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寝取られて壊れた俺に、あの子がいびつにハマってくる♦︎♦︎♦︎義妹を養うために、ブラック業界(不動産)で頑張ります!  作者: 白井 緒望


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第5話 弁当

 「起きてください!」

 目を開けると、目の前に桜藍の顔があった。


 ふわっとミントのいい香り。


 「んっ。ああ。おはよ」


 口の中がネバネバする。

 俺は自分の口を塞いだ。

 

 「おはようじゃないです。お口を塞いで内緒ごっこですか?」


 「いや、これは……」


 桜藍の良い匂いに引け目を感じたなんて、さすがにカッコ悪すぎる。


 「春馬さん、自分で面接だから寝坊したらダメとか言ってたんですよ? それなのに春馬さん、全然起きないんですもん」


 そうだった。

 まだ頭がボーッとする。


 立ち上がった桜藍を見上げた。

 「悪い。ところで、大丈夫か? 桜藍は学校はいけそうか?」


 桜藍は乱れた前髪をいじった。


 「昨日、春馬さんが沢山お話してくれたし、大丈夫です。でも、まだ1人だとちょっとだけ怖いかも。春馬さんに早く帰ってきて欲しいかも……です」


 「分かった。遅くならないようにするよ」


 「うんっ。あっ、ワイシャツを洗ってアイロンしておきました。脱衣所のハンガーにかかってますから」


 「まじ? 悪い」


 なんていうか、うちの妹は恋育する前から初期ステータスが高すぎる。


 「えと、あと。お弁当はあっちにあるので持っていってください! 朝食はテーブルにありますから」


 「あぁ」


 会話がひと段落すると、桜藍は通学バッグを肩にかけて、玄関に向かった。


 「いってきまーす。あっ……」


 「どうした?」


 桜藍が俺の背後に回り込む。

 背中に耳を押し付けているみたいだ。


 「ちゃんと帰ってきてね。ひとりは怖いの」

 声が震えている。


 パタンと戸が閉まり、俺はポツンと1人になった。テーブルの上には、桜藍が並べてくれた皿や茶碗。


 ズズッ。

 ご飯をよそって、味噌汁をすする。


 「この味噌汁、……まじで沁みる」


 温かい味噌汁を飲むと、身体の芯に力がみなぎるのを感じた。俺は目玉焼きと納豆をかっこみ、洗面台で顔を洗った。


 髭を剃って顎に触れる、

 ツルッとした感触。


 洗面鏡にうつる自分は、いつもよりも少しだけマシだった。


 「そろそろ出る時間だ。ワイシャツにアイロンしてくれたんだっけ」


 脱衣所に行くと、ハンガーにワイシャツがかかっていた。襟と袖は綺麗になっているが、背中に皺が集まっている。


 「早起きして頑張ってくれたのかな」


 ワイシャツに袖を通すと、微かに林檎の香り。袖の奥は、まだ少しだけ温かかった。


 ジャケットを羽織って、玄関に鞄を置く。


 「あれ? 革靴が光っている」

 

 俺は、誰もいない廊下に振り返った。

 この言葉、きっと学生の時以来だ。

 

 「……行ってきます」

 


 ♦︎

 

 ガタン。


 電車の吊り革を持ちながら、スマホを開いた。


 「飯島の会社、たしか不動産業だったよな。一応は調べておくか。たしか会社名は……」


 友人が立ち上げた会社なのに、ほとんど知らない。前に誘われた時も調べすらしなかった。


 「えっと、会社概要は……。は? 従業員800人!? 年商350億円? 設立してから5年やそこらの会社だぞ?」

 

 飯島の会社が順調なことは聞いていた。


 「飯島のやつ。大学にもマトモに来なかったのに。大出世じゃないかよ」


 俺の胸の中は激しくザワついた。


 調べなかったんじゃない。俺は飯島の仕事のことを知りたくなかった。


 俺はスマホの画面をスワイプした。

 「もう十分だ」

 

 トピックス欄には『当社が特集されました』の文字。


 「『新進気鋭の企業』ランキング入りだってさ。……ははは。すげーわ」


 俺はネクタイを締め直した。


 まさかここまでの会社だとは。内心、面接なんて適当でも受かると思っていた。


 「ここ、本来なら俺なんて面接すら受けられない会社だ」


 飯島は設立直後にも誘ってくれていた。もし、あの時、飯島の誘いを受けていたら?


 俺も今頃は取締役とかになってたのかな。


 でも現実の俺は、全然違う。


 無職の彼女なし。

 

 遺産の通帳も、270,693円。

 妹との生活費にも事欠くような男。


 俺は苦笑した。


 電車の車内アナウンスが流れた。

 『間もなく、桜木町、桜木町。右側の扉が開きます。ご乗車のお客様は』


 電車を降りた。

 飯島の会社は横浜にある。


 「ここか」

 建物の目の前で、俺は空を見上げた。 


 ピカピカで巨大なオフィスビル。

 俺のいる場所は日陰になっていて、逃げ出したい気持ちになった。


 エントランスには外国人が沢山いて、英語の商談が聞こえてくる。俺が勤めていた小さな雑居ビルの会社とは大違いだ。


 俺がここで働く?

 想像できない。


 「ははっ。ここ、俺にはきついわ。帰ろうかな……」


 すると口の開いたバッグから、ピンクの巾着が見えた。桜藍が作ってくれたお弁当。


 「まだ働いていないのに。でも、サンキュー」


 桜藍が早起きして準備してくれたのかと思うと、胸が温かくなる。


 「やれるだけやってみるか」

 俺はエントランスに足を踏み入れた。



 ♦︎



 俺は受付で案内された廊下で待っていた。

 

 クリーナーの匂い。

 どこからか、英語が聞こえてくる。


 口の中が乾く。

 俺はペットボトルのお茶を口に含んだ。


 「ヤベッ」

 指が震えて、ペット蓋がコロコロと床に転がった。

 


 「どうぞ」

 中からの声。


 (飯島の声じゃない)


 部屋にはいると、メガネの男性が座っていた。品のいい上質そうなスーツを着ている。


 男性は俺の顔を見るなり、言った。


 「山路君だね? 久しぶり」


 俺はその顔に見覚えがあった。


 この男は杉山元吾(すぎやまげんご)

 大学の同級生だ。


 ごくり。

 唾を飲み込んだ。


 コイツだけには会いたくなかったわ。


 

 


 

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