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十二人の歌守  作者: 白波
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第2話 歌守たち(後編)


 八百万横丁の中央を貫く大通り。

 この道を如月があたりを見回しながら歩いていた。


「如月よ。探し物か?」


 そんな彼女に話しかけたのは、新緑を思わせる黄緑色の髪が特徴である歌守の卯月だった。


「卯月か…」

「そうじゃ。卯月様じゃ! して、探し物をしているように見えたのじゃが? なんだったら、妾が協力せんこともないぞ!」

「結構です」


 如月は、早々にその場から退散しようとするが、卯月が必死になってゆく手を阻んだ。


「少しは話を聞かぬか! 妾も協力すれば、すぐに見つかるに決まっているのじゃ! だから…」


 必死になっている卯月を無視する形で、如月は反対方向へ歩き出す。


「待たぬか! 少しは話を聞くのじゃ!」


 如月と卯月は、街道のど真ん中で行ったり来たりを繰り返していた。




 *




 そんな二人を見ている人影が二人。


「あれって、卯月殿と如月殿だよな…何をやっておるのだ?」

「もしかして、二人は惹かれあっていて、ここから禁断の恋とか始まっちゃうのかな!」


 この二人は、歌守の霜月と同じく歌守の水無月。

 それぞれ、白銀の世界を思わせるような真っ白な髪と麗しい水のような青色の髪が特徴的な二人は、如月と卯月の様子をずっとうかがっていた。


「ふむ…あの二人に限ってそれはないだろうから、おそらく、何かもめているのではないか? 一方的に卯月殿が突っかかっているようにしか見えんが…」

「はぁそして、二人は誰にも気づかれずに…」

「そうなれば、助け舟の一つや二つ必要に…」


 二人の会話が見事にかみ合っていないのだが、お互いにこのことに関して気にせずに話を進める。

 この様子を見る限り、いつもこうだと考えたほうがよさそうだ。


「しかし、相変わらずだな…如月殿は…理由はよくわからんが、睦月殿のことも極端に嫌っておるし…」

「あぁ…これは、男の取り合いによる恋合戦なのね! そこから、愛のラブロマンスが!」


 気づけば、しょうがないとばかりに如月が卯月に弥生を探している旨を伝え、卯月も如月も葉月を探すために別の方向へ歩き出していたのだが、二人ともそのことに気づいていない。


「あぁ! 愛というのは、なんと素晴らしいものなのでしょうか! 愛こそ、全人類の生きる意味! そう、愛は偉大なのだから!」

「如月殿は、自らの事情に首を突っ込まれることを極端に嫌うからな…下手に手を出すよりもこのまま見守っていたほうが…」


 二人が、如月と卯月を見失ったという事実に気づくまであと1時間。如月が、睦月が言伝をちゃんとできていて、弥生はすでに歌殿にきているのでは? という考えに至るまで、さらに2時間ほどかかったという。




 *




 そのころの歌殿。

 先ほどからのんびりとお茶を飲んでいる師走と弥生に加えて、先ほど葉月と交代して、歌櫓から降りてきた初夏の空を思わせる青い髪が特徴である歌守の文月と、同じく歌守で月とウサギが描かれた着物を着た長月が来ていた。


「まったく…葉月さんには困ったものですよ! どうしていつもいつもいつも!」

「まぁ落ち着けよ文月…師走様の前だよ…もうちょっとおとなしく…」


 文月は、葉月の遅刻に相当腹を立てているらしく、長月がなだめようとするがまったくと言っていいほど効果がない。


「文月はいっつもそう! おとなしくしろおとなしくしろって! そんなんじゃ! 退屈で死んじゃうわよ!」

「歌守は不老不死だろうが。あまり怒ると小じわが増えるぞ。それに、あたしら歌守にとってみれば、こんな遅刻は永遠に続く人生のほんのワンシーンだろうが」

「そっちこそ余計よ! 見た目も背も体重も基本的にこのまま変わらないんだしさ…って、それじゃ私の背は小さいままに!」


 なだめているのか、けなしているのか…

 この二人の喧嘩はなかなか終わりそうにない。


 さて、そんなことはさておき、なぜ、不老不死で立場的には対等であるはずの歌守に実質的な上下関係が生まれてしまったのか? それには、それなりのわけがある。


 はるか昔、神は少女たちに歌を歌い、世界を安定に導くように命じた。

 その際、歌い継がれていくうちに歌が変わり、効果が薄くなってはならないということで、少女たちを不老不死の体とし、すべての世界に効果が及ぶようあらゆる世界の中心に位置するこの場所に、歌櫓と歌殿を造った。


 時は流れ、少女たちは歌守の仕事を全うしながらも永遠の生を謳歌していたが、本来の人間の寿命が近づき、周りの人間が亡くなるにつれて、自分たちはこのままでよいのかという疑問に突き当たった。


 この状況を見た神は、最年長者が後進の育成をしっかりとすることを条件に歌守を引退してもよいとしたのだった。


 これが現在でも受け継がれ、現在最年長の師走が弥生の指導に当たっているという状況をつくり、師走の在任期間の長さゆえ、如月や睦月などの年長者を除くほとんどの歌守が、師走を師と仰いでいるということなのだ。


「あっあの…文月さんと長月さん…どうしたんですか?」


 文月と長月の喧嘩におびえながら歌殿から出てきたのは、もみじを思わせるような真紅の髪が特徴の神無月。彼女もまた歌守の一人である。


「それがですねーきっかけは、小さなけんかだったんですけど、だんだんと大事になってきて…」

「私たちは、文月先輩と長月先輩の喧嘩が終わるのを待っているわけです。神無月先輩、お茶をお入れしますね」


 弥生は、頭を下げて奥へ…給湯室のほうへと去って行った。

 神無月は、おろおろとした様子で先ほど、弥生が座っていた場所から師走を挟んで反対側に座った。


「あっあの。恐れながら、師走様は、あの喧嘩を止めようとは考えないんですか?」


 いつまでたっても眺めているだけの師走に対して、必死になって喧嘩をやめされるように迫るが、師走はそんなこと気にせずにお茶をすすっている。


「師走様!」

「いいじゃない。喧嘩するほど仲がいいっていうし、それに、基本的には歌守は立場的にはみんな対等だから、私の前だからとか気にしなくてもいいのよ…さすがに、手が出たらやめされるけど」


 さて、師走が傍観する中、この喧嘩が終わるのはいつになるのだろうか…




 *




 一方、もしかしたら弥生が歌殿にいるのでは? という卯月の意見を聞き入れ、如月と卯月はやや早歩きで横丁の中心へと向かっていた。


「これで、弥生が歌殿にいたら、妾に何かおごるのじゃ! なにせ、妾の意見なしでは、その答えにたどり着くことはなかろうに」

「…今度、おごるわ。その代わりといってはなんだけど、歌殿にいなかったら、覚えていなさいよ」

「ふっしっしっそう来なくては! それでは、歌殿へ急ぐのじゃ!」


 如月は、卯月をどうこき使ってやろうかなどと考えながら、歌殿のほうへ歩く。

 その後ろを歩く卯月もまた、如月に何をおごらせようかと考えていた。


(卯月の場合、結構小柄だから、部屋の隅の普段手が届かないあたりでも掃除させようかしら…)

(そうじゃな…やはり、この時期じゃと春歌(しゅんか)の作物がおいしい季節じゃな…そうでなくとも冬歌(とうか)王国の蟹でもいいし、いっそのこと、豊歌(ほうか)国の和食とやらも食してみたいのう…まぁあとでじっくりと考えればよいか…)


 まったくと言っていいほど、全く違う別の思惑を交差させ、聞こえてきた葉月の歌声とともに歩いていた。



 読んでいただきありがとうございます。


 これで、歌守全員登場! と思っていたら、十一人しかいませんでした。

 十二人目は、次回出す予定です。


 これからもよろしくお願いします。

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