不思議な少年②
田舎とは言え、朝の通勤ラッシュではさすがに車内は混んでいる。もちろん座れるわけもなく、座席の前の吊り革につかまる。人の多さで冷房の恩恵にあずかれない。電車が走り出して数分、サーっと血の気が引いていく感覚がした。まずい、血圧が下がってる。吐き気がするし、頭が重い。周りはみな、スマホや新聞を見ているか目を閉じているかで、当然ナナミの体調不良に気付く者はいない。ふーっと息を吐きながら目を瞑り必死に耐えた。
もう限界!というところで大きな駅に着き、幸いにも目の前に座っていたサラリーマンが降りていった。その空いた席に座っていると吐き気はだいぶマシになった。少し安堵して再び目を瞑り、会社の最寄り駅に着くまでに体調が戻ることを祈った。
「すみません、お先に失礼します。お疲れ様です。」
「お疲れ〜!土日、ゆっくり休んで!」
十三時、ナナミは有給を使って早退させてもらった。ランチにほとんど手をつけず、早々に片付けていたところを先輩に見つかり、心配して帰るように言ってくれたのだ。本当にありがたい。三ヶ月前まではもっとピリピリした空気が漂うオフィスだったのに、すっかり良い方向に変わっている。
(あれ?でも確か……)
そういえば不眠が始まったのもその頃だった。最近はさらに酷くなってきており、内科で処方された睡眠剤も効かなくなってきている。医師からはメンタルクリニックの受診も提案された。確かに三ヶ月前といえば、あと一つだけ思い当たることがあった。しかしメンタルクリニックに相談できるような内容ではない。
(神社、行ってみようかな。)
帰りの電車に揺られながら、ふと今朝会った男の子を思い出した。忘れられるはずもない出会いだが、電車での体調不良ですっかり頭から抜け落ちていた。
自分でもどうかしていると思う。子どものいたずらかもしれない。詐欺かもしれない。化かされたのかもしれない。だけど、もしかするとあの男の子なら導いてくれるのでは、というほのかな期待を抱かせる何かがあった。
そんなことを考えながら、スマホを取り出して“シロヤマ神社”と検索をかけた。ナナミの自宅の最寄駅から、自宅とは逆方向に二十分歩いたところにあるらしい。結構歩くが時間はある。窓口の受け付けも十五時までやっているから間に合う。
駅に着くと、いつもと違う方向に歩き出す。
(こっちの方には来たことなかったかも。)
見慣れない道をスマホのマップを頼りに歩くこと十五分、ナナミは一度立ち止まった。目の前に急勾配の坂が現れたからだ。
(えーーー………。)
朝より湿度は下がってはいるが代わりに日差しが強さを増している。十四時の日差しは特別容赦ない。その事実を恨めしく思った。
(あと少しで着くはず!)
マイボトルの水をグッと喉に流し込み、この坂を登る決意を固めた。




