シロヤマ神社の起源
境内に入ると他にも数人、参拝客がいた。みんな分割払いの契約をしたのだろうかと、ナナミはミツムネの手腕に感心した。
手水舎で清めて拝殿への参道を進むと、道の脇に『シロヤマ神社の由緒』と書かれた大きな木製の立て札があった。昨日は読む余裕も無かったので、近づいて読んでみた。
そこには、こう記されていた。
当社の創祀は南北朝時代にまで遡ります。
この地方の名主の息子ミズノ マタベエが、村の年貢を納めるために、数人の供を率いて山を越えていました。その道中、山賊に襲われ一行は窮地に陥りました。そのとき、突如空から白い大きな岩が落ちてきて、マタベエ一行と山賊との間に立ちはだかったのでした。マタベエらはその隙に逃げ、無事に領主の城へ辿り着くことが出来ました。そのことが領主の耳に入ると、岩を村の守り神として奉るようにとの命令が下りました。マタベエたちは岩を村へはこび、シロオオイワ様と崇敬してお祀りしたことが始まりと伝わっております。戦禍や災害により幾度か遷座しましたが、現在はこの小高い丘の上に鎮座し、この地方の人々を見守ってくださっています。
(岩が御神体ってことなのかな?)
参拝を終えて帰ろうと石段を降りていると、手水舎の近くにいる女性と目が合った。その女性はナナミと目が合うと、躊躇いながらもこちらに小走りで向かってきた。
(え、なに?)
ナナミは内心警戒しながらも、石段の下で彼女と対面した。女性は見たところ二十歳前後。白いコンパクトなTシャツに黒いワイドパンツ、黒い厚底のスポーツサンダルを履いていた。ミルクティーベージュのロングヘアがとてもよく似合う。
「あの、突然すみません!お聞きしたいことがあって……。」
おそらく、ムツキに会って訪ねてきたんだろうと予想できた。
「はい、何でしょうか?」
「あの、シロヤマ神社のムツキくんって知ってますか?」
予想は的中。まぁ、そうだよね。
「あぁ、あっちの社務所にそうやって言うと案内してもらえますよ。」
「!?そうなんですね!ありがとうございます!」
女性は勢いよくナナミに頭を下げて社務所に向かって走り出した。———しかし、すぐに申し訳なさそうな顔をしてナナミを振り返った。
「あのぉ……、初対面で申し訳ないんですが、ついて来てもらうことって出来ますか?」
「えっ……。」
「お願いします!!怖くてひとりでは無理そうなんです!!」
(分かるけど……。)
再び勢いよく頭を下げられ、ナナミは断ることが出来ずについて行くことにした。
「こんにちは〜。」
ナナミは社務所に声を掛けた。二回目ともなると、さすがにこなれ感がある。昨日と同様、すぐに男性が奥から顔を出した。
「こんにちは。おや、昨日はお疲れ様でした。」
男性はナナミのことを覚えていたようで、にこやかに労ってくれた。
「本日はお連れ様とご一緒ですか?」
「いえ、そのぉ……。」
「あのっ、ムツキくんに今朝会って、ここに来たら良いよって教えてもらって……。」
「そうでしたか。では、ご案内しますね。そのまま少々お待ちください。」
男性の柔らかい対応に、女性は少し安心したようだった。まるで昨日の自分を見ているようで、少し微笑ましく感じた。
(大丈夫だよ。頑張って。)
心の中でそっと女性にエールを送った。
「あの、ほんとにすみません。」
「あ、全然大丈夫ですよ。」
そう言って帰ろうとすると、女性は子犬のような目でナナミを見つめてきた。
「……ついて来てもらえませんか?」
「えっ!?」
「お待たせしました。こちらへどうぞお入りください。」
またしても絶妙なタイミングで男性が迎えに来てしまい、ナナミは今日もまたあの不思議な部屋へ向かうことになった。




