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十二人の歌守  作者: 白波
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第4話 八百万横丁図書館



 横丁の中心にある歌櫓から少し離れた場所に位置する八百万横丁図書館。

 相当古くから、この位置で本を集めていたらしく、この図書館には、様々な世界の本が置かれている。


 弥生が、図書館の扉を開けると、天井近くまである高い本棚にびっしりと積まれた蔵書と、本棚の間に置かれた机で文庫本を読んでいる少年…小野崎(おのざき)(つばさ)が出迎える。


「見かけない顔だな…もしかしたら、君が新しく歌守になったっていう子?」

「はい」

「そう…本を読むのなら、奥にある椅子で呼んでくれ、それと、借りたい本があったらまた声をかけて。勝手に外に持ち出すの厳禁だからね」


 翼は、見た目こそ少年だが、この図書館の館長である。

 何でも、無類の読書好きで、いくつもの世界を渡り歩いて手に入れた本を集めて図書館を始めるに至ったのだとか…


「わかりました」


 弥生は、目の前に設置されていた図書館の案内図に目を落とす。

 それによれば、歴史書は3階に置いてあるらしい。


「すいません…上に行く階段ってどこにあるんですか?」

「そこ」


 翼は、文庫本を読みながら、左のほうを指差す。


「そこって、本棚しかないような…」

「歴史書か古文を見に来たんだろ? 簡単なもんならそこに置いてあるし、それで満足できないなら、その棚にあるボタンを押してみな」


 どうやら、翼にとっては、困っている利用客よりも目の前の文庫本のほうが大切らしい。


「わかりました。その棚ですね」


 これ以上話しても有用な情報は聞けそうになかったため、弥生は彼が指差したほうの本棚の前に立ってみる。

 彼の言う通り、その棚には、何冊かの歴史書と古典が置いてあったが、八百万横丁の歴史に関する本が見当たらなかった。


「さっきも言ったとおり、目的の本がないなら、すぐ横のボタンを押してみろ」


 すぐ横を見てみると、確かに彼の言う通り赤いボタンがあった。


「これですか?」


 弥生がそのボタンを押すと横の本棚が奥のほうに動き、階段が現れた。


「えっ」

「どうだ? 結構面白いだろ」


 弥生が振り返ると翼は自慢げな顔でこちらを見ていた。


「いやはや…そこのボタンが押されるのは、結構久しぶりかもな…できれば、中の掃除もしてくれないか?」

「えっあっはい」

「ありがとう。掃除用具は、階段上がって左の扉の中に収納されてるから頼むよ」


 翼は、再び文庫本を読み始める。

 それにしても、図書館にこのようなギミックがいるのかという疑問をぶつけてはいけないのだろうか…




 *




「これは…」


 弥生が、はたきを持って2階に上がったのだが、翼の人が久しく入っていないというのは冗談ではないらしく、どの本にも大量のホコリがかぶっていた。

 本を大切にしているのか、いないのか…何とも、わからない人物である。


「やるか…」


 やるといってしまった手前、やらないわけにもいかず、奥のほうからホコリを落としていく。


 確か、3階に歴史書が置いてあったはずなので、彼の話から推測するに2階には、古典が置いてあるはずだ。

 とりあえず、2階の掃除を済ませた弥生は、目の前にあった本を手に取ってみる。

 その本は、「極北(きょくほく)冒険録(ぼうけんろく)」という題名で、冬歌王国の本らしい。


「へー」


 この本の舞台となっているのは冬歌王国で、冬歌王国が成立したころには、未開の地となっていた極北と呼ばれる地域。

 当時の王に命じられその地域を調査している男と先住民族の話が書かれていた。


 最初は、少し読むぐらいならという考えだったが、気づけば次々とページをめくっていた。


「冬歌の古典か…気に入ったのなら、持って行ってもいいよ」


 いつの間に来たのか、翼が後ろに立っていた。


「いいんですか?」

「うん。ちょっと見てみたけど、結構きれいに掃除されているみたいだしから、そのお礼さ。どうせ、上の階に来るほど読書熱心な奴は滅多にいないからな」


 上の階に人が来ないのは、階段が見つかりにくいのが原因なのでは? などとは、思ったが、弥生は頭を下げて本を抱える。


「ありがとうございます」

「また来てよ。君なら歓迎する」

「はい!」


 弥生は、もう一度頭を下げて、階段のほうに歩いていく。


「いやはや、今度の新人さんは有望だね…前とは大違いだ」


 そんな背中を翼は、ほほえましく見送っていた。




 *




 横丁の端にある弥生の家。

 きれいに掃除され、あまり多くの家具が置かれていないこの部屋で、弥生は夢中になって続きを読んでいた。


 それを読んでいるうちに、彼女は、自分がなぜ、図書館へ行ったのかすっかり忘れていた。


「弥生ちゃん。家にいる?」


 そんな中、訪問者が来たようだ。

 弥生は、本にしおりを挟むと、今行きます。などと言いながら、扉を開けた。


「弥生ちゃん! 来ちゃった!」


 扉を開けた先にいた訪問者は、意外なことに睦月だった。


「睦月先輩! どうしたんですか?」

「いやいや。翼ちゃんから話を聞いてね。あの翼ちゃんにあそこまで言わせるなんてさすがだね」


 どうやら、翼と睦月は知り合いだったらしい。とは言っても、なぜ、弥生の家を訪れたのだろうか?


「いやーあの図書館にあるからくりを動かしてまで上の階の本を読みたいって言ったぐらいだから、どんな本を持ってたのか気になってね。上がってもいい?」

「どうぞ」


 予想外な訪問理由に戸惑いながらも、弥生は睦月を招き入れる。


「そんじゃ、お邪魔しまーす!」


 睦月は意気揚々と靴を脱いで家をあがる。


「極北冒険録か…なるほど、翼ちゃんが喜ぶわけだ」

「どういうことですか?」


 玄関扉を閉めた弥生が、睦月に問いかけた。

 すると彼女は、よくぞ聞いてくれました! というような顔をした。


「まぁ単純な話だよ。翼ちゃんは、もともと冬歌王国の出身らしいんだ。だから、冬歌王国の古典に興味を持ってもらえてうれしいっていうわけさ。まぁ水無月のように言ってみれば、愛というのは偉大なもので、それは故郷に対する郷土愛も同じもの! って言ったところかな」


 睦月は、両手を広げてそんなことを言ってのける。

 その姿からは、異様な自身がうかがわれた。


「なるほど…郷土愛。ですか…」

「そう。郷土愛。じゃないと、あの翼ちゃんが簡単に本を手放すわけないもん」


 つまり、彼女は弥生がいかにして、翼から本を手放させたか知りたかったようだ。

 それにしても、翼が冬歌王国出身だったとは少々意外だ。

 自分の勝手なイメージかもしれないが、冬歌王国出身者は、卯月のように自己中心的な人間が多いという印象を受ける。


 卯月が言うには、この傾向は、冬歌の歴史に関係があるらしく、そういう国民性なのだから、変えようがないと聞いていた。


「意外だった?」

「はい…卯月先輩のイメージが強いので…」


 弥生は、睦月の問いかけに正直に答える。


「まぁそうだよね…冬歌王国は、多民族国家だ。その国内には、たくさんの少数民族が存在する。卯月は、その中で一番人口が多く、冬歌の中心を担っている冬歌人だ。それに対して、翼は、その極北冒険録に登場する少数民族の北民(ほくみん)人なんだ。同じ冬歌王国の出身でも全く違うのは、そういうことだよ」


 睦月は、丁寧に図を描きながら説明し、弥生は熱心に耳を傾けていた。


「まぁ豊歌国出身の弥生ちゃんに民族抗争のことを言ってもイメージしにくいと思うけど、冬歌人と北民人は仲が悪いんだ。あぁ。ボクは、そろそろ帰らせてもらうよ。それと、桜について調べるなら、図書館に行くよりも長老に話を聞いたほうが早いと思うよ」


 そう話を締めくくった睦月は、今度ボクが来たら、ちゃんとお茶ぐらい出してよね。と言い残して帰って行った。



 読んでいただきありがとうございます。


 これからもよろしくお願いします。

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