リリカの支払い
ミツムネがファイルから一枚の紙を取り出し、リリカの前に差し出した。
「それでは、問題は無事に解決したことですので、こちらが頂く対価を決めましょう。」
にっこにこのミツムネ。
(いつものミツムネさんに戻ってる。)
「まずは候補を見ますね。」
静かに輝くオニキスのような瞳でリリカを見つめる。彼女は顔を赤らめて下を向いた。ミツムネはそんなことなど気に留めず話し始めた。
「あなたから取れる候補は三つあります。“金運”、“愛情”、“活力”、この三つです。ですが———」
「どう組み合わせて取っても、また困る未来しか見えません。」
にっこり笑って言い切った。
(嬉しそ〜〜)
ナナミはお茶を飲みながらミツムネの様子を観察していた。電話が終わった後、彼は昨日のような胡散臭さと仰々しさを取り戻していた。それが良いかは別として。
「え、すみません。お代が足りないってことですか?」
リリカは膝の上でギュッと拳を握り、不安げにミツムネを見た。
「今ここで、一括で対価を支払う場合の話です。候補は三つあると言いましたが、“金運”は戻ってきたばかりなので大きく減らさない方が良いでしょう。メインは“活力”と“愛情”です。しかし、どちらも今の半分以上を失うことになります。今までの経験上、半分以上を一気に失うとお困りになる方がほとんどです。」
両肘をついて手を組み、軽く顎を乗せた。
「願いを返上したので彼氏はいなくなります。そのうえで一括で対価を頂くことになると、人を愛する力を失い、何事にも意欲が湧きにくくなります。ただ、“金運”は今よりだいぶマシになるでしょう。」
「えっと…………。金運が良くなるだけってことですか?」
「そうですね。だいぶ取られていましたから。」
リリカは不安げに目を泳がせている。それを見たナナミは胸が痛くなった。「大丈夫だよ」と声を掛けてあげたい。だが勝手に何か発言してミツムネのペースを乱すとどうなるのか。それが怖くて、じっと見守ることしか出来なかった。一方、ミツムネは形の良い唇に弧を描き、リリカの前に置いた紙を左手でトントンと軽く叩きながらこう言った。
「ご安心ください。弊社は分割払いも可能です。」
「…‥分割払いですか?」
リリカが顔を上げると、そこには笑顔でこちらを見つめるミツムネの整った顔があった。
「はい、ひとつだけ条件がありますが。」
「条件って何ですか?」
ミツムネは少し身を乗り出して、リリカに顔を近づける。綺麗に指を揃えた手を口に添えて、内緒話をするように声のトーンを抑えてこう言った。
「週に一度、参拝に来てください。」
ナナミには分かる。これは絶対にからかって楽しんでいる。イケメン好きのリリカに対して、何とも悪質ないたずらである。
真っ赤な顔をして固まってしまったリリカを見て、ミツムネは大変満足げに笑った。




