第8話 成績
「先ほどの面接の件なんですが、二次面接を実施させていただくことになりました。つきましては、山路さんのご意向の確認と日程についてなのですが……」
「是非、お願いします」
隣で聞いていた桜藍は小さくガッツポーズをして、俺の二の腕を何度も叩いた。
俺も笑みが漏れた。
「では、そういうことでお願いします」
電話が切れてからは、しばらく放心状態だった。
「春馬さん。すごい!」
「——あぁ。まだ最終面接があるから、どうなるか分からないけどね」
桜藍に不安のない生活がさせられる。
そう思うと、指先の震えが収まった。
「嬉しいよぉ」
桜藍もすごく嬉しそうにしている。
「そんなに喜ばなくても」
「だって、ダメだったらおじさんとお話しするバイトしないと、って思ってたし」
俺は桜藍に、軽くデコピンした。
「だから、それはダメだって。あ、桜藍。俺からお願いがあるんだけど」
すると、桜藍はうつむいた。
「う、うん。どんなお願いでも……覚悟はできてますので」
手を膝の上で揃えている。
……なにか勘違いされているような。
「俺、女の子が必要なものとか分からないのよ。服とか化粧品とか……色々あるだろ? 一緒に買いに行く訳にいかないから、遠慮せずに、ちゃんと必要な金額を言うこと。いいね?」
すると、桜藍は頬を膨らませた。
「ありがとうございます。嬉しいけれど、ちょっと不満です」
「え? どういうこと?」
「もっとすごいお願いされると思ってたのに」
「物足りないのか? この欲張りさんめ。そんなに無理なお願いをされたいなら……、成績表みせて」
「春馬さんのイジワル! ぷんっだ。でも、そうだよね。家族なんだもんね……」
「うん」
「ちょっと待っててください」
桜藍はそう言って、自分の部屋に戻った。
しばらくすると、戻ってきて、そーっと紙を差し出した。
「ありがとう。なんていうか……桜藍が頑張った結果を知っておきたいし。勉強って今しかできないことだからさ」
「……うん。春馬さん。パパと同じこと言ってる」
成績表は真ん中で二つ折りになっていた。
開いて中身を見る。
一覧には、一年生のときの科目ごとの成績(10段階)と、テストの点数。それと教科担任のコメントが書いてある。
「へぇ」
「どうですか? へぇだけじゃなくて、ちゃんと感想教えてください」
「いや、思ったよりずっと良かった」
実際、成績表には10や9が並んでいた。
これなら、何の心配もなさそうだ。
「じゃあ、そういうことで」
桜藍が成績表を回収しようとする。
ん?
いや、ちょっと待て。
俺は違和感をおぼえた。
10や9の数字の中に異物が混ざっている。
「英語が1なんだけど……。点数は4点って書いてある。念の為に聞くけど、これって10点満点か?」
桜藍は照れくさそうに、頬に手をあてた。
「100点満点です」
「気を悪くしないで欲しいんだけど、桜藍ってハーフみたいに見えるから。英語できないと、悪目立ちしないか?」
「そうなんです。お友達には、いつもからかわれてます。それに、駅にいると、すぐに外国人に道を聞かれるし」
「そうだろうなぁ。英語、勉強しないとね。この点数だと、夏休みは英語予備校に軟禁だな」
「ええっ。わたし夏休みはちゃんと遊びたいです! これから頑張りますし!」
「あのさ。一つ聞いていいか? 嫌なら答えなくていいから」
「なんですか?」
「桜藍って、ハーフとかクォーターなのかな?」
桜藍は俯いた。
銀色の髪が肩から滑り落ちる。
桜藍は、どこかの施設にいて。
うちの両親に引き取られた。
「ごめん。無神経だった。やっぱ、答えなくていいから」
桜藍は首を横に振った。
「ううん。春馬さんに話すべきことだもん。あのね」
「うん」
「わたしは、小学生の低学年でパパとママに引き取られたのだけれど、その前の記憶がほとんどないんです」
「……えっ?」
——『Mom, Dad, where are you?』
あの時の桜藍の寝言は英語だった。




