第8話:ギルドマスター
玉座へと続く道には赤い絨毯が引かれ、両脇には全身を豪華な鎧で纏った兵士達がまるで置物かのように並んでいる。
フィリスは怯えているが、そのまま進む。
前方にいるのは、ギルドマスターと思しき女、そして、その護衛と思わしき男。
女の方は蔑んだような眼差しでこちらを見ている。
一方で、男の方は、割かし真剣な眼差しでこちらを見ている。
「そこで止まれ。」
威厳と威圧感で満たされた声が響く。
しかし、それを予想していなかったのか、男が口を開く。
「さすがに、初対面の相手にその態度はないだろう?」
私もそう思う。
「はぁ。まあいい。無駄話はやめておこう。」
女はため息をつく。
「だいたい。そちらも何故呼ばれたか、大方予想はついてるであろう。」
フィリスはきょとんとしているが、まぁ十中八九、
「私の魔術の事だろ?」
「ええ!?ロレイアちゃんの魔術ってコトは……。」
「ああ。その異質な魔術、ソレはなんだ?」
ドスの聞いた声で女は問う。
「別に姉貴も取って食おうってつもりじゃないんだ……。ただ、このギルド領内でこれまで1度も見たことのない魔術だったから、姉さんも俺も気になってるだけで……。」
姉さん……?つまり2人は兄弟やそれに近しい関係ということか。
「ここではギルドマスターと呼べ。」
「はいはい、わかったよ。」
「田舎から来たことは聞いているから、答えてくれれば、きちんと衣食住は提供しよう。」
正直、ごまかすか正直に言うか悩むところだ。
田舎の魔術と答えても、反証を探されれば嘘だとバレる。
しかし、異世界から来たことを素直に信じるだろうか?
フィリスが小声でこちらの話しかけてくる。
(衣食住ですって!ギルドマスター……っぽい人からのお墨付きの衣食住なんて、相当凄いですよ!)
それはそうだが。
「何を小声で話している?」
「ああ、いや、どう説明すべきかと。」
ここはどうにかなれの精神で……。
「正直に話すと、あれは異世界の魔術だ。」
「は」
男は私の突拍子の無い発言に疑問符すら忘れたようだ。
一方女、いや、ギルドマスターは、先ほどの蔑んだような態度から、神妙な面持ちになっていた。
「ふざけているのか?ちゃんと答えてくれればって……」
ギルドマスターが男を制止する。
「いや、続けろ。」
どうやらこちらの話を真剣に聞こうとしているようだ。
「端的に言うと、私は異世界で死にかけて、こちらの世界に飛ばされた。どうやってきたか等は不明。そして、あの魔術は私が元居た世界で軍用に使われた魔術の一種だ。」
ギルドマスターは黙っている。
「そんなバカなことがあるはずないだろ!?異世界の魔術!?そんなのあるわけ……」
再び制止する。
「落ち着け、もしあれが異世界の魔術なら、合点がいく。」
「過去6000年にわたって魔術を研究してきたルダンディア魔術院の大図書館にも記載がない、大気の魔力を取り込む魔術。」
「杖職人や武器商人に聞いても誰も知らぬ杖らしき武器。」
「まさかとは思っていたが、本当に異世界の住人とはな。」
ふふっ。とギルドマスターは笑みを浮かべる。
そして、真剣な表情でこちらを見る。
「何か、こちらに来る前に見たものはあるか――?」
うーむ?見たものといえば、憎き敵兵と、爆発と、そして……
「地面に光る魔法陣……」
どうして忘れていたのだろう。こちらの来る前、最後に見たのは魔法陣だ。
これまで見たことのないほど、巨大で、精密な。
フィリスも驚いた顔をしてこっちを向く。
「そんな大事なこと、忘れてたんですか!?」
当然の反応だ。私自身動揺している。
そんな様子でいると、ギルドマスターがククク……。と笑い出した。
「ククク……。ハハハハハハ!!!!この時代に!!!!この神の消えた時代に!!!神の御業だと!!!!!笑わせてくれる!!!!ハハハハハハハハハハ!!!!!」
狂気とも思えるその笑いには、どこか怒りが含まれているように感じた。
「その情報が聞けただけでも満足だ。おい。ダルク。こいつらをひとまず宿屋へ届けてやれ。それも最高級のな。」
ダルクと呼ばれた男は困惑しつつも、数段高い位置にあった玉座の近くから降りる。
「すまない……今日の姉さんはなんだかおかしい。まぁ、異世界から来たってことは……事実だったとしても、超田舎から来た俺らの遠縁の親戚の新米冒険者ってことにしておく。」
ギルドマスターに聞こえないように声を小さくする彼は、呆れたような雰囲気だった。
「まぁ、あとは他の職員に任せる。」
玉座の間を出て、ダルクはこちらに背を向けようとするが、すぐにこちらを向きなおした。
「あ。一応自己紹介しておこう。」
「俺は、ダルク・シェーベン。一応副ギルドマスターとして、主に他国との外交を担当している。そして、ギルドマスターこと俺の自慢の姉さん、メディア・シェーベン……。」
「姉さんはギルドマスターとして、基本的にすべての分野を統括している。今日は、なんだかテンションがおかしかったが、いつもはもっとしっかりしている。と思う。」
「そして、急に連れてきて、本当に申し訳ない。」
「これまでも、見知らぬ魔術を使ったテロとかもあって、その魔術師がギルドに入ったって言うんだったら、こうするしかなかった。」
「改めて、本当に申し訳ない。」
「もー!最悪殺されることも覚悟したんですからね!!!」
フィリスが不満を言う。
まぁ、あんなに強引に連れてこられては、こちらとしても迷惑ではある。
「多分、姉さんも俺も聞きたいことがまだあるから、明日も呼ぶと思う。」
「ひとまず、今日は宿でしっかり休んでおいて欲しい。」
そう言われ、ダルクと別れる。
職員に案内されたのは、城の中にある宿……というか、ホテルだった。
豪華絢爛な内装に、番号の振られた客室。
こんなところを使ってもいいのか、と思いつつもギルドマスターに許可されているんだ。存分に使おうと決める。
部屋は10人で泊ってもまだ泊まれるほど広く。ルームサービスも充実している。
大理石でできた風呂場には、シャワーもある。
こちらに来てから初めてシャワーや風呂を使える。というか、こちらの世界にもシャワーがあるのか。
しかし、豪華なホテルを見学している中でも、先ほどのギルドマスター、メディアの言葉が気になる。
――神の消えた時代、髪の御業――
どこか不穏さを感じるワードに不信感を浮かべながら、ホテルの探索を終えた。




