個性的
ナナミはカオルを社務所まで送り、またミツムネの部屋まで戻った。
(何で戻ってきちゃったんだろう……。帰れば良かったのに。)
「見送りありがとうございました。」
ミツムネは念書のファイルを見ながら、にこやかにそう言った。
「ミツムネさんは、カオルさんから対価をもらわなかったんですね。」
ナナミもリリカも、ミツムネに問題を解決してもらった対価を分割払いしているが、カオルにはそのような話は一切していなかった。
ナナミはミツムネの正面の席に座り直して尋ねた。
「そりゃそうですよ。」
彼はファイルに視線を落としたまま答え、ぱたんと閉じてノートパソコンの上に置いた。
「うちの祭神のミスですからね。」
そう言いながら、若鮎を菓子切りで一口大に切り分け、口に運ぶ。
「あの、対価って生活に影響がないように複数から少しずつ貰うって言ってましたよね?」
ミツムネとカオルの会話では、彼は確かにそう説明していた。だが実際、自分とリリカはそのような対価の取られ方はしていない。
「何で私は“幸運”だけ取られたんですか?」
ようやくミツムネは顔を上げ、ナナミを見た。
「先ほど説明した通り、元々の“要素”の量や回復力の問題です。」
お茶を一口飲み、一呼吸置いた。
「そうですね、仮に人間が持てるそれぞれの“要素”の上限を百としましょう。あなたの“幸運”は二百あるようなものです。」
「え、上限超えてるんですけど……。」
「並の人間の2倍は運が良いということです。」
ミツムネは右肘をテーブルに乗せて頬杖をついた。
「“睡眠”は百、“健康”は七十といったところです。そして面白いのは———」
きゅっと唇が弧を描いた。
「この三つしか“要素”を持っていない、ということです。」
「三つしか無いんですか?」
「面白いですよね。」
ミツムネは指を二本立てて見せた。
「人間は大きく分けて二種類います。一つはカオルさんのような、数多くの“要素”を持ちそのすべてが六十から七十のバランス型。もう一つはあなたのような、一極集中型です。」
「何で私はそんなに極端なんですか?」
ナナミの問いにミツムネは肩をすくめた。
「理由はわかりません。ですが———」
「個性的で良いじゃないですか。」
ミツムネが無邪気に笑った。その素直で、どこかあどけない表情に、ナナミは不覚にもきゅんとしてしまった。
「……ですが、今回の依頼では効果がよく分かりませんでしたね。」
「え?何の効果ですか?」
ミツムネは若鮎をもう一口頬張り、テレビかのようにナナミをじーっと眺める。
「いや、あの……、何の効果ですか?」
「あなたがそこにいるだけで周囲にも“幸運”が作用するのなら、触れればさらに恩恵に預かれると思ったのですが……。」
(!?)
あの肩揉みはそういうことだったのか。だから「肩揉みますね」と言って、こちらに拒否権は無かったのか。
「ミツムネさん!そうやってからかうのは、やめた方がいいと思います!」
ナナミが急に声を上げたので、ミツムネはきょとんと目を丸くしている。
「さっきだってカオルさんの反応を楽しんでたし。私も先週は散々弄ばれて、どれだけきつかったか……。」
「それはすみません。」
あっさりしたミツムネの反応に、ナナミはさらにムッとした。
「ふふっ。ですが、人間の反応を見て楽しむな、と言われたら、願いを叶える神様なんていなくなりますよ?」
ミツムネは何がそんなに楽しいのか、笑みをこぼしながら反論した。
「そんなわけないと思いますけど。」
神様が全員こんな愉快犯みたいな性格なんて、そんなことあってたまるか。
「願いを叶えた後の、人間の反応が楽しみなんです。」
艶めくオニキスの瞳が柔らかく細められる。
「だから、怒らないでください。」
完全に話をすり替えられて、それとこれとは別の話だろ、などと言いたいことは山ほどある。だが、ため息が出るほど美しいミツムネのご尊顔の前にナナミは敗北を喫したのであった。




