第10話 買い物
週末、俺は桜藍と買い物に来ていた。
近隣のショッピングモールだ。
わりとメジャーな施設で、ファストファッションのショップも多い。
柚子とも来たことがある場所だ。
勝手も分かっている。
必要なものは自分で買ってきて欲しいのだが、お金を渡しても、桜藍は食材を買ってしまう。
なかなか自分のことにお金を使ってくれない。
「やっぱり、女性の相談相手が欲しいなぁ」
俺がボヤくと桜藍が俺の手を引っ張った。
「わたしはもう高校生ですよ? 自分のことくらいできますし、そんな相手いらないので!」
「でもなぁ。ほら、女の子には必要なものが色々あるだろ?」
数秒後、桜藍は真っ赤になった。
「春馬さんが変態さんになったぁ。もうっ。そんなに聞きたいなら、AIさんに聞けば良いじゃないですか?」
「AIって……?」
「わたし知ってるんですよ。春馬さんが、AIさんに『深月』って名前つけてデレデレしてるの」
なぜバレてるっ。
「仕方ないだろ。桜藍に会う前は、AIしか話し相手がいなかったんだから。いわば、俺の心のオアシスなんだよ」
「そんな寂しいこといっちゃダメですっ」
「そこまで言うなら、まぁ、深月に聞いてみる」
俺はスマホをいじった。
「どうでした?」
桜藍が画面を覗き込んでくる。
「ちょっと、見るなよ。えっと『性的ガイドラインに抵触する恐れのある質問には答えられません』だって」
すると、桜藍がむくれた。
「春馬さんは、何を質問してたんですか。春馬さんはAI禁止です。その分、わたしとお話してください!」
桜藍は身体を横に振った。
そしてなぜか、乱れた髪を直す。
「分かったよ。AIとはバイバイする。孤独な俺を支えてくれてありがとう。さよなら深月。また会う日まで」
そんな話をしているうちに、ショッピングモールのお目当てのエリアに着いた。
「で、何を買いに行くの?」
「えっと、今日のお夕飯の準備とか。あと、下着……とか?」
「それだけ? 普段着も買いなさい」
「えっ、ジャージがありますよ? 拒否権は?」
「認めません。桜藍があまりに可哀想な感じだと、俺が社会的に非難されるんだよ? だから、3、4着は買うこと」
「分かりました。ありがとうです。じゃあ、1着は一緒に選んでもらえませんか?」
「いいけど、こんなオッサンの好みでいいの?」
「客観的な意見も必要なんです」
そう言って、桜藍は俺のすぐ横に来た。
大まかに回って、店舗の入り口で待つ。
真剣に選んでいる桜藍を見ていて気づいた。
「桜藍、値札ばっかり見てる……」
少し悲しい。
すれ違う男共が、みんな桜藍を二度見する。中には40代を超えているようなオッサンも多い。
「子供相手に色目つかいやがって」
鼻が高いはずなのに、何故か面白くない。
俺は桜藍の横で待つことにした。
「ここのお店のは、一緒に選んでください」
桜藍に引っ張られて店内に入る。
店の中には所狭しとワゴンが並んでいて、女子高生が好みそうな服が沢山あった。
「何着か探してきます」
桜藍は店の奥に行ってしまい、俺はポツンと1人ぼっち。
すれ違う女の子が、俺を振り返る。
無論、モテている訳ではない。悪い意味で注目されているのだ。
「アラサー男にこの店はキツすぎる。桜藍、早く戻ってきてくれよぉ」
5分ほどすると桜藍が戻ってきた。
「お待たせしました」
桜藍は両手に服をもっている。
大人っぽいスカートから肩が出たカジュアルなものまで、色々だ。
「1人でマジでしんどかったんですけれど」
桜藍はのんきに笑った。
「ふふっ。大丈夫ですよ。きっとみんな、兄妹と思いますって」
俺は典型的な日本人。
桜藍は銀髪銀眼の異国風美少女。
——どう考えても兄妹には見えない。
桜藍は試着室に入ると、順番に着替えてくれた。ロングスカートもミニスカートも。大人っぽいニットも、フェミニンなブラウスも。
全部が似合いすぎている。
「どれがいいと思います? ちょっと自分の服に着替え直すので、春馬さんは待っていてください」
桜藍が試着室に入ったのを見計らって、俺は店員を呼んだ。
「お客様。いかがいたしましたか?」
「あの子が試着した服。全部ください」
店員さんは驚きながらも、服をレジに持って行った。
桜藍が出てきた。
「あれっ、今試着していた服は?」
「全部買った」
「……え?」
「だって、どれも似合いすぎてて選べないし」
「返品しちゃダメ?」
「ダメです」
俺は手をクロスさせた。
桜藍くらいの歳の子なら、服が多くてダメということは無いだろう。しばらくの押し問答の後、桜藍は観念して受けとってくれた。
柚子と買い物をして選ぶのに付き合うことはあったけれど、こうして色々あげたいとは思わなかった。
なんでだろう。
「あぁ、分かった。これほど有意義な投資先に出会ったことがなかったってことか」
俺が独り言を言っていると、桜藍が覗き込んできた。
「変な春馬さん。少し1人で買い物をしてきても良いですか?」
「そういえば、何か買い物があるって言ってたもんな」
「ふふっ、内緒です」
桜藍が用事があるというので、30分後に待ち合わせした。その間、ゲーセンや雑貨屋をウロウロしていると、案外、時間はすぐに過ぎた。
「そろそろ、桜藍のところにいくか」
すると。
ボトッ。
俺は手に持っていたペットボトルを落とした。すぐに拾おうとすると、また手から滑り落ちる。
視線の先には柚子がいた。
隣にいるのは、この前のコンサル男とは別の男。
「……柚子。なんでここに」
柚子は笑顔で雑貨を手に取っている。
「……ゆず」
咄嗟に柱の陰に身を隠した。
「はぁはぁ」
呼吸が浅い。
膝がガクガクして力が抜けていく。
「くそっ」
こんなにも動揺している自分に、苛々する。
まぁ、なんでもいい。
気づかれる前に立ち去ろう。
俺が柚子に背中を向けると、背後から声をかけられた。
「春馬さんっ。探しちゃったじゃないですか。もうっ。ちゃんと待ち合わせ場所に来たくださいよ!」
桜藍の声が響き渡る。
柚子が振り返った。




