リリカの依頼
「ミツムネ様、ムツキ様、お客様をお連れしました。」
ちらりと隣を見ると、女性は今にも心臓の音が聞こえてきそうなくらい緊張していた。
(分かる、分かるよ。驚くよね。)
部屋に通されると、ナナミはミツムネと目が合った。彼は大きな目を丸くした。
「おや、あなたは昨日の……。まさか、依頼人の紹介ですか?」
隣の女性へと目線を移し、例の営業スマイルを浮かべた。
「違うよ、この人は今朝僕が声を掛けたんだ。」
ムツキがゲームの手を止めて訂正した。彼は今日は杏色の甚平姿だ。ソファに寝転んでいたが、二人が来たのを見てミツムネの隣に移動してくれた。
ミツムネは、「じゃあお前は何をしに来たんだ」と言いたげな顔を隠すこともなく、ひとまず二人に座るよう促した。
「とりあえずお掛けください。」
まるで舞台上かのような、大きく、しなやかな動作。仰々しいのに、彼にとってはそれが普通だと言われれば納得してしまうくらい自然だ。
「失礼します。」
二人でそう言いながら座るさまが、就活の面接を思い出させて、ナナミはひとりで笑いそうになった。自分でも緊張感が無さすぎるとは思う。だが、隣でこんなにもガチガチに緊張している人を見ると、何故だか色んなことが面白く感じてきてしまっていた。
「私はミツムネと申します。ここで相談事を請け負っている者です。お二人はお知り合いですか?」
「いえ、私が一人では心細かったので、初対面なんですが付き添ってもらったんです。」
「なるほど、そうでしたか。」
女性が事情を説明すると、ミツムネは優しい笑顔を作った。
「私はキタハラ リリカです。よろしくお願いします。」
「はじめに、こちらで対処できる案件かどうか判断するために、いくつかお聞きします。」
ミツムネは昨日の瑠璃色の着物ではなく、薄墨色の着物を着ていた。その上から色落ちしたデニムジャケットを肩に引っ掛けているのは、相変わらずである。改めて冷静に見ても、このスタイルがオシャレなのかはナナミには分からなかった。ただ、ミツムネのこの顔だからこそ成立していることだけは確かだ。
「今お悩みの問題が生じる前に、神社で願い事をされましたか?」
「!?はい、しました。」
「そして、その願い事は叶いましたか?」
「……叶いました。」
「叶った直後から問題が生じましたか?」
「!?そうです!」
「それでは詳しくお話を伺いましょう!」
ミツムネは楽しげに身を乗り出した。
(盛り上がってまいりました。)
タイミングを計ったかのように、神職の男性がお茶とお茶菓子を持って来た。今日の菓子はこし餡の水羊羹だった。つるんとした小豆色の表面が涼しげだ。ナナミはお礼を言ってお茶を一口飲んだ。
「いつ、どこの神社で何を願ったのか、そこから聞かせてください。」
「はい。一カ月前に、縁結びで有名なアメガオカ神社に行って、そのぉ……、イケメンの彼氏ができますように、ってお願いしました。」
「アメガオカ神社ですか……。確かに有名ですね。」
神社の名前を聞いた途端、ミツムネの顔から営業スマイルが消えた。カタカタとノートパソコンのキーボードを叩き、頬杖をついて画面を見ている。
「それで、お困りごとはどういった内容ですか?」
「えっと、……その後すぐできた彼氏がクズだったんです。」
「……具体的に言うと?」
「お金にだらしがないというか、遊びに行ってもいつも私がお金を出してて。お互い学生だからこっちも奢ってもらおうとは思ってないですけど、さすがに毎回全部出すのはなぁって……。しかもたまに、お金貸してくれない?って。さすがにヤバいですよね?バイトを増やそうと思っても、最近バイトの人数が増えて思うようにシフトに入れなくて。掛け持ちを探してるんですが、それもなかなか見つからなくて。」
「なるほど。」
ミツムネは唇を尖らせて画面をぼんやり眺めている。
「神社の帰り道でナンパされて、顔もカッコ良くて、絶対これ運命じゃんって思ったのに。なんか、付き合ってみたらしんどくて……。」
「……仕事は早いんだよな。」
ぽつりとミツムネが低い声で呟く。そして黒いファイルをリリカの前にスッと差し出した。
「やはり、あなたの問題はアメガオカ神社が関係していますね。」
「……願いが叶ったから、その代わりに悪いことが起きてるってことですか?」
ミツムネはファイルの表紙を開き、中の図解をリリカに見せた。
「神様に願いを叶えてもらうと、それ相応の対価を支払うことになります。その対価は、人によって異なります。人にはそれぞれ突出した“要素”があり、基本的には上位の“要素”から取られます。」
リリカは図解を真剣に見つめ、うんうんと頷きながら説明を聞いている。
「あなたの話と、“要素”の現状からすると、“金運”と“愛情”が取られたのだと思います。」
「!なるほど、だからお金に困って、彼氏からの愛情も感じないってことなんですね!」
リリカはパッと顔を上げてミツムネを見ると、彼はにっこりと笑顔を作った。
「えぇ。理解が早くて助かります。」
そしてその笑顔のまま、ちらりとナナミを見た。
(もしかして喧嘩売られてる?)




