不思議な少年
すっかり雨は上がり、空には薄く細長い雲がひとつ浮かぶだけ。太陽は朝から容赦なく地上を照りつけている。風はまだ少しひんやりしていて気持ちが良いが、じめっとした空気が暑さを増幅させる。
駅まで歩いていると、日傘を差していてもうっすらと額に汗が浮かぶ。せっかくアイロンを通した前髪が崩れないように、ハンディファンの風量をカチカチと上げて顔に当てた。
ほとんど眠れないまま夜が明けてしまい、体が重い。加えてこの蒸し暑さ、胸の辺りがムカムカしてきた。濡れた葉っぱが散らばる小道を抜けて、広い道に出ると端で立ち止まり、マイボトルを取り出して水を飲んだ。冷たさが喉を伝い、体の芯まで冷えていく。
ふぅ、と一息をつき顔を上げると五歩先のところに六歳くらいだろうか、耳上で切りそろえられたおかっぱ頭の男の子がこちらを見ていた。男の子は白地に藍色の斑点模様の甚平を着て、青色のサンダルを履いている。
「お姉さん疲れてるね」
可愛らしい高い声で、ド直球な言葉を投げてきた。
「えぇ?そうかな?」
そんなに疲れて見えるのかとショックを受けたが、小さな子にそれを悟られぬように努めて明るく返した。
「うん。困ってたらシロヤマ神社に相談したらいいよ。」
ゆっくりこちらに向かって歩きながら、その子は言った。優美な動きに目を奪われ呼吸を忘れた。陽の光にきらきら輝く薄茶色の髪がさらさらと風に揺れる。
気づくとすぐ目の前にいて、大きな琥珀色の瞳がじっとこちらを見上げていた。
何故ひとりでいるのか、保護者はどこにいるのか、聞かないといけないことはある。だけど何故だろう、その瞳の奥に吸い込まれていくような感覚が体を支配して、声を出すことが出来なかった。
「ムツキに会ったって言えばいいからね。」
そう言ってナナミを通り越して小道へと入っていった。
「えっ、ねぇ!?」
我に帰り慌てて振り向くとそこには少年の姿は無かった。遠くからキャップを被ったおじさんが銀色の自転車に乗って濡れた落ち葉の上を走ってきているだけ。
「…………っ!仕事行かなきゃ!」
はっと我に帰り、信号の押しボタンをグッと押して青に変わるのを待った。




