第31話 連絡。
メモの期限の2週間まで、あと1日。
1週間くらいした頃、1人だけ連絡があったが、賃料相当額の請求はしないと伝えると、残置物の処分に同意してくれた。
メイファの元にも、誰からも連絡がないらしい。これで形式的には、落札者としては、できることはしたことになる。
裁判所は自力救済を嫌う。
締め出したとなると、訴訟になったら負けかねない。
俺は念のため、残置物について法務に確認してみた。
「現住者の同意があれば問題ないですよね?」
「現占有者の包括同意? ダメダメ。残置物を処分するなら、前オーナーの同意書をとってきてください」
電話口の担当者は、面倒そうにそう答えた。
そんな訳で、俺もこの2週間遊んでいた訳ではない。登記簿上の権利関係から遡り、なんとかこのマンションの前オーナーにたどり着くことができた。
「えっ、そんなことにナッテタノ!? 全然シラナカッタ。ワタシ、今、アメリカにいるよ」
電話に出た前オーナーは、のほほんとしていた。
本人はアメリカ留学中で、現地で楽しく過ごしているらしい。この物件のことは知人に任せていたらしく、その人のローン滞納により今回、競売に掛かることになったらしい。
その知人には連絡が取れなかった。
在留外国人界隈では、よくあることなのかも知れないが、あまりの適当さに話していてイライラした。
前オーナーから残置物放棄の了承をとることができたので、そこはまぁ、良しとしよう。
国際郵便なので時間がかかるが、問題がなければ、あと1週間もあれば同意書が届く予定だ。
あくまで、約束通りに送ってくれれば……だが。
♦︎
「よぉ、山路くん。順調かね? 君のおかげで、わたしは昇進できそうだよ〜♪」
通りがかりの部長に肩を叩かれた。
部長の足取りが軽い。
俺の物件は、かなりの売却益が見込めるらしく、部長はご機嫌だ。
嫌われなかったのは良かったが……。
まるで、この案件がコケたら昇進もなくなりそうな言い振り。
完全なるフラグだ。
たのむから、そういうのはやめて欲しい。
あぁ、胃がキュルキュルする。
ほんと、このまま何事もなくいってくれれば良いのだが。
俺はまたキーボードを叩き始めた。
ピピピピッ。
見計らったように非通知の着信。
イヤな予感しかしない。
電話に出ると、周りがガヤガヤしていた。
(外か?)
耳をつんざくようなカタコトの日本語。
「アナタ、ワタシはデテイカナイヨ!」
ざらざらした男性の声だ。
「いや、私どもは正当な権利者でして……」
「ハ? そんなことシッタコトじゃない! NPOの理事長サンにイワレタ。でていく必要ないとイワレタ!」
野太い声で、そうまくしたてられた。
退去拒否だ。
こっちにはもう実弾(予算)もない。
しかも、NPO?
へたしたら、振り出しに戻されるぞ。




