会議終了後
「ハルオ、俺は部屋に戻る。」
ミツムネは、窓口の拭き掃除をしているミズノに声を掛けた。彼は「かしこまりました。」と恭しく頭を下げた。
一面ケヤキ色の廊下をゆっくり歩く。外の世界から切り離されていくように、人の話し声も物音も遠ざかっていき、やがて静寂だけが残った。
「今日の依頼は二件か……。」
昨日ムツキが声を掛けた人間が午前に一人、午後にもう一人来る。
どんな面白いことが待っているのか楽しみだ。ミツムネはひとり、わずかに口角を上げた。
部屋に戻ると、ムツキがテーブルで本を読んでいた。ここ最近夢中になっている星の図鑑だ。
「起きたのか。おはよう。」
「おはよう。さっき起きたよ。もう少ししたら来ると思うから。」
「どんな人間だろうな。」
「そこなの?」
ムツキは少し呆れたような声を上げた。視線は変わらず図鑑に集中している。
「興味無いのか?こんなに人間が面白くなかったら、この仕事は続かなかっただろう?」
「僕は喜んでもらえたら別にいいかな。」
相変わらずあっさりしている。
今までは見ているだけだった人間と、こんなに間近で接することが出来るのだ。これを楽しまずにどうする。
ここ最近は興味深いことがよく起こる。アサヒ ナナミ———“要素”がこれほど色濃く他人にまで影響を及ぼすとは、ミツムネの記憶の限りでは初めてだった。
「ねぇ、朝のおやつはなんだったの?」
ミツムネが考え事をしていると、ムツキが呑気に尋ねてきた。
「柚子の琥珀糖だった。」
「へ〜いいなぁ。早く起きて行けば良かったな。」
「その価値はあったかもな。」
「また持ってきてもらおう。……もうすぐ来るかな。今度は何のお菓子だろうね。」
「まずは『どんな依頼かな』だろ?」
ほどなくして、戸の向こうからミズノの声がした。
「ミツムネ様、ムツキ様。お客様をお連れしました。」




