シロヤマ神社
必死に足を動かし続け、息がすっかり上がった頃に坂の頂上に辿り着いた。
「はぁ〜、疲れた…」
大きくため息を吐きながらクルクルと日傘を畳む。
明るい灰色の御影石で出来た社号標に『シロヤマ神社』と彫られている。そのすぐ奥には立派な石造りの鳥居があり、ナナミは軽く頭を下げて参道へ入った。入って左手に手水舎がある。竹の筒から手水鉢へ絶え間なく水が流れ落ちていて涼しげだ。六本並んでいる年季の入った竹製の柄杓を一本取り、水を掬って手と口を清めた。日陰の手水は冷たく、坂を登って熱がこもった体が少しずつクールダウンしていく。
ハンカチで手を拭きながら境内を見渡してみる。
クスノキのこんもりとした深い緑に囲われており、風が吹くとさわさわと木々が揺れている。あの急勾配が幻だったかのように、ゆったりとした空気に包まれ穏やかな気持ちになった。
(こんな綺麗な場所だったんだ。)
正直なところ、もっと薄暗い怪しげな所を想像していた。
中央だけ石畳が敷かれた参道が拝殿まで真っすぐ延び、その両脇には敷き詰められた砂利が、陽の光を受けて白く輝いていた。参道の突き当たり、五段の石段の手前には高さ二メートルほどの春日灯籠が左右一対に並び、石段を上がると拝殿、その左手には社務所が静かに佇んでいる。
(誰かいるかな……?)
周りを見渡してもナナミ以外には参拝客はおらず、遠くから見る限りでは社務所内に人影は見えない。ほんの少し心細さを感じながら、ひとまず石段の脇の小道からざりざりと砂利を踏み締めて社務所へと向かった。
「すみません……。」
遠慮がちに声をかけると、六十歳前後の男性がすぐに小窓から穏やかな顔を出した。
「こんにちは。ご用向きをお伺いします。」
「あの、……ムツキくんって」
「あぁ!ムツキ様にお会いになったのですね!」
ナナミの不安をよそに男性はにっこりと嬉しそうに笑った。
「ご案内しますので、そのままお待ちください。」
「あ、はい。」
話が通じたという安堵と同時に、もう引き返せないところまで来てしまった恐怖にも似た不安が押し寄せる。やはりムツキはただの子供ではなかった。心臓が早まっていく。帰った方がいいのではないか———そう思った矢先、
「お待たせいたしました。ご案内します。」
先ほどの男性が迎えに来てしまい、ナナミは戸惑いながらもついて歩いた。心が決まったわけではないが、いまさら帰るなんて言い出す勇気もない。
社務所の左手に回ると中へ通された。靴は入ってすぐの土間に並べるよう言われた。
「暑い中おいでになるのは大変だったでしょう。」
「あぁ、はい……」
男性に先導され、細長い廊下を歩く。かなり長い時間歩いているような感覚がした。男性の袴が擦れる音や、自分の足音がやけに大きく聞こえる。心臓の音が相手に聞こえてしまうのではないかと思うくらい、うるさく脈打っている。
男性が立ち止まる。ナナミはようやく顔を上げて正面を見ると、廊下や壁と同じケヤキ色の引き戸があった。男性が戸越しに声を掛ける。
「ミツムネ様、ムツキ様、お客様をお連れしました。」
「通してくれ。」
返ってきた声は今朝会ったムツキのものではなく、若い男性の声だった。
(ミツムネって誰!?)




