大切なご縁
「それではこちらに署名してください。“要素”の回復状況を見ながら少しずつ差っ引いていきます。———それと、分割の場合は手数料がかかりますからね。」
「分かりました。ありがとうございます。」
リリカは何の迷いもなく素直に従っている。
なんと恐ろしい。一度不安にさせてから救済処置を提示することで、手数料など気にならないようにしている。昨日は自分もあっさり承諾したが、よく考えればだいぶズル賢いやり方だと思った。
ミツムネはさらさらとペンを走らせてメモをとり、リリカから受け取った念書にそのメモを貼り付ける。そして丁寧にファイリングした。
「リリカさんは回復に時間がかかるタイプのようなので、長いお付き合いになりそうですね。」
ファイルに挟んである何十枚もの念書をパラパラ見ながら、そう言って視線だけをリリカに移した。
「あ、……嬉しいです。」
リリカは満更でもなさそうな顔をした。
(いや、たぶん喜んで良いことじゃない気がする……。)
ナナミの心配をよそに、リリカはミツムネにルンルンで質問をしていた。
「週一でミツムネ様に会えるってことですか?」
「違いますよ。表の拝殿で参拝するだけです。そこなら“要素”の現状を見ることが出来ますから。あとはお賽銭を忘れずに。」
「お参りに来た人を一人ずつ見てるんですか?大変そうですね。」
「そのための手数料ですからね。」
ミツムネは淡々と質問に答えながら、水羊羹を菓子切りで一口サイズに切り分けてぱくぱく口に運んでいる。
「……そういえば、」
ミツムネが急に顔を上げ、ナナミを見た。
「アサヒ ナナミさん、昨日はありがとうございました。」
「いえ、こちらこそ。久しぶりにぐっすり眠れて、感謝しています。本当にありがとうございました。」
にこにことこちらを見つめるミツムネは、まだ何か言いたげだ。
「……あのぉ?」
「いえ、すみません。素晴らしい回復力だと思いまして。」
彼の満面の笑みに、ナナミは嫌な予感しかしなかった。
「素晴らしい。まさかこんなに回復するとは思っていませんでした。もしやと思って少し多めに頂いておいたのですが、想像以上です。」
(そのせいで私は昨日、泣きたいくらいの不運に見舞われたんですが……。)
念書のファイルをとんとんと手の平に軽く打ちつけながら、ミツムネは続けた。
「この分ですと、支払い完了まであっという間でしょうね。ですが———」
「このご縁をあっさり終わらせてしまうのは、少々もったいないとは思いませんか?」
「そ、そうでしょうか……?」
まずい気がする。あの笑顔は絶対にまずい。何を企んでいるのか分からないが、完全に狩られるうさぎ状態である。
「そこでご相談があります。」
ナナミは固唾を飲んでミツムネの次の言葉を待った。
「週に一度、ここで一緒に働きませんか?」
「え??」
「もちろん、タダでとは言いません。分割払いにしている対価を半分にしましょう。」
高待遇のように聞こえる。だが相手はミツムネだ。何かあるに違いない。
「どうして、そこまでするんですか?」
恐る恐る聞いてみると、ミツムネは相変わらずの笑顔で答えた。
「あなたの“幸運”は周りにも作用しているからです。昨日と今日で、それを確信しました。」
理解の追いつかないナナミに構わず、ミツムネは続けた。
「昨日のタキノモリの神様はとても寛大な対応をしてくださいました。今日のアメガオカの神様は…………、いつもよりは幾分かマシでした。これはあなたがこの場にいたからです。」
ミツムネと視線がぶつかった。
「加えてこの回復力。逃す手はありません。」
爽やかな笑顔で本性を現した。
ミツムネは立ち上がり、身を乗り出してナナミの前に両手をついた。
「まずは半年、そうして座っているだけで構いません。一緒に働きませんか?」
きっと、彼は自分の顔が武器になると分かっている。だからこうして笑顔を作り、その端正な顔が視界いっぱいに映るように近づくのだ。今までの女性たちはころっと落ちたかもしれない。———だが、ここで簡単に頷く訳にはいかない。
「でも、私が来たときに依頼人がちょうど来るかは分からないですよね?」
「ご安心ください。そのあたりはムツキが上手くやりますから。」
穴を突いたかと思いきや、笑顔で一蹴された。
「土日がお休みですか?土曜日と日曜日なら、どちらが良いですか?」
「考えさせてください!!」




