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寝取られて壊れた俺、義妹が可愛すぎるから養うことにした ♦︎♦︎♦︎義妹に癒されながらブラック不動産で働くことになった  作者: 白井 緒望


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第97話 次長

 「飛び降り自殺?」

 

 ぐらん。

 目の前が一瞬、薄暗くなった。


 「そう。自殺。同じマンションの人に聞いたんですよ。私は内見があってすぐには出れないから、午後にでも管理人のところにいくつもりです」

 電話越しにナビの音声が聞こえる。


 「私も午後から出れるので行きます!」


 すると、山田さんの声が低くなった。

 「……本当に良いんですか? 私が取捨選択してお伝えすることもできますが」 


 ——俺が知らずに済むようにか。


 「はい。もう手遅れですよ。山田さん、優しいですね」


 午後に約束をして通話を切った。



 前屈みになった。

 

 頭が痛い。

 両手で額を押さえる。


 とりあえず、スマホで心理的瑕疵と飛び降り自殺について調べた。スワイプすると、どんどん事例が出てくる。


 ほとんどのケースで、心理的瑕疵が認められていた。


 「だよな。隠したら、最悪の場合は契約解除か。後から発覚して和解金2,000万なんてのもある」


 モロに飛び降り自殺だったら、さすがに告知しない訳にはいかない。


 ……吐き気がする。

 地面を踏む感覚がぼやける。



 すると、声をかけられた。

 「山路。課長昇進おめでとう」


 見上げると、池田課長だった。


 「課長……いや、次長こそ昇進おめでとうございます。今日は、どうしたんですか?」


 「あぁ、なんか専務に呼び出されてさ。んで、専務はお取り込み中?」


 俺は頷いた。


 池田次長は俺の横に座った。

 長椅子が揺れる。


 「ったくよ、呼び出しておいてこれかよ。んで、山路どうしたんだ? 顔色が悪いぞ」


 次長なら違う部署だし、大丈夫か。


 「実は、私の物件が瑕疵物件かも知れなくて」


 事情を説明した。

 すると、次長は頬杖をついた。


 「なるほどねぇ。売主業者は飛んで、しかも飛び降り自殺か。アウトだわ」


 「ですよね。かなりマズイ状況です。仕入れ値の4,350万でも売れないかも……」

 

 「でも、まだ詳細は分からないんだろ?」


 「そうですけど」


 「なら、違う部屋かも知れないじゃん。まずは、価格会議だな」


 「え? 専務に報告するし、それどころじゃないんじゃ」


 次長は顎を撫でた。

 この人は真顔でも、少し笑顔に見える。


 「ばーか。ビビりの専務と部長の耳に入れてみろ。半値で売り抜けろとか言い出しかねないぞ」


 「でも、仕方ないですよ」


 次長は俺の肩を叩いた。


 「お前なぁ。俺が教えたこと何も覚えてねーだろ。こういう時に大事なのは、順序とタイミングなんだよ。今、言ったらどうなる?」


 「一方的に価格を決められるってことですか?」


 「もし報告の必要がない瑕疵だった場合でも、ずっと部長に仕切られるってことだよ。価格だけじゃなく売り方についても、お前の裁量が一切なくなるぞ?」


 「はい。でも、どうしたら?」


 「だから、専務に言うのは告知することが確定してからってこと。後から『さっき発覚しました』とか言っとけば問題ねーから。目下の問題は価格会議だろ?」


 「午後になったら詳細がわかるんで、なんとか会議をキャンセルできないですかね?」


 次長は「はぁー」と息を吐いた。


 「ばかやろう。会議をキャンセルしたら、今度はその理由を追求されるぞ?」


 「じゃあ、値下げするしか……」


 次長は首を横に振った。

 「こういうのはレンジなんだよ。瑕疵物件なんて多少下げても売れない時は売れねーから。そういう物件なら、なおさら速攻で売った方がいい。狙うべきは、瑕疵なし物件の下限、瑕疵あり物件の上限の値段だな」


 「それってどれくらいですか?」


 すると、ドアが開いた。

 部長だ。


 「くれぐれも自爆しないようにな」

 次長は小声でそう言うと、立ち上がった。


 パンパンと埃を払って、会議室に入っていく。


 え?

 次長も同席するのか?



 「ほら、早く入れよ」

 戸惑っていると、部長に肩を叩かれた。


 俺は大きく息を吸って、立ち上がった。



 部屋に入ると、上座で専務が足を組んでいた。

 その両側には、部長と次長。


 俺の席はその正面。

 まるで査問会だ。


 資料をテーブルに置いて、自分の席に座った。


 部長が口を開いた。

 「では、価格会議を始めます。山路君の物件について、資料を見させてもらったのだが」


 部長に販売図面を渡された。

 すると、専務が続けた。


 「部長と事前に相談してね。9,980万でスタートということになった」

 

 約1億円……。

 この人たち、売る気あるのか?


 ……しかも飛び降りてるんだぞ。

 現実味のない数字に、俺は苛ついた。

 


 

 

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