朝活
ピピピピピピ……
ナナミはベッドサイドのナイトテーブルに手を伸ばし、手探りでスマホを探した。
(六時か……。アラーム消し忘れてた……。)
今日は土曜日。それなのに平日と同じ時間に起きてしまった。
カーテンから漏れる光だけでこんなにも部屋が明るい。今日も一日、厳しい暑さになりそうだ。
ナナミは二度寝しようとベッドに転がったままでいた。
今日はシロヤマ神社へ参拝する予定だ。あの肩揉みからもう一週間経ったのは信じられない。体感ではつい数日前のことのようなのに。社会人の時の流れは驚くほど速い。
ゴロゴロしながらそんなことを考えていると、突如、ある妙案が頭に浮かび飛び起きた。
(社務所が開く前に神社に行けば、参拝だけで帰れるんじゃない?)
自分の賢さを褒め称えたい。
シロヤマ神社の受付時間を調べてみると、朝は九時からだ。余裕で間に合う。
(そうと決まれば、出かける準備をしないと!)
朝活、と言うのだろうか。こうして休日の静かな街を歩くのは気持ちが良い。気温は高いが朝の空気は清々しい。何だか有意義な一日になりそうな気がする。
坂を登りきって境内に入ると、周りの木々のおかげか、ひときわ涼しくなった。
真っ青な空に綿雲が浮かび、クスノキの深い緑が風にそよぐ。その下では、拝殿の瓦が陽の光を受けて銀色に輝いている。
手水舎の日陰で涼みながら眺めるこの風景がナナミは好きだった。
参道の端を進んで石段を上った。軽く会釈をしてから拝殿に寄り、そっとお賽銭を入れた。
(二礼、二拍手、一礼、っと。)
「ナナミさん、おはようございます。」
「うわぁっ!!」
驚いて顔を上げると、例の如くにこにこのミツムネがいた。
「な、何でいるんですか!?」
「何でと言われても。」
ミツムネはくすくすと笑った。まぁ、ここに住んでいるのだから「何でいるのか」と言われても困るだろう。
「良ければ意見を聞かせてほしいのですが、社務所に来てもらえませんか?」
「……社務所ですか?」
あの応接室ではないのか、とナナミは不思議に思った。
「ミズノもいますから、二人きりではないですが。」
そう告げたミツムネは、くるりと背を向けて、拝殿左手の社務所に続く通路へ歩き出した。
まるでナナミがついて来ることを確信しているかのようだ。それに、まるでナナミが彼と二人きりになりたいかのような言い草だった。
(誰が行くもんか!)
ふん、とミツムネから顔を背けて石段を降りようとした。
「来ないんですか?」
ミツムネが一度立ち止まり、首だけ振り返ってナナミに声を掛けた。こちらの態度などまったく気にしていない様子で、相変わらずご機嫌だ。
太陽の下で微笑む彼は、応接室とはまた違うように見えた。陽の光が眩しいからだろうか。艶やかな黒髪も、オニキスの瞳も、より美しく、爽やかな藍白の着物がよく似合っていた。
「…………。」
その輝きに引き寄せられるように、不本意ながらもナナミは黙ってミツムネの背中を追った。




