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十二人の歌守  作者: 白波
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第1話 歌守たち(前編)


 今よりはるか昔。

 地上に巣食う魔物に困り果てた神は地上に降り、人間に魔物を鎮魂する歌を与える。

 神は、十二人の少女に歌とこの世とは思えぬ美声を与え、世界の中心で魔物を沈める歌を歌うように命じた。

 少女たちは、神の意向に沿い、不老不死の体を得て一中一夜、途切れさせることなく歌を歌い、魔物は地上より姿を消したという…


 八百万横丁図書館の地下より発見された古文より抜粋




 *




 皆さんは、平行世界(パラレルワールド)の存在を信じるだろうか?

 もしも魔法があったら世界はどうなるの? もしも宇宙人がある日、突然侵略してきたら? まるで、実際に自分がそこにいるように感じるようなオンラインゲームをプレイしていたら、ログアウト不能になって脱出する方法を探さなけれならなくなったら? どんな平行世界(パラレルワールド)も、常に人間の憧れや想像から生まれてきた。人の数だけそれぞれ思い描かれる世界があり、その世界の数だけ物語がある…


 そんな、星の数ほどある平行世界(パラレルワールド)の交わる場所に存在する八百万横丁。

 この横丁の端にある桜の木の前に白色のワンピースを着て、麦わら帽子をかぶった少女が立っていた。


「葉月先輩! ここにいましたか…」


 葉月と呼ばれた少女が振り向くと、横丁のほうから桜が描かれた着物を着た少女が歩いてきた。


「えーと…卯月でよかったっけ?」


 葉月がそういうと、卯月と呼ばれた少女は、怪訝そうな表情を浮かべる。


「弥生です。というか、よりにもよって弥生先輩と間違うなんてどういうことですか! どこがどう似てるんですか!」

「ごめん。弥生だったね」


 卯月…もとい、弥生がものすごい剣幕で迫るが、葉月は一切動じることなく平謝りをするだけだ。


「そうですよ。間違えないでください」


 弥生は、先ほどまでの怒りをどこかに収めて、葉月と同じように桜の木を見上げる。


「それで…弥生が私に用なんて珍しいわね…師走に学ぶより私のほうがいいって気づいたの?」


 葉月は、夏の海を思わせるような深い青色の瞳で弥生を見つめる。


「違いますよ。相変わらず葉月先輩はご冗談がうまいようで…」


 弥生は、間髪入れずに否定した。それだけではなく、冗談がうまいなどとちゃっかり嫌味まで言っていた。


「あのね…私は先輩なのよ。私の背中を見て成長しなさいよ」

「そういいますがね…先輩、もう交代の時間過ぎていますよ」


 その瞬間、すべての時間が止まったかのように葉月が動きを止める。

 先ほどまで吹いていたそよ風がなくなり、風でそよいでいた草も動きを止めた。


「えっと…マジ?」

「真面目にです。大体、十分ぐらい前に歌櫓(うたやぐら)に来ていただきませんと…とりあえず、文月先輩が代理を務めています」


 葉月は、気まずそうな顔をしながら頭をかく。

 まぁ遅刻をするべきでないというのは、大体の世界で共通している。


「そうかぁ…じゃ行くから!」


 葉月は、黒く長い髪をなびかせ、かぶっていた麦わら帽子を落としたことにも気づかずに、このまま食パンを食べながら、角でぶつかり、その日にぶつかった相手がいるクラスに転校してくれば、ベタな学園物が始まりそうだな…などという考えに行きつくような走り方で去って行った。


「はぁ…私はちゃんとやってけるのかな…」


 そんな葉月の背中を見て、弥生は一人不安を抱えていた。




 *



 この世界には、十二人の歌守がいる。

 詳しいことは知らないのだが、聞いた話では歌守はその歌声で魔物を沈め、世界を安定に導くとされている。


 弥生もまた、その歌守の一人だった。と言っても、歌守に任命されてからまだ日が浅く、現在は最年長である師走のもとで指導を受けているといった状態なのだが…なぜ、そんな彼女が葉月を探していたかという理由は至極単純で、休憩時間になった時に歌守の長月に葉月を探すよう頼まれたため、彼女を探し回っていたのだ。


 葉月を探すために横丁中を歩き回ったせいで疲れていた弥生は、桜の木の幹に体を預けるような形でその場に座った。


「それにしても、葉月ちゃんには困ったものだね」


 突然、そんな声とともに姿を現したのは、歌守の睦月。どうやら、すぐ足元の芝生で昼寝をしていたらしく、髪の毛に芝がついていた。

 睦月は、一見すると少年のような容姿をしているのだが、れっきとした女の子である。睦月は、弥生のほうへ歩み寄って桜の木の前に立った。


「まったく。師走ちゃんは終わりよければすべてよしなんて言ってるけど、ボクは違う。初めが良ければすべてうまく行く。つまり、遅刻などという出端を挫く行為は言語道断だ」


 睦月が葉月のほうを向いた。


「それがボクの主義さ」


 そう言いながら彼…じゃなかった彼女は微笑んだ。


「まぁ人がどう考えていようとボクには関係ないけどね。特に如月の奴なんか何を考えてるかわかったもんじゃない」


 睦月は、終始その笑顔を絶やすことなく会話を終え、横丁のほうを向いてからこう言った。


「そうだ。師走ちゃんが呼んでるよ。なんでも話があるとか言ってたから、急いだほうがいいと思うよ」


 睦月は、弥生のほうを見て、今度はどこかのいたずらっ子のような笑みを浮かべた。


「ありがとうございます」


 少し経って、状況を理解した弥生は、勢いよく頭を下げてその場から走り去って行き、彼女をの背中を押すように心地よい風が吹いていた。


「あっボクとしたことが場所を伝え忘れていた。まぁ何とかなるかな?」


 睦月は、弥生が走り去っていったほうを見つめながらそうつぶやいた。


 そう、睦月や葉月をはじめとした歌守たちは、みんな個性が非常に強いのだ。




 *




 横丁の中心に立つ歌櫓と呼ばれる建物の横。

 歌殿(うたどの)という、歌守に関する業務を執り行うこの建物の、通りに面した場所。雪の結晶が描かれた服に身を包んだ師走は、座布団の上に正座して報告書をかいていたが、時々通りに出て左右を見た。


「ご心配なさらずとも弥生は来ますよ。まぁあいつが呼びに行ったという点が気に入りませんが」


 師走に話しかけたのは、彼女の横に立っていた歌守の如月。

 クールな印象を受ける彼女もまた、通りの向こうを見ていた。


「おやおや…その様子だと如月も弥生ちゃんのことが心配みたいね」

「いえ。私は、あいつが呼びに行ったという点が心配なだけです。なんであいつに任せたんですか?」


 師走は、椅子に座り如月も座るようにと促した。


「失礼します」


 如月が椅子に座ったその時である。

 目の前を白いワンピースを着た葉月が走り抜けていった。


「葉月はまた遅刻か…」

「まぁ葉月ちゃんの場合、あの子なりに一生懸命だから多少なら問題ないと思います。それにしても、弥生ちゃん遅いですね」


 師走が分厚く黒い雲に覆われた空を見上げる。


「いい加減教えてくれませんか? 私と弥生をここに呼んだ理由」


 弥生が来るまでと、ひたすら待たされ続けている如月は、しびれを切らしたようだ。


「あらあら。弥生ちゃんが来るまで教えないわ。気になるなら直接探しに行けばいいじゃない?」

「いえ。それはお断りします。行き違いになれば、余計に時間がかかるので。ですが、あいつに言伝を頼んでちゃんと伝わっているとは思えません。なので、私が彼女を連れてきます」


 如月は、立ち上がって通りに出た。

 そんな如月の様子を見て師走は、柔らかな笑みを浮かべる。


「あらあら。そんなこと言いながら、本当は心配で居ても立っても居られないんじゃないの…」

「違います。私の利益を最優先する。ただ、それだけです」


 如月は、小走りで去って行き、師走はその背中をほほえましく見守っていた。


 なお、当の弥生はというと、この直後に如月が走り去っていった方向とは逆のほうから、息を切らして走りこんできたのだった。



 読んでいただきありがとうございます。


 これからもよろしくお願いします。

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