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寝取られて壊れた俺に、あの子がいびつにハマってくる♦︎♦︎♦︎義妹を養うために、ブラック業界(不動産)で頑張ります!  作者: 白井 緒望


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第9話 記憶


 「わたし、被災地で1人でいるところを保護されたらしいんです。身元に関するものを一切、持っていなくて」


 「名前も?」


 桜藍は首を横に振った。


 「名前は覚えてました。保護された時にそう答えたと。お医者さんが言うには、精神的に強いショックを受けたことが原因かもって」


 「それで、父さんに引き取られたんだね」


 「はい。当時は新聞の端っこに載ったらしくて、その記事をパパが見つけて、わたしをこの家の子にしてくれました。だからね。あのね……」


 「どうした?」


 「わたし、春馬さんの家族に割り込んで……ごめんなさい。でも、わたしここしか居場所がないから」


 俺は自分の肘を抱えた。


 『出て行ってくれないか』

 葬式の後に言った俺の言葉が、今も桜藍を傷つけている。


 「俺の方こそごめん。桜藍がいて良かった。いつもそう思ってる。それに、最近の両親の事を知っているのは、桜藍だけだし」


 「わたしも春馬さんがいてくれて……すごく良かったです。すごく優しいし。あのね。わたし、記憶を失う前、たぶんだけど一人っ子だったんです。だから、お兄ちゃんができてすごく嬉しい」


 「感覚的な記憶?」


 桜藍は頷いた。

 「なんとなくの話です。もしいつか記憶が戻って、兄弟沢山いたらごめんなさい」


 桜藍は口元を綻ばせた。


 『いつか』

 俺は、その言葉に動揺した。

 

 もし、桜藍の記憶が戻って。

 桜藍に本当の兄がいたら?


 ……俺らは『他人』に戻るのかな。


 俺は首を横に振った。

 今、そんなことを考えても仕方ない。


 俺がすべきは、理想の女の子にすること。


 これは俺のエゴだ。

 でも、それでいい。


 ——1人に戻っても、桜藍が大丈夫なように。



 「春馬さん?」

 桜藍が俺の顔を覗き込んだ。


 「どうした?」


 「深刻な顔をしてる。元気ないの? お兄ちゃんって呼んだ方がいいですか?」


 「いや、なんか照れくさいし」


 兄と呼ばれると、何かを失った気がする。

 だから、俺は言葉を続けた。


 「それなら『お兄様』がいいかな。なんかクルものがあるし」

 

 「ええっ。春馬お兄様。キャッ。ちょっと恥ずかしいかも? やっぱり、しらばらくは春馬さんのままでお願いします」


 桜藍の耳の縁が赤くなっている。

 俺はその様子を見ながら、少しだけホッとした、


 「それはそうと、英語をどうにかしないと。アルファベットはわかる?」


 桜藍は頬を膨らませた。


 「バカにしすぎですぅ。分かりますし! でも、他の科目はそんなことないのに、なぜか英単語は全然覚えられなくて。無理に覚えようとすると頭痛がしてくるし」


 頭痛か。


 「そうか。じゃあ、無理のないように対策していこうか。あと、さっきは気づかなかったんだけど、体育も4なんだが。10段階の4、それは即ち、5段階なら2……」


 「春馬さんのいじわるっ。べーっだ。そうですよ。わたしは運動が苦手なんです」


 桜藍はそう言って胸を張った。


 『そのでかいお胸が邪魔なのでは』

 そう思ったが、言うのはやめた。


 「それなら、少しは手伝いできるかも。俺、こう見えても運動は得意なんだよ」


 「そうなんですね! でも、理想の女の子に体育も関係あるんですか?」


 「いや、あまり関係ないかも。普通に桜藍とバスケとかして遊びたいだけかも」

 俺は鼻先をかいた。


 「それなら、してあげてもいいですよ? あの、わたしからもお願いがあるんですけど」


 「なに?」


 「今度、週末にお買い物に行ってもらえませんか?」


 「構わないよ。欲しいものでもあるの?」


 「内緒です」


 「楽しみにしておくよ。まぁ、その前に面接を乗り越えないとな。働かないと金ないし」


 「そうですね。いざとなったらわたしがオジサンとお話するバイトを……。次の面接はいつなんですか?」


 「だから、それはない方向で。するなら普通のバイトにしてよ、面接は来週らしい。俺、頑張るから」


 「じゃあ、お金のかからないお願いもいいですか?」


 桜藍は俺の背中に頬を押し当てた。


 「これがお願い?」


 「わたし、こうしてると安心するんです。ここに居てもいいんだ、って」


 「そっか」


 

 いつか、桜藍がこの家を去るとしても。

 俺がすべきことは、何一つ変わらない。


 ——桜藍と一緒にいる。

 

 それは、契約で。

 希望で。俺は兄だから。

 

 

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