第60話 道路
トンッ。
三条君はお猪口をテーブルにおいた。
「俺、そろそろ帰ります」
「え、これから熱燗でるけど」
「こんなクソ熱い日に熱燗なんて、鼻血出そうなんでやめときます」
桜藍に見送られて外に出る。
三条君は土地勘がないので、俺が幹線道路沿いまで送ることにした。
道路が見えてくると、三条君が頭を下げた。
「今日は急にすみませんでした。桜藍ちゃんにもお礼言っといてください」
「あぁ。また来いよ」
空車をみつけて手を上げる。だが、何台かのタクシーに素通りされた。
「あの、俺。モテるとか言われてるけど、女の子にちゃんと相手されたことないんすよ。渡り鳥が一瞬とまる枝みたいな存在?」
俺は手をあげた。
「くそ、また素通りされた」
「なかなか止まらないっすね」
「そういえば、この前、三条君の家にいた女の子はどうなったの?」
「あぁ、あの子。あの後、2、3回ヤッたけれど、それっきりっすね」
「ったく。2、3回、『会った』だろ?」
「春馬さん。女の子に振られたことありますか?」
「あぁ。あるよ。こっぴどくな」
「……一回、俺の方がマジになったらフラれたことがあって。だから、亜梨沙もそうなのかなって」
「そんな子じゃないと思うけど」
「さすがヤッただけのことありますね」
「だーかーらー!」
三条君は笑った。
「ははっ。冗談っすよ。まぁ、そんなわけっす。優しさって分かんないっすね。優しくしても、されても、気持ちは離れていくっす」
生ぬるい風が吹き抜けて。
まばらな雨が降ってきた。
「雨だ」
「散々っすね」
すると、ようやくタクシーが止まった。
「結構、酔ってるだろ? 気をつけて帰れよ」
バタンとドアがあく。
すると、三条君が耳元で囁いた。
「山路さん。家にゴムもってるっすか?」
「だから、桜藍とはそういうことは」
「男と女はどうならか分からないですよ。一応、備えていくのが男の優しさっす」
言いたいことをいうと、三条君はタクシーに乗り込んだ。
「たしかに、一理ある気もする……のか?」
俺は首を横に振った。
「ってか、本降りになってきた」
木陰を選んで、駆け足で家に戻った。
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帰ると桜藍がバスタオルを渡してくれた。
「お酒の続き、飲みますか?」
「いや、やめとこうかな。そういえば、さっき『春馬くん』って呼んでたけど」
桜藍はニコッとした。
「なんとなく、ムカッとしたからですけど」
部屋に戻って、ベッドに身体を投げだした。
スマホを手に取ると、メッセージが来ていた。
三条君からだ。
「今日はありがとうございました。俺、やっぱり亜梨沙のこと好きみたいです。告白しようと思うけど、いけますかね?」




