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モモの依頼

戸が開き、ミズノが依頼人の女性に入室を促した。

「どうぞ、こちらにお掛けください。」

ミツムネは笑顔を作り、女性に席を勧めた。彼女はぎこちない動きでそれに従った。腰を下ろしたのを確認して、にっこりと笑いかける。

「こんにちは。私はミツムネと申します。ここで相談事を請け負っている者です。」

「あ、こんにちは……。カシイ モモと申します。よろしくお願いいたします。」

モモは深々と頭を下げた。

「そう緊張なさらないでくださいね。」

あまりにもガチガチのモモに、ミツムネは優しく微笑んだ。

「では、まずはじめに、こちらで対処できる案件かどうか判断するために、いくつかお聞きします。」

「……はい。」

か細く掠れた声で返事をしたモモ。ミツムネの微笑みでかえって緊張は増すばかりだった。

「今お悩みの問題が生じる前に、神社で願い事をされましたか?」

「はい。」

「そして、その願い事は叶いましたか?」

モモは唇をきゅっと結び、視線を泳がせた。

「…………は、はい。」

「叶った直後から問題が生じましたか?」

「……はい。」

「なるほど。詳しくお話を伺いましょうか。」


「話をする前に、一旦お茶をどうぞ。」

ミツムネが、先ほどミズノが持ってきたお茶を勧めると、モモは細かく震える両手でグラスを包んだ。

(……先に話を進めた方が良いのか?)

どうしたものか考えていると、モモと目が合った。反射的にミツムネは穏やかに微笑みかけたが、その瞬間、彼女は慌てたように視線を外し、お茶を一口だけ飲んでグラスを置いた。

「……。それでは、神社に何を願ったのか、そこからお話しください。」

「はい……。今年の初めに、トキヨリ神社に行きまして。そこで、婚活が上手くいって今年中に結婚出来ますようにとお願いしました。」

「トキヨリ神社、ですか。」

ノートパソコンでデータベースを開く。トキヨリ神社と検索すると、一件ヒットした。どうやら縁結びで有名なようだ。アメガオカほどではないが、規模もなかなか大きい。

(また縁結びか。うちも始めたら賑やかになるか?)

「それで、今のお悩みはどういったことでしょうか。」

ミツムネは、モモの緊張を解すために出来るだけ穏やかな声色で尋ねた。

「神社にお願いをしてすぐに、今の彼と出会いました。……そこからはトントン拍子で交際して、プロポーズされて、婚約して……。結納までしたんですが、その後で……。」

そこまで話し、モモは言葉を詰まらせ下を向いた。下唇を噛んで、涙を堪えているようだった。

ミツムネは懐から手ぬぐいを取り出し、モモに差し出した。

「良ければお使いください。」

彼女は小さくお礼を言いながら受け取り、目の縁を拭った。

(先に“要素”を見ておくか。)

落ち着くのを待つ間に、“要素”を確認して現状を把握することにした。

彼女は“要素”の項目自体が多い。それに加えてほぼ全てが平均値より高く、その配分もバランスが良い。中でも、“行動力”と“計画性”が比較的高かった。

ミツムネはペンを手に取り、“要素”の項目とそれぞれの数値をメモした。

元々の素質がよほど高く、この状態でもなお半分以上を失っているのか。それとも、問題は“要素”の減少ではなく、叶った願いそのものにあるのか。


「……すみません。」

モモが鼻を啜りながらも、ようやく顔を上げ謝罪の言葉を口にした。

「いえ。それは差し上げますから、持っていてください。」

ミツムネは優しく目を細めた。

「その後で、彼の浮気が発覚したんです。私とまだ一年も付き合ってないのに、もう浮気されて……。それに、数十万ですけど、借金があることも分かったんです。」

モモはぐっと強く唇を噛んで、それからミツムネに縋るような視線を向けた。

「私、この人とこのまま結婚することになるんでしょうか!?私は婚約を解消して別れたいのに、彼は結納も済んだからってなかなか認めてくれなくて。でも、こんな結婚は嫌です!」

「お話くださりありがとうございます。事情は分かりました。」

感情のままに訴えるモモに、ミツムネは穏やかな声で返した。

なるほど。まだ願いが叶った訳ではなく、叶っている途中の段階らしい。先ほどミツムネが「願いは叶ったか」と聞いたときに、迷っていたのはそのためか。しかし、まだ願いが叶っていないとなると、これは難しい。

(さて、どうしたものか……。)

「このまま結婚することになるのか、残念ながら、それは私にも分かりません。モモさんが彼を説得して別れることが出来た後に、違う方と結婚する可能性もあります。今の彼が心を入れ替えて、モモさんが思い描く理想に近づいていく可能性だってあるのです。」

モモは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。それを見たミツムネは一呼吸おき、丁寧に言葉を紡いだ。

「……そうですね。———願いはまだ進行中ですから、これから先どうなっていくのか、それは誰にも分かりません。」


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