カオルの依頼
「どうぞ、こちらにお掛けください。———ナナミさんはこちらへ。」
ミツムネは反対側のソファに移動しつつ、女性にお得意の笑顔を向けて席を勧めた。自分はいつもの席に座り、その横にナナミを座らせた。
「こんにちは。私はミツムネと申します。彼女は……、人間のアサヒ ナナミさんです。」
(もっと何かあったでしょ!)
女性は「はぁ。」と頷きながらも、明らかに困惑している。そりゃそうだ。
「幸運の御守りのようなものです。害はありませんので、同席をお許しください。」
「……分かりました。大丈夫です。私はイノタカ カオルと申します。」
「カオルさんですね。よろしくお願いします。」
「分かりました」と言いつつ、絶対に何も理解していないだろう。そんな彼女に、ミツムネはテーブルの上で手を組み、にっこりと満足げな笑顔を向けた。
「まずはじめに、こちらで対処できる案件かどうか判断するために、いくつかお聞きします。」
「今お悩みの問題が生じる前に、神社で願い事をされましたか?」
「はい、しました。」
「そして、その願い事は叶いましたか?」
「叶いました……。」
「叶った直後から問題が生じましたか?」
「はい、そうです。」
ミツムネは嬉しそうに笑って、手を打った。
「なるほど、詳しくお話を伺いましょう。」
宮司のミズノがお茶とお茶菓子を持ってきた。今日のお茶菓子は若鮎だ。ふっくらとした鮎のお腹が可愛らしい。
「どこの神社で、何を願ったのか、そこから聞かせてください。」
いつものようにミツムネは芝居がかった口調で話し、余裕たっぷりの笑みを浮かべている。
カオルは申し訳なさそうな顔をして、躊躇いがちにこう言った。
「……あの、すみません。一ヶ月前に、この神社で願い事をしたんですけど…………。」
「なるほど。」
一瞬、ミツムネの完全無欠な営業スマイルが固まった。
彼が動揺するなんて、なんとも珍しい。ナナミは何故か勝ち誇ったような気になった。
「……いえ、申し訳ありません。ご不便をおかけしております。」
「い、いえ!すみません……。」
気を取り直したミツムネが頭を下げると、カオルは恐縮した様子を見せた。
「願い事の内容をお聞きしても?」
「あ、はい。資格試験に合格するようにと願いました。」
「今は、どういったことでお悩みですか?」
「頭痛が治らないんです。資格は取れたんですが、合格発表の日から頭痛が始まって……。そんな頭が割れるほど痛いって訳ではないですけど、薬が効かないのでおかしいなぁと思って。」
ミツムネは珍しく、お茶を飲んだりお菓子を食べたりせずに真剣に話を聞いているようだった。
「実は、私の姉がこちらによく参拝しているんです。話を聞いたら、こちらでそういった悩みを解決してもらったと言っていたんです。それで、先ほど境内に入ったときにムツキくんにお会いしまして。……あ、先月も姉についてきた際に願い事をしたんです。」
「そうでしたか。せっかく来ていただいたのに、ご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありません。」
「いえ、とんでもないです。」
ミツムネが再び頭を下げた。和装の美青年がこんなに真摯に謝罪する姿を見たら、誰だって速攻で許してしまいそうだ。
(得だなぁ。)




