やるか」
「本当になさるのですか」
「当たり前だ」
布を三角形に折って口周りに巻き、捨てても良さそうな古着を着て仁王立ちしている俺をルードが納得がいかない顔で見る。その後ろには戸惑いを隠せていない数人のメイドたち。
サラリーマン時の習慣のおかげで朝早く目が覚めた俺は、俺より早く起きていたルードに朝の支度をしてもらい、離宮で働いているメイドたちを呼んでもらった。
朝早くルシエルに呼ばれることは今まで一度もなかったらしく、眠たさと驚きと面倒くささを隠すことなく顔に出していた。
驚きは俺に呼び出されたことではなく俺の性格が変化したことに対してのようだ。記憶喪失だとはルードから聞いていたらしいが実際に対峙するまでは信じられなかったらしい。
まあビクビクしてた人が急に威勢がよくなったらそりゃ驚くよな。
こればかりは慣れてもらうしかない。
集まってもらってすぐに辞めたい人はやめていいよ!的なことを伝えた。やる気がないのにいてもらってもこっちが困るし、やりたくないことをやらせるつもりもない。
こんな無能の皇子に仕えたいなんて物好きは少ない、というかいないだろうし。
ルード曰く離宮の全権は一応俺にあるとのことなので好きにさせてもらうことにする。
そう思っていたのに案の定全員残っていた。仕える気満々ですというわけではなさそうなのでおそらく給料だろう。離宮とは言えどもやはり平民の給料よりは高い。
ポンッと手を打って「もちろんお金は出すよ」と付け加えたが皆意思は変わらないようだった。
くるものは拒まず、だ。ちゃんとやってくれるなら遠ざける必要はない。ここに残りたいならこれからはやるべきことをちゃんとやるようにとメイドたちに釘を指し、掃除の準備をしてもらった。
俺もやる、と言ったらルードがすごい圧で「やる必要はございません」と迫られた。皇族に掃除をさせることは出来ないと断固拒否されたが、俺が黙っていれば済む話だし掃除で譲れない部分もある。
数分の説得の末ようやく渋々ではあったが許可が降りた。
従者に許可を求める皇子は俺くらいかなと苦笑しながら掃除の準備を整えた。
半日もすればそれはもう見違えるほど綺麗になった。快適な空間ができあがって満足気に部屋を見渡す。避けていたカーテンも埃をかぶったランプも気になっていた部分全てが跡形もない。
けっこう汚かったんだなとしみじみと実感して小さく笑った。
ベッドの欠けている部分とかはどうにもならないが、そこは仕方がない。
そしてやはりというか掃除前のあの状態はメイド達による意図的な嫌がらせだった。メイドたちともいい関係を築いていこうと、話しながら掃除をしていた最中に発覚したのだ。
新しいカーテンも掃除道具もしっかり整っていたので聞いてみたらけっこう素直に教えてくれた。ルシエルがビクビクしていて頼りないし宮廷で働いていたのにルシエルとともに離宮に追いやられてイライラが溜まっていた、ということだった。
一度気づいたルードが一人ですべてやろうとしたことがあったらしいが、ルシエルが自分が我慢すればいいから、と止めたのだそうだ。
掃除の前に俺に掃除をやらせたくないルードに「なら普段からやっててほしい」と言ってしまったことに少し後悔した。
朝のだるそうな様子とはうってかわってキビキビと動いてくれているメイドたちに怒りが込み上げてくるわけでもないので「そうか」と軽く流した。
床、壁、窓に家具にドアに天井。とりあえず目に入るところ全てを掃除した。
もちろんシーツや服の洗濯もぬかりない。ルードがときどきチェックしていたそうなのでそこまで汚れていたわけではないが。
一つの大仕事とも言える作業を終えてふぅっ・・・と一息つく。手も顔も汚れていたが達成感と満足感でちっとも気にならなかった。
俺の部屋だけでなく他の部屋も掃除したがルシエルの部屋以外はさほど汚くなく、全掃除時間の半分ほどの時間で終わらせることが出来た。つまりほとんど俺の部屋の掃除だったのだ。
大掃除にはつきものとも言えるヤツ(=ゴキブリ)の出現もなかった。異世界なので存在するとは限らないがやはり警戒しておいて損はない。まあ出たとしても大声でルードを呼ぶハメになるのだが。
そんな想像をしてブルッと身震いして後ろを見る。
「すごく綺麗になったよ、ありがとう。今日はもう休んでいいから。お疲れ様」
なかなかの肉体労働でぐったりとしているお疲れ気味のメイドたちは俺の言葉を聞いてフラフラと「ありがとうございます・・・」と各々部屋を出ていく。
俺の傍に控えているルードにも休むよう言ったが「ルシエル様のお世話がございますので」と拒否された。
掃除の大半をルードがしていたので大分疲れていると思うのだが、身の回りの世話をしてくれるのはありがたいのでここはお言葉に甘えておく。
「ありがとうルード」
まだ俺の中では出会って一日と少しだがルードの有能さを知るには十分な時間だったし、ほとんどのことをやってくれているので感謝を伝えたいと思ったのだ。こんなに優秀なのに俺の従者でいいんだろうかと疑問に思えてくる。
正面から感謝を伝えればもふもふの耳がピクッと動き、鮮やかな赤い瞳が俺を映した。
「いえ。私はルシエル様の従者ですから」
相変わらずの淡々とした答えに苦笑したのだった。




